代表デビューから2年の25歳が肌で感じる「世界」と「日本」

 9月20日ラグビーワールドカップ2019日本大会が、いよいよ幕を開ける。夏季オリンピックサッカーワールドカップと並び、世界3大スポーツイベントと称され、海外から約40万人のファンが4年に一度の祭典を楽しむために日本を訪れる見込みだという。ホスト国の日本はジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)の指揮の下、史上初のベスト8入りを目指し、“勝てる“チームを積み上げてきた。

 大一番を前に、チームの仕上がり具合を測る場となったパシフィックネーションズカップ(PNC)では、初戦のフィジー戦(釜石)で抜群のディフェンスからスピード感溢れるオフェンスに繋ぎ、34-21で勝利。2戦目となったトンガ戦(花園)では41-7と圧勝し、“勝てる”チームの片鱗を見せた。

 ラグビーでは、当該国の国籍を持たなくても、両親もしくは祖父母の1人が当該国で出生している選手、プレーする時点の直前まで36か月以上継続して当該国を居住地としていた選手であれば、代表チーム入りすることができる。そのため今回の日本代表チームも、FW陣を中心に屈強な体格を持つ海外出身選手が名を連ねる。その中でも一歩も引かぬアグレッシブプレー存在感を光らせるのが、バックローと呼ばれるFL(フランカー)やNO8(ナンバエイト)を務める姫野和樹(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)だ。

 日本代表デビュー2017年11月4日オーストラリア戦だった。以来、代表として研鑽を重ねた日々は「濃い2年間」だったという。「25歳なんですけど30歳くらいになったんちゃうかな?って思うくらい年取った感じがする(笑)」と破顔するが、子供の頃から夢見た桜のジャージ。「その夢が叶っているわけですから、すごく充実していますよ」と声を弾ませる。

 この2年で大きな自信を身につけた。日本代表として戦うテストマッチはもちろん、代表選手を中心に構成されるサンウルブズやウルフパックの一員として海外チームと対戦。かつて日本はフィジカル面で不利とされてきたが、海外選手との肉弾戦を重ねた姫野は「日本人でも全然フィジカル的に負けていない」と言い切る。そればかりか「強みに変わりつつあるんじゃないかという風に思っています」とも続けた。「自信を持って臨むために、プロセスが大事だし、結果が大事」。身体に染み込ませた1つ1つの経験と手応えで得た自信のおかげで、今では「ワールドカップが楽しみ」と思える余裕が生まれた。

トヨタ自動車に入社直後にキャプテン就任「めちゃくちゃ大変でしたよ(笑)

 FLやNO8というポジションは、スクラムラインアウトセットプレーからいち早く飛び出して相手にプレッシャーをかけたり、サイドアタックを仕掛けたり、激しいタックルボールを奪い返したり、相手に捕まった味方選手のサポートに行ったり、パワースピードに加え、瞬時に適切な状況判断をする能力が求められる。このポジションを究めるためにも、姫野は普段から「物事の本質を見るようにしています」という。

「何か問題が起きた時に、しっかりと本質を見て、何が必要で何がダメ、じゃ次は何をしようっていうことを、すごく考えられるようになりました。グラウンドでプレーするのは選手だけで、監督やコーチがいるわけではない。試合中の問題解決は、選手が瞬時に判断していかないといけないですから。トヨタではキャプテンもやっているんで、そこは意識するところですね」

 愛知県の春日丘高から強豪・帝京大に進んだ姫野は、大学卒業後に地元・愛知に拠点を置くトヨタ自動車ヴェルブリッツに加入した。だが、入社から1か月ほど経ったある日、就任間もないジェイク・ホワイト監督から、まさかのオファーを受けることになる。南アフリカ代表を率いて2007年ワールドカップを制した名将は、姫野にキャプテン就任を打診。大学を卒業したばかりの22歳は、これを引き受けた。

「めちゃくちゃ大変でしたよ(笑)。本当に社会人になって、すぐの話。社会人という新しい環境に慣れるだけでも必死な状態でしたし、トヨタラグビー部)の文化も分からない。何も分からない状態で大役を任されたんですけど、本当にその1年はしんどかったです。でも今思うと、あの1年があったからこそ、今の自分がいるんだと思います。むちゃくちゃ大きな経験でした」

 自分より年上のチームメートたちに認めてもらうためにも、トヨタの“顔”として外に出ても恥ずかしくないキャプテンになるためにも、姫野は人としての引き出しを増やすことにした。実際に何をしたのかというと、本を読みまくった。

トヨタの代表として人前で話すこともたくさんあるので、知識を増やしたいなと。また『自分はこの物事に対してこう考えているけど、違った見方をする人はいるのかな』と感じた時にも読みます。例えば、僕はリーダーシップについてこう思うけど、他の人はどうなんだろう?とか。他の人の考えを本で読んで取り入れることもありますし、合わなかったら一意見として参考にして。自分が成長する上ですごくプラスになると思ったので、本をすごく読むようになりました」

姫野が語るラグビーの魅力「試合中にあれだけ激しいことして、殴り合いもしているのに…」

 最初に読んだ本は「海賊と呼ばれた男」(百田尚樹著)。出光興産創業者の出光佐三モデルとした主人公・国岡鐡造の一生を描いた小説に「リーダー像がカッコいいなと思いましたね。すごく面白かったです」と声を弾ませる。この1冊をきっかけにリーダーシップ論について説く本や自己啓発本、小説などジャンルは問わず読書を続けている。最近読んでいるのは、同じく百田氏著の「日本国紀」だ。これを選んだ理由は、ある人物のアドバイスからだった。

「代表チームにいるメンタルコーチが『己を知る、先祖を知ることが強さに繋がる』という話をしていたんです。日本人はどういう種族なのか、どうして日本人の勤勉さや真面目さ、礼儀正しさが生まれたのか、どういう歴史が背景にあるのか。それを考えた時に『日本国紀』という本がいいかなと思って読んでいます。日本人は昔から続く育ち方や文化があるから、今の強さに繋がっていると思うと、すごく誇らしく思うし、もっと強くなった気がしますね」

 日本人であること、日本が持つ文化を誇りに思う姫野は、ラグビーの文化もまた愛してやまない。ラグビーは独自の文化として、試合後に「アフターマッチファンクション」という両チームの選手やスタッフ、レフェリーが参加する交歓会がある。軽食を楽しみながら、「ノーサイド」の精神に則り、「あのタックルにはやられた」「あのトライは最高だったな」といった具合に、敵味方関係なくお互いを称え合う場だ。ラグビーが持つ独自の文化に話が及ぶと、姫野は目に星のような輝きを浮かべながら、少年のような笑顔を見せて言った。

「本当にラグビーというスポーツが面白いって純粋に思いますし、ラグビーの文化が好きですね。仲間を大切にするとか、規律を守るとか、相手をリスペクトするとか、そういったことを公言しているスポーツはなかなかないと思います。試合中にあれだけ激しいことをして、殴り合いもしているのに、試合が終わったら一緒に酒を飲むとかね(笑)ファンも敵味方関係なく一緒になって飲みますよね。そういうのがラグビーの魅力だと思うし、好きなところですね」

 試合が終わってしまえば「仲間」となれる文化が、全世界でラグビーが愛される理由なのだろう。9月20日から始まるワールドカップでは、姫野ら日本代表が大きく躍動する試合を、日本人ファンと海外からのファンが肩を組み合いながら応援する姿がそこかしこで見られるかもしれない。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

日本代表FWの姫野和樹【写真:mika】