9月11日から13日、東京・青海の東京ビッグサイト青海展示棟で、「食」関連の6つの専門展が同時開催された。食品メーカーや飲食店など企業向けの展示ブースが揃い、さながら「業界」の雰囲気が漂う。

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 そうした中、「かゆいところに手が届く」ような製品を、技術力などで世に出していることがうかがえる展示ブースがあった。3つほど紹介したい。

エタノールで一気に冷凍し「生」を保つ

 この展示会は「フードシステムソリューション」(同実行委員会主催)、「フードセーフティジャパン」「フードファクトリー」(いずれも食品産業センターと日本食品衛生協会主催)、「フードディストリビューション」(食品産業センターと日本加工食品卸協会主催)、「フードeコマース」(食品イーコマース普及協会主催)、「SOUZAI JAPAN」(日本食品衛生協会主催)の6つの専門展で構成されるもの。出展者数は350社超にのぼった。

 情報通信技術を駆使した製品も多く展示される中、いまも装置、材料、道具といった素手で扱う製品が、食の業界を支えている。

 冷凍システムなどの製品を手がけるテクニカン(横浜市)と、酒類・食品卸売業の伊藤忠食品(大阪市)が共同で展示していたのが、「液体急速凍結機 凍眠(とうみん)ミニ」。テクニカン代表の山田義夫氏と、パティシエの辻口博啓氏が立ち上げたティーカンパニーから2019年6月に発売された。肉や魚からケーキクリームまで、さまざまな食材を急速冷凍させる。

 タンクには透明の液体が入っている。そこにパック詰された水を入れて浸すと、1分ほどでかちかちの氷になった。

「凍結させるための液体にはエタノールを使っています。凝固点が低いため、多くの食品で凍結の適温となる氷点下30度ほどで急速凍結することができます」と、テクニカンの三浦憲二氏が説明する。

「凍眠ミニ」で一気に凍らせたゼリーと凍結庫で凍らせたゼリーの断面を見比べると、明らかに前者のほうがきめ細かい。食材をゆるく凍らせていくと、氷の結晶が大きく育ってしまうため、食材の組織が傷ついたり、ドリップとよばれる味の成分の液体が抜けでてしまう。「凍眠ミニ」ではこれを抑えられるために、生に近い鮮度で食材を凍結させることができる。

 三浦氏によれば、エタノールを急冷の液体に使うアイデアは山田氏が1980年代、食肉業を営んでいた時代に思いついたもの。以来、大きめの「凍眠」を開発・販売してきたが、このたび飲食店などが使いやすい「ミニ」の発売となった。すでに築地の料理店などで使われはじめているという。

はじけまくるフィルム・容器で食品ロス減らす

 一方、ナノテクノロジーなどの技術や薄膜製造装置の販売などを行うSNT東京都千代田区)は、「超撥水・超撥油」の表面加工を施したケーキフィルムやカップなどを展示した。

 同社は、慶應義塾大学工学部の白鳥世明教授らの研究チーム、それに缶詰用空缶や食品用プラスチック容器などを製造販売する大和製罐との共同プロジェクトを進めてきた。ハスの葉が水をはじく表面形態を模倣することで、クリームなどの付着を制御するフィルムを開発した。凹凸構造を複雑化することで、水滴だけでなく油滴でも、表面との接触角が150°以上となる「超撥油表面」を実現した。これをフィルムや紙などに印刷することにより、コーティングさせることができる。

 超撥水・超撥油にすることのねらいとして、SNTの広辻潔氏は「食品ロスの抑制」を挙げる。付着すべきでない容器やフィルムに食品・食材が付着しなければ、捨てるところなく食べられることになる。「それに、使用後の容器は乾いている状態に近くなるので、焼却や再生をするときのエネルギーコストも抑えられます」と広辻氏。ビールの泡立ちなども、きめ細やかさが増すという。きれいに食べられることは、エンドユーザーにとっても気持ちのいいことだ。

 ホールケーキ用フィルムについては、すでに洋菓子などの製造・販売をする会社に採用された。また、市販ヨーグルトのフタ裏にも、同社が他社と共同開発した技術が利用されている。

「コストパフォーマンスのよい製品を目指していきたい。私どもと組んで商品開発をする方をお待ちしています」(広辻氏)

薄いインナー手袋でムレ知らずのスムーズな手作業

 食品・食材を手で扱う作業現場では、衛生管理面からゴム手袋の着用がほぼ当然のこととなっている。だが、ゴム手袋を直接はめると、作業中に手がムレたり、手袋を外すときベタついたりして、これが作業者のストレスにもなっている。

 これに対し、各種手袋の製造・販売などを行うショーワグローブ(兵庫県姫路市)は、ゴム手袋をはめてもムレぬよう、インナーにはめるナイロン・ポリエステルなどの素材の手袋「EXフィット手袋」を開発。この展示会でも展示した。

 以前から食品工場などでは作業者はインナーに手袋をはめ、二重にして作業をしていたが、「インナーの生地が厚いため作業しづらい」といった声が上がっていた。この声を聞いた同社は、網目をより細かくすることで、さらに薄く、手にもフィットする手袋を開発した。また、アウターのゴム手袋の破れをすぐに色で見つけられるよう、「EXフィット手袋」ではブルーとホワイトの2色を用意した。

 同社の北川陽介氏は「インナーをしていても薄いので、作業性が損なわれにくいとお客さまには言っていただいている」と話す。筆者もこの手袋とゴム手袋を二重にはめてみた。ゴムが直接、皮膚に当たってムレていく嫌な感覚は当然ない。グー・パーといった動作もスムーズにできた。

顧客の「我慢」に目を向けた製品開発

 産業界では広く、「顧客満足」に向けて製品やサービスの開発が目指されてきた。一方で、「ここを改善してくれると本当はいいのに」と思いながら、仕方なく既存品を使いつづける「顧客我慢」の側面に目を向けるべきと考える企業の開発者もいる。

 今回紹介した3つの商品・技術は、いずれも「顧客我慢」に手を打ったものともとれる。「鮮度の高い状態で冷凍保存ができない」「フィルム・容器に食材が付いてしまう」「手がムレる、手を動かしづらい」。心ならずも顧客が受け入れてきたこれらの「我慢」が、新製品によって解消される。これもまた、食をめぐるものづくりの大いなる進歩といえよう。

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