1980年代から1990年代にかけて起きた関西の演劇ブーム。劇団そとばこまち劇団☆新感線、惑星ピスタチオといった劇団が人気を博し、各劇団が輩出した俳優や脚本家、演出家たちは、現在も多方面で活躍中だ。

【写真を見る】「芝居って、同じ演技でも日によって全然違ってくる」という板尾創路に、西田シャトナーも「そうですね、『失敗した』って落ち込んでたら逆に褒められたり(笑)」

そんな関西演劇界における、新たな才能との出会いを目的とした演劇祭「関西演劇祭2019 お前ら、芝居たろか!」が、9月21日(土)~29日(日)、大阪のCOOL JAPAN PARK OSAKA SSホールにて開催される。

関西を中心に活動する劇団の中から注目の10団体が参加し、開催期間中、オリジナルの演目を上演するという、まさしく“関西の演劇の祭典”。実行委員長を女優のキムラ緑子フェスティバル・ディレクターを俳優・映画監督としても活躍中の芸人・板尾創路が務めるほか、スペシャルサポーター(審査員)として、劇作家・演出家の西田シャトナー、映画監督の行定勲ら、そうそうたる顔触れが集結し、次世代の才能発掘を目指す。毎公演終了後には、公開でティーチインも実施される予定だ。

このたびザテレビジョンでは、板尾創路と西田シャトナーにインタビュー。「関西演劇祭」の見どころを聞くとともに、演劇を愛する二人の熱い思いに迫った。

■ 「芝居にはこんな面白さがあるのか」と感じて楽しめる10日間に

──今回参加する10劇団のうち、お二人がご存知の劇団はありますか?

板尾創路:参加する劇団は、僕が決めたわけではないんですよ。関西の演劇界で活躍されている方々の意見をヒアリングして決めていったので。正直この中で僕が知ってるのは、ザ・プラン9 (※お~い!久馬、浅越ゴエ、ヤナギブソンによるお笑いユニット。2006年には「M-1グランプリ」決勝進出を果たした)だけです(笑)。

西田シャトナー:僕は、どの劇団もお名前と評判を存じ上げている程度です。

板尾:僕も名前を聞いたことのある劇団は幾つかあるんで、実際に見たら、「あ、この人か」って思う役者さんもいるかもしれないですね。

──今回の演劇祭で、お二人が一番期待されていることは?

板尾:僕としては、演劇人や演劇が好きな人、会場にいる人全員が、それこそ“お祭り”のように楽しめたら成功なのかなと思ってます。みんなが芝居を見て、感動したり笑ったり、「このキャラクター、おもろいな」と思ったりしていただければ。ワークショップも企画されてますし、楽しい10日間になったらいいですね。

西田:僕も、板尾さんがおっしゃっる通り、“楽しい祭り”であったらいいなと思います。今回は「観客賞」(※最も観客の人気が高かった劇団に贈られる)もあるみたいですけど、あまり“賞レース”っぽい演劇祭にはしたくないですね。どの劇団が面白いのかを競い合うのではなく、「芝居にはこんな面白さがあるのか」「芝居の面白さにもいろいろあるんだな」ということを、みんなで感じながら、楽しむことができたら。

板尾:で、今後も第2回、第3回と続いて、この演劇祭が年々盛り上がっていけばいいなとも思います。今回はまだ第1回で、正直、僕ら自身もどうなるのかよく分からないんですけど、別に今回の形が正解ではないと思うし、まぁ関西の演劇祭なんでね、ちょっとユルいというか、見せる側も見る側も、言いたいことをざっくばらんに話せる場になったらいいのかなと。

■ 芝居は、見た後の感想を言葉にできない「何ですごいのか分からん」ものほど面白い

──主催がよしもとアクターズということで、一見お笑いのイメージが強いのですが、今回上演される芝居はコメディーだけではないんですよね?

板尾創路:もちろん。いろんなジャンルの芝居が見られると思いますよ。審査基準も、笑いがいっぱいなかったらアカン、なんてことは全くないんで。

西田シャトナー:あと、僕が楽しみにしているのは、上演が終わった後のティーチイン。作品そのものや劇団の面白さはもちろんなんですけど、「この変な芝居は一体どんな奴が作ったんやろ?」みたいに、作り手の人間性も含めて、いろんなことを豊かに知ることができると思うんですよ。

板尾:確かに、芝居が終わった後に関係者がトークするって、あんまりないですもんね。

西田:はい、最終日の上演後にそういう催しをするっていうのはたまにありますけど、毎回、公演終わりでティーチインをするっていうのは比較的珍しいと思いますよ。

──ティーチインでは、例えばどんな人に出てきてほしいですか?

