2019年8月4日スターダストプロモーション所属のアイドルグループ・私立恵比寿中学(以下、エビ中)が結成10周年を迎えました。令和の初めには、元号の由来にちなんで、過去の楽曲「梅」を現体制でセルフカバーしたミュージックビデオ(MV)が話題を集めましたが、彼女たちはなぜ、今なお愛され続けるのか。筆者の視点から歴史をたどりつつ、その魅力をご紹介したいと思います。

「飛躍を見届けたい」衝動に駆られた

 現在、ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)らを擁するスターダストプラネットの一翼を担っているエビ中。筆者が初めて彼女たちをしっかりと見たのは、2013年7月28日河口湖ステラシアターで開催された野外公演「エビ中 夏のファミリー遠足 略してファミえん in 河口湖」のライブビューイングでした。

 当時は、ももクロが初の日産スタジアムでのライブで6万人を動員するなど“アイドル戦国時代”と称されていた時期。ちょうど筆者も、次から次へと誕生するアイドルグループの存在に心をときめかせながら、ももクロをきっかけにアイドルのライブへ通うようになりつつ、「次、追えるグループはいないか!」と躍起になっていました。

 そのタイミングでふと、足を運んだのがエビ中ライブビューイング。たまたま友人に声を掛けられて付き添っただけで、楽曲も知らないほどでした。そんな状態のため、スクリーン越しにライブを淡々と味わっていたはずの筆者でしたが、彼女たちに心を奪われる瞬間は不意に訪れました。

 ライブが終盤に近づき、ステージ上では、彼女たちにとって初となる年末のさいたまスーパーアリーナでの公演がサプライズ発表されていました。スクリーンに映ったのは、大舞台の決定に抱き合いながら歓喜するメンバーたち。中でも、いまだに忘れられないのは、柏木ひなたさんが涙を流しながら喜ぶ姿で、彼女がアップで映された瞬間、「この子たちの飛躍を見届けたい」という衝動に一気に駆られてしまったのです。

 いったん、心を落ち着かせようとしたものの翌日、リリースされていた音源を買いあさった筆者。以降、2013年12月8日さいたまスーパーアリーナで行われた「私立恵比寿中学 年忘れ大学芸会2013エビ中のスター・コンダクター』」を皮切りに、頻繁にライブへと足を運ぶようになりました。

幾度か訪れた、メンバーの転校と別れ

 エビ中はこれまで、メンバーの転校(卒業)や転入(加入)を繰り返しています。結成初期にも幾度かの変遷をたどりましたが、筆者が見てきた限りで一つの大きな分岐点となったのは、彼女たちが初めて単独で日本武道館へ立った、2014年4月15日の「私立恵比寿中学合同出発式~今、君がここにいる~」でした。

 このライブをもって、結成初期からグループを支えてきた瑞季さん、杏野なつさん、鈴木裕乃さんが転校。一方で、現在もメンバーとして活動中の小林歌穂さんや中山莉子さんもステージに立ち、最初で最後の“11人でのパフォーマンス”を披露していました。

 それから約3年後、転校とは異なる形の“別れ”も訪れました。忘れたくても忘れられない、2017年2月8日に18歳という若さで急逝した松野莉奈さんの存在です。

 筆者が松野さんの訃報を知ったのは、同日の昼ごろでした。その日は朝から仕事が立て込んでいてニュースを見ておらず、休憩時に友人から届いたメッセージを確認したところ、「りななん(松野さんの愛称)が…」と一言だけメッセージがつづられていました。

「転校しちゃうのかな…」と不安を覚えながらも、パソコンで彼女の名前を検索して飛び込んできたのが「逝去」の2文字。目を疑いながらもさまざまな記事を目にして、確信に変わった途端、仕事が手に付かなくなり、それから数日間は、気を抜くと涙が自然とこみ上げてくるほどでした。

 限定アルバム「エビ中のユニットアルバム さいたまスーパーアリーナ2015盤」に収録されている楽曲「できるかな?」は、彼女の生きた軌跡を感じさせる一曲です。

 翌2018年1月3日に行われた日本武道館公演「私立恵比寿中学迎春大学芸会 ~forever aiai~」では、現在、YouTuber「ぁぃぁぃ」として活動中の廣田あいかさんが転校。翌日に同会場で行われた「新春大学芸会 ~ebichu pride~」を境に、現在の構成である6人で活動を続けています。

