現行法では同性婚が認められていない中、アメリカで結婚し、日本で7年にわたり同居していた女性の同性カップルが「事実婚」として認められるのか争った裁判で、画期的な判決が下された。

元パートナー女性と第三者の男性の不貞行為によって、事実婚関係が破綻したとして、30代女性が2人に約630万円の損害賠償を請求していた訴訟で、宇都宮地裁真岡支部(中畑洋輔裁判官)は9月18日、元パートナー女性に対し、110万円を支払うよう命じた。

判決では、「価値観、生活形態が多様化し、婚姻を男女間に限る必然性があるとは断じ難い状況となっている」とし、同性カップルの事実婚にも「実態に応じて一定の法的保護を与える必要性がある」と判断。被告女性の不貞行為を認め、慰謝料を支払うよう命じた。

原告代理人の白木麗弥弁護士は同日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見、「一歩踏み込んだ画期的な判決。うれしく思っています」と語った。

●「婚姻を男女間に限る必然性があるとは断じ難い状況」

白木弁護士によると、2人は2010年に同居を開始、2014年にアメリカで結婚式を挙げた。2015年には、国内で人前式も行なっている。被告女性が子育てを希望したため、SNSで募った第三者の男性から精子提供を受け、被告女性は人工授精を行なった。

しかし、2017年に被告女性と第三者の男性の不貞行為が発覚、原告女性との関係が破綻した。その後、被告女性は男性の子を出産。また、男性はトランスジェンダーだったため、性別適合手術を受けて、現在は女性への性別変更が認められているという。

訴訟で、原告側は同性事実婚であっても異性カップルの事実婚同様、法的保護を受けるべきだと主張していた。一方、被告側は同性婚については現在、法整備がされておらず、同性事実婚についても、貞操義務や法的保護に値する段階にないとして、全面的に争っていた。

判決では、同性カップルが事実婚(内縁関係)として法的保護を受けるかについて、次のように判断(一部を要約)、原告の主張の一部を認めた。

「内縁関係は、婚姻関係に従じる者として保護されると解され、現在の我が国においては、法律上男女間での婚姻しか認められていないことから、これまでの判例・学説上も、内縁関係は当然に男女間を前提とするものと解されてきた。

しかしながら、最近は価値観や生活形態が多様化し、婚姻を男女間に限る必然性があるとは断じ難い状況となっている。海外では同性婚を認める国も存在し、日本でも同性間の関係を公的に認証する制度を採用する地方自治体が現れてきていることは、公知の事実である。

かかる社会情勢を踏まえると、同性カップルであっても、その実態に応じて、一定の法的保護を与える必要性が高いということができる(法律上、婚姻届を提出したくてもそれができない同性婚の場合に、およそ一切の法的保護を否定することについて合理的な理由は見いだし難い)」

●「同性婚法制化の突破口に」

また、続いて判決では同性婚についても触れ、「憲法24条1項が『婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」としているのも、憲法制定時は同性婚が想定されていなかったからにすぎず、およそ同性婚を否定する趣旨とまでは解されないとして、一定の法的保護を与えることは憲法違反ではないとした。

判決を受けて、原告女性の代理人である白木弁護士は、「一歩踏み込んだ画期的な判決」と評価し、「同性カップルの内縁関係についても、実態に応じて一定の法的保護の必要があると認めてくれました。これは、争点の中心でありましたので、うれしく思います」と語った。

現在、同性婚の法制化を求める訴訟が全国の地裁で起こされているが、白木弁護士は「第一審ですが、踏み込んだ判決を書いた背景には、立法を促しているのではないかと思っています。この判決をきっかけに、同性婚についても突破口になれば」と話した。

原告の女性は白木弁護士を通じて、次のようにコメントを寄せている。

「被告らは、アメリカでの結婚登録、そして、日本での披露宴を行なった私と元妻との関係について、『単なる同性カップルであり、保護に値しない』との姿勢を貫いていました。彼女と過ごした期間が、単なるカップルではなく、事実婚として認められ、私の人生の一部が認められたと救われる思いです。

彼女たちから『法令がないので無駄』と言われたことや、不貞行為そのものは一生、許せません。しかしながらこの判決後は、同じような事例で泣き寝入りする人が減ると思うと大変、うれしく思います」

同性カップルの事実婚も「法的保護」認め、不貞行為の元パートナーに賠償命令…原告側「画期的な判決」