人生という名の長い道。子どもには子どもの苦労があるが、成長と共に待ち受ける葛藤と日常はいつまでも単純ではなく、夢は現実に薄められていく。
 そんな人の生き様を、一本の道を歩き続けるローグライクRPGで表現した、笑いとノスタルジーのゲームがある。
 『ヒュプノノーツだ。

 2015年に公開されたスマホアプリで、新作というわけではないが、プレイヤーの心を揺さぶり、強い印象を残す作品だ。
 風変わりなシステムに加え、その物語の描かれ方はあまりに独特で、類似のゲームは他にはない。

 電ファミニコゲーマーはコンシューマーとPCのゲームが中心であるため、ご存じない方も多いと思うが、スマホゲームユーザーの間では今でも語られることの多い作品だ。
 周知させたい名作であるため、この場にて改めて取り上げさせてもらいたいと思う。

 物語は主人公の男性の元に「DPD」と呼ばれる枕のような装置が送られてくるところから始まる。
 ”Dream Play Device”、それは「夢」を見させる装置。

 夢と言っても、不思議の国を冒険できたり、東京の大学に入れたり、魔法少女が出てきたりはしない。いや、魔法少女は出てくるのだが。
 彼が見た夢は、子どもの頃の日常。
 誰しもの幼少期と変わらない、遠き日の記憶である。

 ゲームの舞台は、ただ一本の道だ。できることは「進む」か「戻る」のみ。
 進めば「距離」が増え、戻れば減る。そして「時間」も減っていく。
 制限時間内に一定の距離に達すればクリアだが、進んでいれば敵が現れる。

 最初に現れるであろう敵は、なんと……ピーマン、そしてニンジン
 「好き嫌いする子は悪い子!」のメッセージと共に、幼少時代の主人公にダメージを与えてくる。
 そう、子どもにとってピーマンニンジンは、苦々しい敵なのだ!
 「俺は生まれつきピーマン大好きチルドレンだった」という人も、ここでは嫌いになっておいて欲しい。

 緑黄色野菜を克服しながら進んでいけば、今度はハチや毛虫が現れる。そのうちガキ大将も登場する。
 つまり距離は成長であり、幼子が少年になっていく過程が描かれる。

 敵だけでなく、様々な「試練」も発生するだろう。
 最初は積み木やすべり台。いずれ三輪車になり、ジグソーパズルになる。
 少年には 力・自信・運動・知恵 の4つの能力があり、すべり台は自信で、ジグソーパズルは知恵で乗り越える。
 これらの試練の達成でも、少年はたくましくなっていく。

遊び盛りの子どもたちに「読書感想文」が襲いかかる! 算数や英語など、知恵が要求される敵も現れる。
右の画像は子猫を拾うイベント。この猫は先に進むためのキーになっており、仲間にしないと距離99から進めなくなる。

 しかし、ただ進むだけでクリアできるほど人生は甘くはない。
 むしろ最初のうちは、蓄積するダメージであっという間に倒れてしまうだろう。実際「難しい」という声は多い。
 倒れても夢から覚めるだけなので、また新たに出発すれば良いのだが、レベルや強さは初期状態に戻ってしまう。

 ではどうするのか? 進むのが辛いなら、戻れば良い。
 進むほど手強い敵や試練が出てくるので、ほどよい場所を行ったり来たりして経験を積むのだ。

 夢から覚めた自室の画面には「作戦を練る」というコマンドがある。
 そこでは遭遇済みの敵と試練の、出現距離を見ることができる。
 その数値は正確なデータではなく、実際に遭遇した地点が書かれているに過ぎないが、危険な敵や有利なイベントがどの辺りで出てくるのか、過去の結果を元に推察することができる。
 それを見て、どこで稼ぎ、どこを走り抜けるのか、プランを立てておくと良い。

 常に戦ってばかりでは、すぐに倒れてしまうだろう。
 強い敵、厄介な相手からは逃げることも必要で、そうしたものを経験から学んでいく展開は、ローグライクらしいと言える。

失敗して部屋に戻ったら「作戦を練る」で敵や試練を確認しておこう。
特に状態異常をかけてくる敵には要注意。時には無理に戦わないことも戦術だ。

 進んでいると、たまに「魔法少女マッチのお店」という、場違いな露店に遭遇するだろう。
 ここでは道中で手に入れたお金で、買い物をすることができる。
 回復アイテムの駄菓子、装備アイテムであるおもちゃの他に、お金さえあれば「流し斬り」や「昇り龍」といった必殺技も購入できる。
 いきなり「昇り龍」ってなんだと思うが、主人公は少年だ。中二的で黒歴史的な何かだろう。

 また、プレゼント用のアイテムを魔法少女に贈ることで、好感度を上げて品ぞろえを良くすることができる。
 この好感度は次回以降に引き継ぐことができるので、若干だが攻略しやすくなっていく。

 第一章をクリアすると…… 詳細は省くが、展開が大きく異なる第二章へと移る。
 ここでの主人公の能力は、希望・意地・悲しみ。そこでは幼少期にはなかった葛藤が描かれる。
 アイテムには「甘えたい気持ち」や「心の弱さ」などがあり、手に入れるとむしろ能力が下がる。これらを捨てることで、意地が上がる。

 さらに進めば社交や技術が必要になってくる。
 もう幼い頃のように、単純な身体能力や根拠のない自信では、試練を乗り越えられなくなる。
 ただ、得られる”お金”は増えていくだろう。

制限時間があるため、延々と稼ぐことはできない。店で何を買うかは攻略の要点となる。
最初は苦戦すると思うが、魔法少女の好感度は序盤の方が上げやすく、それは後の章にも継続するので、初期の繰り返しは無駄にはならない。
進んでいると主人公は、ひとりぼっちの女の子と出会うだろう。しかし子どもの頃の思い出は、いつしか忘れてしまうもので……。

 簡素な見た目で、イラストも素朴だが、一度やればそれがゲーム内容にマッチしていることがわかるはずだ。
 そこには派手ではないからこその良さがある。
 ヒューマンドラマの作品だが、笑える要素も詰まっていて、展開に意外性もあり、退屈な内容ではない。

 ゲームとしても歯応えがあり……むしろゲーマー向けの難易度なので、しっかりRPGやローグライクとしての楽しさがある。
 少し人を選ぶ難易度だが、人生は簡単ではないということだろう。
 それに難しい方が、長く楽しめ、達成感も増すはずだ。

 人の営みを描いた、大人にこそプレイして欲しい作品。
 こんなゲームもあると言うことを、多くの人に知って頂きたい。

ヒュプノノーツ

人生をローグライクRPGで描く、心を揺さぶる異色作

(画像はヒュプノノーツ – AppStoreより)

ローグライクRPG
・石乃浦骨董店(日本)
・アプリ無料、アイテム課金あり

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文/カムライターオ

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著者
Ultima Online』や『信長の野望 Online』、『シムシティ4』など、数々のゲームのファンサイトを作成してきた。
iPhone 解説サイト『iPhone AC』を経て電ファミニコゲーマーのお世話に。
シューティングとシミュレーションが特に好き。