西田:トークの時に、見ているわれわれがどうしたらいいのか分からなくなるような人が出てきたら面白いですよね。楽しみと同時に怖くもあるけど(笑)。

でも往々にして、芝居はすごく華やかなのに、それを作っている人は地味、みたいなケースってよくあるんですよ。逆に、ものすごく真面目な芝居だと思ったら、作った人はめっちゃふざけてる、とか(笑)。そういうふうに、作る作品と距離のある人が出てきたら、ものづくりの奥深さみたいなものを知る機会にもなるのかなと。

──西田さんは今回、審査員も務められますが、どういったことを基準にして審査に臨もうと考えてらっしゃいますか。

西田:芝居は、見た後の感想をどう言葉にしていいのか分からないものほど面白いと思うんです。僕もそこそこ長い間、芝居に携わってきていますが、そんな僕の力では分析できないものほど、評価は高くなるんでしょうね。

板尾:確かに、作品にしろ役者さんにしろ、分析しきれないものというか、「何ですごいのか分からんけど、とにかくすごい」というものと出会いたい、というのはありますね。だから、参加する劇団の皆さんには、置きに行かずに思いっきりやってほしいですね。自分が信じていることを、ストレートにぶつけてほしい。

■ 「板尾さんの演技には“物語”を感じるんです」(西田)

──ところで、お二人は普段、一観客としてお芝居を見に行かれることは?

板尾創路:最近はあまり行けてないんですけど、この前、(東京・新宿の)紀伊國屋ホールで、平田オリザさんの脚本で、映画監督の本広克行さんが演出を手掛けた「転校生」という舞台を見に行きました。

女子校版と男子校版があるらしくて、僕が見たのは女子校版だったんですけど、なかなか面白かったです。言うたら、教室で女子高校生がただしゃべってるだけなんですけど、それがすごく自然で、全体の構成も巧みでね。

西田シャトナー:難しいんですよね、舞台上で自然にしゃべっているように見せるのって。

板尾:そう。かなり稽古をしているなっていうのも感じましたし。

――西田さんは?

西田:僕はこういう仕事をしていながら、そこまでたくさんは見てないんです。どうしても、見に行くよりも自分で作りたいっていうのが先に来ちゃうんですよね。

ただ、ここ3、4年ですかね、改めて小劇場劇団の芝居が面白くなってきている気がしていて。今の時代、興行というものは、商業的によほど知恵を働かせないともはや成立しない。それを承知の上で、今も小劇場で黒字にならないかもしれない公演をやっている若い連中がいるっていうことに、僕はすごく胸を掻き立てられるんですよね。

──少し話は逸れますが、西田さんは、“役者・板尾創路”に対してどんな印象をお持ちですか。

西田:舞台で演技している板尾さんはまだ拝見したことがなくて、映画やドラマでの印象になってしまうんですが…、もう最高ですよね(笑)。

僕は特に板尾さんのコントが大好きで。板尾さんの演技から“物語”を感じるんですよ。佇まいに“文学”を感じるというか。ちゃんと笑いを取りながらも、じんわりと怖かったり、しみじみさせられたり。それこそ、先ほど言った“分析できないすごさ”を感じますね。

──ちなみに板尾さんは、舞台の作・演出をしてみたいというお気持ちは…?

板尾:興味がないことはないんですけどね。舞台の公演に役者として呼んでもらって参加するたびに、作る側の大変さを見ているので、なかなか手を出せないというか。

西田:見てみたいですけどね、板尾さんの作る舞台。

板尾:舞台の作品を作り上げたときの充実感って、すごく大きいんでしょうけど、やっぱりなかなか…(笑)。

■ 友達の家で演し物を見せるような、原初的な面白さが演劇の魅力

──ではお話を本題に戻して、改めてお聞きします。ずばり、演劇の魅力とは?