パフォーマンスの“振り幅”が持ち味

 自身の公演を“学芸会”と称するエビ中は当初、「キレのないダンスと不安定な歌唱力」をうたっていました。ライブの定番曲となっている初期の楽曲「えびぞりダイヤモンド」はそれを象徴する一曲で、当時のMVには、あどけないメンバーのパフォーマンス映像が残されています。しかし、メンバーの経験や努力が実を結び、近年は“実力派集団”と評する声も増えてきました。

 一見、個性が“渋滞”していると思えるほど、バラバラなキャラクターの6人ですが、彼女たちに引きつけられてしまう理由は何といっても、全員がステージにそろった途端、ときには、食って掛かるかのように会場全体を巻き込むパフォーマンスを味わえるからに尽きます。

 エビ中は「対バンやフェスに強い」といわれることもありますが、これも経験のなせるワザの一つ。楽曲「放課後ゲタ箱ロッケンロールMX」や「揚げろ! エビフライ」はテンションを一気に高めてくれる“アゲ曲”の代表例ですが、曲中でジャンプをしたりタオルを振り回したりと、初めて聴くとしても、ステージ上の彼女たちをまねするだけで曲の雰囲気を一瞬でつかめるほどの力を持っています。

 一方で、パフォーマンスの“振り幅”も彼女たちならではの持ち味です。楽曲「使ってポートフォリオ」は、ジャンルに縛られないエビ中を象徴する一曲で、演歌やダンスミュージック、ラップと曲調が目まぐるしく変化しますが、歌い方もテンポもそれぞれのパートで異なるにもかかわらず、柔軟に対応するメンバーの“器用さ”がよく分かります

 さらに、昨年5月に発売された椎名林檎さんのデビュー20周年を記念したアルバム「アダムとイブの林檎」では、カバーアーティストとして「自由へ道連れ」を担当し、アイドル以外のファン層から一定の支持を獲得したのも、大きなトピックの一つです。

各アーティストからの楽曲提供も

 エビ中いい意味で“色のない”グループともいえます。楽曲を聴き比べてみると、その神髄がにわかに伝わってきますが、彼女たちならではの魅力を引き出しているのが、ジャンルもさまざまなアーティストたちの存在です。

 例えば、今年3月にリリースされた5thアルバム「MUSiC」は、通して聴いてみるだけで彼女たちの“振り幅”を味わえる一枚となっています。楽曲の提供者を見てみると、“ファミリー”と呼ばれるファンとの絆を歌い上げたかのような「Family Complex」は、シンガー・ソングライター、岡崎体育さんが作詞・作曲・編曲を担当。

 グループ魂の港カヲルさんのソロアルバム「俺でいいのかい ~港カヲル、歌いすぎる~」でコラボした楽曲のアンサーソング「元気しかない!」は、脚本家・宮藤官九郎さんが詞を寄せるなど、第一線で活躍するクリエーター陣の名前が並んでいます。

 一方で、浮遊感漂うファンクチューン「踊るロクデナシ」には、現役高校生(当時)である新進気鋭の楽曲クリエーター・Mega Shinnosukeさんを起用するなど、過去の楽曲も含めてその時期ごとの新しい才能を発掘し、彼女たちの持ち味をさらに引き出そうとする工夫も目立ちます。

 近年のライブの傾向は、春や秋にツアーを行い、年末にアリーナクラスでの公演を開催するというものですが、ペンライトやコールを禁止して、全席着席指定の静かな空間でメンバーの歌声に耳を傾けられる野外イベント「ちゅうおん」を開催した年もあり、パフォーマンスの見せ方にも工夫が見られます。

 今年は10周年のメモリアルイヤーとして、ゆかりあるアーティストを招いた自身初の主催フェス「『MUSiC』フェス~私立恵比寿中学開校10周年記念 in 赤レンガ倉庫~」を6月に開演。12月には6thアルバム「playlist」のリリースも控えています。また一つ大人になった彼女たちが、新たに追加される楽曲をどう歌い上げるのか、期待しています。

編集者・ライター カネコシュウヘイ

私立恵比寿中学(スターダストプロモーション提供)