米ヴイエムウェアは8月25日から29日まで、米サンフランシスコで年次イベントの「VMworld 2019」を開催した。目玉となったのは、主力製品の「VMware vSphere」に、コンテナ管理技術のKubernetesを統合するという戦略発表だった。仮想マシン(VM)の基盤でトップの同社が、次世代の仮想化技術であるコンテナでも勝利を目指すというシナリオはわかりやすいが、これは単に技術の世代的な変化を意味するものではない。ヴイエムウェアが誰を顧客ととらえ、どんな文化にコミットしていくか、同社のアイデンティティにとっても大きな転換点となりそうだ。(取材・文/日高 彰)

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●「VMとコンテナを統合できるのはヴイエムウェアだけ」



 「世界の企業のワークロードの約半数はVMwareの上で稼働している。当社は、世界の何十万という組織がユーザーであるこのプラットフォームを、“Kubernetesフレンドリー”にしていく。これは他社には真似できない仕事だ。vSphereとKubernetesをシームレスに統合できるポジションにいることは、当社にとって大きな差別化要素となる」

 VMworld 2019の会期中、ヴイエムウェアのパット・ゲルシンガーCEOは、当初予定されていなかった日本からの報道陣のインタビューに応じ、Kubernetes市場において同社は最も有利な立ち位置にいることを強調した。

 「アプリケーションのポータビリティー」「負荷に応じてリソースを可変できるスケーラビリティー」「ビジネス部門の要求にタイムラグなく対応できるアジリティ(俊敏性)」――ハイブリッド/マルチクラウドの重要性が叫ばれるようになって以来、大手IT企業は、今後のITインフラに求められることとして、ほとんど誰もがこのような要件を挙げる。それを具現化するためのアーキテクチャーとしてのコンテナと、コンテナを運用するためのデファクトスタンダード技術であるKubernetesがもてはやされるようになって久しい。

 誰もが同じテクノロジーに注力しようとする中で、ヴイエムウェアの強みは何なのかを尋ねた質問に対するゲルシンガーCEOの回答が、冒頭のコメントだ。言うまでもなく、同社はエンタープライズワークロードを動かすプラットフォームとしてデファクトスタンダードの地位にある。また、最近では大手パブリッククラウド各社とパートナーシップを組み、VMware環境をクラウド上で利用できるサービスを推進。AWS、Azure、グーグル・クラウド、IBM Cloudなど、主要なパブリッククラウドはすでにVMware Readyな状態になりつつある。オンプレミスからプライベートクラウド、パブリッククラウドまで、最も広い範囲に一貫性をもつプラットフォームを提供できるのはVMware製品/サービスであり、それがKubernetesにネイティブ対応すれば、VMwareはVMだけでなく、Kubernetesの環境としても最も多くの企業に使われる存在になれる。ゲルシンガーCEOの描く青写真は明解だ。


●管理者と開発者の架け橋になれる存在



 しかし、Kubernetesは元々グーグルが自社のサービス運営の効率化を目的として開発した技術であり、オープンソースプロジェクトとして公開されているソフトウェアだ。一般企業のIT管理者が扱うのは難しいが、その課題に対する製品としては、言わば商用版のKubernetesであるレッドハットの「OpenShift」が、世界で1000社以上の企業に導入されている。また、主要なパブリッククラウド事業者は、Kubernetes環境をマネージドサービスとして提供しており、これを利用することでクラウドネイティブアプリケーションを迅速に投入し、サービスを立ち上げることができる。

 対して、vSphere上でKubernetesをサポートするというヴイエムウェアの製品計画「Project Pacific」は、まだ技術プレビューの段階。同社は昨年、グーグルでKubernetesのプロジェクトを立ち上げ時から率いたスターエンジニア、ジョー・ベタ氏が創設したHeptioを買収するなど、Kubernetesへの投資を大幅に強化したが、コンテナがまだ未成熟な市場であることを割り引いても、若干の出遅れ感は否めなかった。

 近い将来、コンテナでも業界トップに躍り出るという目論見は成功するのか。勝率は読めないが、今回のVMworldで印象に残ったのが、ゲルシンガーCEOを始めとする同社幹部が繰り返し「管理者と開発者の架け橋になる」といった表現を用いていたことだ。

 IT管理者は、セキュリティや可用性など、インフラの管理・運用に関する業務は、コンテナの時代になってもできるだけ従来の考え方で行いたい。それに対して、アプリケーション開発者は、インフラの存在すら意識することなく、コードを書くことのみに集中したい。Project Pacificは、単にKubernetesのオンプレミス版を提供するのが目的なのではなく、vCenterをベースとしたインフラの運用管理を継続しながら、開発者が求める理想の開発環境を企業の内部にも実現することを目的としている。「架け橋」というのはこのような意味だ。

 また、Kubernetesプロジェクトのコントリビューターとして、同社はトップ3に入る貢献をしているという。プロプライエタリな部分が大きいvSphereを主力としていた同社が、今や開発リソースの多くをオープンソースに投入していることも、転換点の一つである。同社にオープンソース文化を根付かせる責任者として約3年前に招かれたダーク・ホーンデル氏は「ここ数年で発表内容のトーンが変わり、当社はエンタープライズオープンソースベンダーだと自認するとともに、開発者のほうを向くようになった。管理者と開発者の両方が自分の好きな環境を使い、作られたサービスに対して責任を持つことができる」と説明。管理・運用のためのツールと考えられていたVMwareだが、アプリケーション開発者にとっても有益な製品であるというメッセージを、今後は発信していきたいとした。
米サンフランシスコで「VMworld 2019」を開催