TVアニメ彼方のアストラ」を盛り上げるためのキャストスタッフによるリレー連載。最終回ゲストは、安藤正臣監督とシリーズ構成海法紀光さんです。ついにゴールへ辿り着き、新たな人生が始まることになったカナタたち。最終話アフレコ直後、おふたりに率直な感想を語ってもらいました。

TVアニメ「彼方のアストラ」より

――最終話アフレコお疲れ様でした。アフレコが終わっての率直な感想を聞かせていただけますでしょうか。

海法 とても前向きな結末ですが、旅立ちで終わる話はやっぱり寂しいですね。カナタたちが遠くへ行ってしまったんだなと、旅立つ人を見送ったような気分です。

安藤 我々スタッフキャラクターのことを考えながら制作しているんですが、声優さんの芝居が入ることでさらにキャラクターの立体感が出てくるので、そこで初めて気付くキャラクターの魅力も多いんです。「そういうキャラクター像だったのか」、「そういう気持ちの流れだったのか」と、特にこの現場は新たに気付かされることが多かったですね。本当にキャストの皆さんに感謝したいです。

海法 いいセッションを見せていただきましたし、キャラクターが生き生きとしていました。

安藤 この作品にはどんな逆境も乗り越えていくキャラクターの元気さ、若さがあるんですが、アニメを作っている我々はつねに元気でいられるほど若くはないので(笑)。その明るさ、元気さの表現はキャストさんたちが担ってくれました。

海法 その通りですね。僕はキャスティングには関わっていないんですが、漫画を読んでいるときに鳴り響いた声はもっと落ち着いたイメージだったんです。でも、細谷(佳正)さんをはじめとするキャストの皆さんがパワーをたっぷり込めてくれて、これが「彼方のアストラ」の明るさなんだと気付かされました。

――最終話シナリオを考える上で、どんなことを大切に描こうと思いましたか?

海法 この作品はカナタたちが軽やかに未来に向かっていくという結末を迎えます。カナタたちの背中がとても眩しく感じるんですが、アニメにする上ではその背中を見つめる大人の視点も描いておこうと思いました。というのも、ウルガーの父親であれポリーナであれ、大人たちの過去に対する向き合い方って、どこか共感できてしまうんです。過去に囚われているところも、過去を教訓としようとするところもそうです。それに、過去に向き合う大人を描くことは同時にカナタたちの進む未来にも繋がっていくだろうと。

安藤 過去を踏まえることが未来の視座に繋がる、ということですよね。

海法 それが出ていたら嬉しいですね。

安藤 自分は子どもっぽい精神構造なのか、つい無軌道に無担保に未来ばかりを描こうとしてしまって(笑)

海法 これはカナタたちの物語なので、過去にこだわらずどんどん突っ走っていいと思いますよ。

安藤 でも、海法さんが原作にある「過去の歴史を知ろう」という視点を大事にしてくれたおかげで、いいバランスになりました。

――最終話アニメオリジナルシーンがたくさん追加されているのが印象的でした。

海法 第12話はある種のエピローグなので、もともと余韻をたっぷり持たせたいと希望していたんです。旅の途中はどうしても進行優先になって切り詰めてしまうので……。

安藤 アニメ化するにあたって基本は原作通りという路線で固まっていましたが、もし何か膨らませる要素があるとすれば最終回付近だろうという意見は、初期の話し合いでも出ていたんです。例えば、B5班の親の問題と解決は膨らませたらもっと面白くなるんじゃないか、と。とはいえ「彼方のアストラ」は尺との戦いでもあったので、構想したものの実現しなかったアイデアがいっぱいありましたね。

海法 第12話は、惑星アストラの今後がどうなっていくのかを掘り下げるのも面白いのではないかということで、ジャーナリストになったウルガーの視点で惑星アストラを語ってもらうというアイデアもありましたよね。

安藤 まだ最終話が1時間になると決まっていなかったときのアイデアですね。このボリュームを30分にまとめるにはどうすればいいか考えたときに、せっかくジャーナリストのウルガーがいるんだから彼の視点でまとめてもらおうと(笑)

――前半では、アストラ到着前にB5班のみんなが写真を選ぶシーンがありました。

安藤 嘘の歴史を与えられたカナタたちが自分たちの歴史を紡ごうとしていくわけですが、それをどう表現するか考えたときに、B5班が撮った写真を使おうというアイデアが思い浮かんだんです。あの写真は、お仕着せがましい偽りの情報ではなく、本人たちが経験した自分たちだけの歴史という意味合いがありました。つまり、あの写真を選んでいるシーンは自分たち特有の歴史を作っている最中だったんです。みんなの積み重ねた経験値、思い出という歴史が問題解決の糸口になり、あのメールに繋がっていくようにしました。

