映画「ヘヴンズ ストーリー」、「64 -ロクヨン- 前編/後編」、「菊とギロチン」などの衝撃作を次々と生み出している鬼才・瀬々敬久監督の最新作「楽園」が10月18日(金)に公開される。本作は、吉田修一の「犯罪小説集」を綾野剛杉咲花佐藤浩市で映画化。とある地方都市で起きた少女失踪事件と、それから12年後に起こる2つの事件を描いた衝撃のサスペンスだ。本作の公開を記念し、瀬々監督と佐藤浩市とのスペシャル対談が実現!「楽園」の見どころはもちろん、9月22日(日)に日本映画専門チャンネルで放送される映画「64 -ロクヨン- 前編/後編」についてもたっぷりと話を聞いた。

主演映画「64 -ロクヨン-」を「僕自身のテンパり方が半端なかった」と振り返る佐藤浩市

――「楽園」で佐藤さんが演じるのは、小さなすれ違いから集落の人々に村八分にされ、孤独に追い詰められていく男性・田中善次郎。瀬々監督はなぜこの役を佐藤さんにオファーしようと思われたんですか?

瀬々「犯罪が題材になっていますが、実はそこにはピュアな心情があったんだというようなことが伝わる作品を作りたかった。僕が言うのは変ですけど、浩市さんのピュアな部分をいかんなく発揮してもらいたいなと思ってオファーをしました。一見こわもてですが、ピュアな方なので(笑)」

――佐藤さんは、孤独によって壊れていく善次郎を演じるのは難しくなかったですか?

佐藤「どう演じようかと考えているときに、タイトルが『楽園』に決まったんです。そのタイトルを聞いた時に、僕の中でポンと抜けられました。なるほど、楽園ね、と。タイトルのおかげで自分の役が見えたというか、行くべき方向にスッとフォーカスがあったんで、すごく助かりましたね」

瀬々「最初は『Y字路』とか、『悪』という案もあったんですけど、ピンとこなくて…。『楽園』というタイトルにはゴーギャンの絵の『楽園』的な意味合いも含んでいますし、事件とか犯罪ってよりよくありたいっていう思いがねじれて起きるんじゃないかな?と、僕はいつも思っているので。そういったところを託したくて『楽園』にしました。犯罪という題材でありながら、どこかに純粋性というか、透明なものっていうのが伝わるようなタッチにしたかったんです」

――何度もタッグを組まれていますが、監督から見た俳優・佐藤浩市さんの魅力とは?

瀬々「本人を目の前に言うのも恥ずかしいですが…(笑)。浩市さんはものすごくふり幅が広いんですよ。映画をよく知ってるから、こう見せたらいいという“手”も知ってる。でも、ここは手だけじゃだめだ、手を超えないといけないなっていうこともよく分かってるんですよ。手だけを使ってもこのシーンはつまんないなっていうときがあって、その先を追求しようとしてくれる。そのふり幅の広さが一緒にやっていて非常に面白いわけですよ。このシーンはこうしてみよう、という風にいろいろ実験できますし。あまりに実験をし過ぎて、たまに他のスタッフを置いていっちゃうときもあるんですけど(笑)」

佐藤「すいません(笑)」

瀬々「そういうところが浩市さんとやっていて楽しいところですね」

佐藤「それはこちらも同じです。気持ちを持っていたとしても、それが映らない場合があるんですよ。それを映すためにどういうことをするか。いろんなアプローチがあって、監督の場合それがすごく遠くからのアプローチだったりもするんだけど、そこで見えるもの(ふり幅の先にあるもの)が見つかると、ものすごく役者としてはうれしいんです」

瀬々「それと、浩市さんは追い込まれたときにナイーブに内にこもるんじゃなく、ポーンと外向けに解放できる人。その瞬間が面白い」

――では、反対に佐藤さんから見ての監督の魅力とは?

佐藤「『ヘヴンズ ストーリー』でご一緒したときから、瀬々さんの中で対峙したいものがはっきりしていて。瀬々さんの作品は“人”というのがテーマ。『64-ロクヨン-』はある意味プログラムピクチャー(※)だと思うのですが、瀬々さんの中には『ヘヴンズ ストーリー』があれば、『友罪』も『楽園』もある。同じものにならないように(でもテーマを貫く姿勢はそのままで)やるっていうのかな。そういったことを目指されてる。目指してるわけじゃないんだろうけど、そこにいってしまうっていうことに、毎回気付かれながらやってるところじゃないですかね」

※前編・後編に分けた『64-ロクヨン-』は、2本立て娯楽大作

瀬々「面と向かって言われるのは恥ずかしいですね(笑)。犯罪と人間みたいなことはピンク映画のころからやってたんですけど、そういった意味では『64 -ロクヨン-』っていうのは大きな映画の中で初めて犯罪と人間をテーマに撮れた作品だったんですね。題材と自分のやりたかったことが合致したというか。自分にとっては非常に大切な作品でもあるし、それでなんとなく自分のフォームというか、軸が決まってきた感じも自分の中であるというか。『友罪』とか『楽園』につながっていくことができたっていう気がしています」

――そんな映画『64 -ロクヨン-』が日本映画専門チャンネルで9月22日(日)に放送されます。あらためて振り返って、どんな作品ですか?

佐藤「ああいう作品で前後編をやるっていうことで、条件が厳しいなっていう気持ちは正直ありました。その中でしかも座長をやるっていうこと。僕自身のテンパり方が半端なかったですね(苦笑)。そういう意味では瀬々さんにはずいぶん迷惑かけたなって思うんですけど。よく言えば、それも含めての緊張感が映画のテイストにはなったのかな?と思うんですけどね」

瀬々「前編の最後に、浩市さん演じる三上が記者クラブに向かって演説するシーンがあるんですけど、それが前編の見どころなんです。見どころでありながら、ただ人が演説してるだけのシーンが見どころになるのかっていう(笑)。そんな映画あるのか!っていう見せ場になっているので、映画の企画自体がすごくチャレンジングなところがありました」

佐藤「どうしたら演説シーンを見せ場にできるのか。後編につながるジョイントの前の見せ場としてどうするか、という大変さはありましたね」

瀬々「並々ならぬ浩市さんの思いを感じたシーンでもあります。若い俳優は先輩の背中を見たみたいなところがあったと思います」

佐藤「馴れ合いにはなりたくなかったので。若い俳優たちをたきつける部分は当然ありました。記者クラブのみんなも同じ覚悟をもって挑んでくれたからこそ、あのシーンができたと思っています」

瀬々「撮り終わった後に記者役の若い俳優たちから実際に拍手が起こったんですよ。それは今でも覚えていますね。あのシーンは印象深かった」

佐藤「大体そういうシーンが終わると、次の日からホッとできるんですけど、後編の撮影がまだまだ続いていくっていう。そういう意味でメンタルは疲れました(笑)」

瀬々「次々に強敵が現れてくるっていう話でしたから」

佐藤「そうなんですよ。一人倒すとまた次に誰か現れてくる(笑)」

瀬々「そこも含め、ぜひ最後まで目を離さずに見ていただけたらうれしいです」(ザテレビジョン・鳥取えり)

数多くの作品でタッグを組む2人