西田シャトナー:舞台の上で表現する芸術というのは、プロジェクションマッピングをはじめ、最新の表現手法がどんどん出てきているんですね。でも、そんな中で、演劇はいまだに手作りが根幹に残る世界。友達の家のホームパーティーで「演(だ)し物をやるから見てくれ」って言って始めるような、原初的な面白さがあるんです。言ってしまえば、デジタルで音楽を聴けるようになっても、生ギターを弾くのがやっぱり楽しい、というのと同じで、この先どれだけ技術が進んでも、演劇の面白さっていうのはなくならないと思うし、僕はそこに興味があるんですよね。

板尾創路:芝居って、知り合いが出てるからというだけで見に行ったとしても、見ているうちに、知り合いとは別の、全く知らない役者さんが気になってくることもあるじゃないですか。いつの間にか物語に引き込まれて感動することもあるし。

だから、小劇団なんかだと、身内にチケットを売ったりすることも多いみたいですけど、その身内の人が、それをきっかけに芝居そのものに興味を持って演劇ファンになる、という可能性もありますもんね。

西田:そういえば、身内ばかりにチケットを売るのはビジネス的にはアカンと、よく言われるんですよね(笑)。

板尾:まぁ、そうですよね。お客さんの層が広がらないから。

西田:でも、身内しか見に来てない芝居が、めっちゃおもろいときもあるんです(笑)。

板尾:アハハハ。だから、そういうところもいまだにあるのがある意味、演劇の魅力というか。

あと、芝居って不思議なもんで、同じ演技でも日によって全然違ってくるじゃないですか。自己満足で終わってしまうときもあれば、こっちが今いちやと思ってても、意外と受けがいいときもあるし。

西田:ありますよねぇ。演じる側が「あそこは最悪やったな、失敗やな」って落ち込んでたら、「あの演技がすごくよかった」って、めっちゃ褒められたり。その逆もあるから怖いんですけどね(笑)。

■ 演劇人に必要なのは、未来への“願い”と、それを伝える力

──では、演劇人に必要な資質とは?

西田シャトナー:演劇には、見る人に何らかの影響を及ぼす…時には、見る人の人生さえも変えてしまう力があると思うんですね。だからこそ、作り手の中に、未来につながる“願い”がなければいけないと僕は思っていて。作るにしろ演じるにしろ、演劇の技術なんてものは、訓練さえすれば身に付きますし、努力次第では、天才と言われるレベルに到達することもできる。でもそのときに、未来への願いを持っていないと、ちょっと恐ろしいものを生み出してしまう可能性もあると思うんです。

板尾創路:要は、観客に何か伝わるものがあるかどうかだと思うんですよね。シリアスでもコメディーでも、不条理でも、どういう内容にしても、お客さんに何か持って帰ってもらえるものがあるのかどうか。それは「この発想、すごいな」でも、「この俳優さんに釘付けになってしまう」でも、何でもいいし、お客さんそれぞれの受け取り方次第なんでしょうけど。でも、作る側が何にも持ってなくて、役者がただ板の上で演技をしてるだけ、みたいなものだと、こちらは何も受け取りようがないですから。怒りさえも起こらない(笑)。だから、何かを伝えようとする姿勢は、最低限必要なのかなと思いますね。

──最後に、「関西演劇祭」はこういうふうに楽しんでほしい、といったお薦めの観賞法はありますか?

西田:いえ、とにかくもう、自由に楽しんでいただければ。逆に、皆さんがどういうふうに楽しもうと思っているのかを知りたいです(笑)。

板尾:でもほんまに、どういう感じの人が見に来るんでしょうね。各劇団の知り合いも来るやろうし、初めてその劇団を見るっていう人もいるやろうし。あと、お芝居自体を生まれて初めて見るって人も…いるかどうか分からないけど(笑)。

西田:毎公演、2つの劇団が出てくるので、応援している劇団を見に来た人が、そのつながりで、もう一つの別の劇団を見ることになるわけですよね。その、知らない劇団を見たお客さんがどういう反応をするかっていうのは、すごく興味深いです。「あれ、こっちの方が面白いかも」なんて思うこともあり得ますもんね。

板尾:それでも頑なに、自分が応援している劇団しか見ないという人もいるんでしょうけど、それはそれでまた面白いと思いますね。とにかくお客さんには、自由に見てほしいです。(ザテレビジョン

「関西演劇祭2019 お前ら、芝居たろか!」でフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路(左)と、スペシャルサポーターを務める西田シャトナー(右)