――ウルガーとゲルトの面会シーンはどのようなアイデアから生まれたのでしょうか。

安藤 カナタたちが新天地を目指して出発するというラストがあるので、カナタ、ザックシャルスは最後まで出すことができない。だったら、その手前で一番稼働力があるのはウルガーだという話になって、ウルガーを中心に動いてもらうことになったんです。

海法 クローンが帰ってきたあとの親の反応を見たいという理由もありましたね。

安藤 そうですね。原作でリアクションがあったのはノア王ぐらいでしたし、ほかの親たちは捕まったという情報はあっても誰も喋っていなかったので。それに、クローンとして産み落とされた子どもたちが、親との関係に決着を付ける展開を一視聴者として見てみたかったんです。それがDパート冒頭のウルガーとゲルトのやり取りに繋がりました。

――まさにクローン子どもオリジナルの親から自立する瞬間ですよね。

安藤 クローンオリジナルの関係は、「彼方のアストラ」という作品の立ち位置とも関係しているのではないかと感じたんです。B5班のメンバーって、いわゆる「(週刊少年)ジャンプ」作品の中でも類型的なキャラクター造形をしています。ヒーローのカナタがいて、理屈屋のザックがいて、ひねくれたウルガーがいる。似たキャラクターは「ジャンプ」作品でいくらでも挙げられますし、「努力、友情、勝利」という方程式もある。じゃあ単純に他作品のクローンなのか、模倣した作品なのか、というとそうではない。単純な量産ではなく、ほかの「ジャンプ」作品のやり方を継承しつつもオリジナリティを持っているんです。最初に原作を読んだときに「過去の作品を引き継いではいるけれど、独自の魂とプライドがあるんだ!」という主張を感じて、その主張をこのTVシリーズテーマにしたいと考えました。

海法 効率を突き詰めると、いいものをコピーするのが一番早いと思われがちなんですが、それって弱いんですよね。農業でも優良な種のクローンを作って同じ遺伝子を持つ種を撒いていく方法があります。でも、それをやると病気が蔓延したら一気に全滅するんです。もちろん恩恵が大きいからそういうやり方をするんですが、効率だけを追求しすぎるのもリスクがあるわけです。まさにカナタたちと親の関係もそうですし、漫画やエンタメ全般もそうですよね。

安藤 わかり切った展開だと偶発的な驚きもなくなりますからね。でも、「彼方のアストラ」は描き方次第で、驚きはいくらでも与えられるということを示しているなと感じました。「少年、SF、漂流」というジャンルって、最近はあまり見かけなくなった少し古いジャンルではあるんですが、「彼方のアストラ」は見せ方次第でこんなにも面白くなるということを証明している気がしたんです。古いかもしれないし、似たようなものがあるかもしれない。でも、工夫次第で面白くできる。この作品をそう解釈したときにすごく共感できて。第12話の後半はところどころに「古い船」という言葉を入れさせてもらいました。僕にとって「古い船」はこの作品を象徴する言葉なんです。

というのも、アニメ業界の話になってしまいますが、僕らの上の世代には庵野(秀明)監督がいて、庵野さんたちの時点で(似たジャンルからの引用やオマージュを多用する)コピー世代と言われていました。じゃあ、僕らはコピー世代のコピーになるのか、作っているものに意味はないのか、前の世代のものを繰り返し見ていればいいのか。……そんなことはない、と思うんです。我々には我々特有の歴史があって、我々しか見ていない景色がある。「古い船」だろうが、多少似ていようが、自分たち特有の記憶を乗せていくことには大きな意味がある。最終話には、そういう思いも乗せました。

――では最後に、ここまで応援してくださったファンの方に一言お願いします。

海法 作品が出来上がったあとに、我々が言えることってなんだろうといつも思うのですが、この作品においては、カナタたちの旅が皆さんの心に残り、それが皆さんの勇気に繋がっていったらいいなと祈っております。

安藤 アニメ化する上でどうしても切り落としてしまった原作の豊かな部分がたくさんあるので、アニメを見て面白いと感じた方は原作の豊かな描写も楽しんでいただけたら嬉しいです。アニメストーリーの大筋をなぞるような形になりましたが、爽快感を重視した作り方にはしているので、改めて一気に見ていただくとまた違った楽しみ方ができると思います。(WebNewtype・【取材・文:岩倉大輔】)

TVアニメ「彼方のアストラ」より