9月14日に配信した「田村淳さん慶大院進学に批判コメント殺到、根底に“怒り”が引き起こす情動のパニック」は、ウェブメディア「オトナンサー」からヤフーニュースに転載され、アクセスランキング(雑誌)総合1位となり、3000件近いコメントが寄せられるなど多くの方に読まれました。今回は、前回の記事で伝えられなかったことについて補足したいと思います。

少子化でも大学が増加していく理由とは

 文部科学省の調査によると、2018年から、18歳人口の減少フェーズに移行します。現在、約120万人の18歳人口が、2031年には100万人を切ると試算されているのです。18歳人口の進学率を50%、入学定員を1000名と仮定すれば、大学約100校分の入学者が消えることになります。

 しかし、大学の数だけを見れば今のところ、少子化はその増減に影響を与えていません。2018年時点で、日本の大学数は768校。むしろ、2010年くらいまでは右肩上がりで増え続けてきました。

 学校法人は民間企業と違い、経営が行き詰まったからといって即座に破綻するわけではありません。補助金や助成金などによって守られているからです。今後もそのスタンスが大きく変わることはないでしょう。現在、大学は学生数を増やすための努力として、次のような施策を講じています。

 まず、学生数を増やすための有力な「市場」として、多くの大学が目をつけているのが「外国人留学生」です。日本に学生がいないのであれば、外部から学生を連れてくるしかありません。日本の大学に通う外国人留学生は26万人程度ですが、2020年までに30万人の留学生を受け入れる方針を打ち出しています。

 30万人という数字は、大学生全体の10%強に当たります。これから学生の10人に1人を留学生にしていくのです。少子高齢化が進む中、外国人留学生を増やしていくことは国の重点施策になります。今後、大学のグローバル化が進んでいくのは間違いないといえるでしょう。

大学にとって有望なターゲットであるシニア層

 次に、大学などの教育機関にとって魅力的な市場として考えられているのが、「社会人教育」です。大学は、若者だけを対象とする教育機関ではなく、中高年層の生涯学習の場でもあるというスタンスを取っているからです。

 大学院を例に取ってみましょう。専門職大学院の学生は約2万人います。一方、社会人学生は8000人程度で減少傾向にあります。「キャリアアップのために勉強したい」というニーズはあるものの、受け皿として機能していないことになります。

 社会人が仕事をしながら勉強することは大変ですが、社会人大学には多くのメリットが存在します。学ぶことに対する意識が貪欲になり、目的も明確になるからです。今後、お金と時間に余裕のあるシニア層が増えていきます。シニア層の知的好奇心を満たすようなプログラムを開発できれば、この市場はさらに拡大していくことが予想されます。

 田村淳さんの慶大大学院(KMD)進学について違和感を覚える人がいます。このような人は、国の施策や大学教育の方向性を知らないのでしょうか。同校ホームページには次のような記載があります。一部を紹介します。

「全学生の約40%が世界の様々な地域から来日しており、多様な文化と社会価値を肌で感じることができるダイバーシティ(多様性)がKMDにはあります。入学する学生たちはそれぞれの分野で多様な学びを実践してきており、その多くがすでに社会経験を積んできているなど、異なる専門性が共存しています」(原文ママ

 その上で、学術的な貢献を超えたビジネス展開や提言、グローバルな視点でのインパクトを目標にしています。2008年の設立当初から、グローバルな視点やダイバーシティーを目指していたのです。この方針は、文部科学省や国の方向性と一致しています。これらを先例や規範に照らし合わせれば、淳さんがKMDに進学したことは必然とも言えるわけです。

意欲ある人のために整いつつある環境

 人が生涯にわたり、学び・学習の活動を続けていくことが生涯学習の定義(昭和56年中央教育審議会答申「生涯教育について」)とされています。今後、学びの多様化は、生涯学習のあるべき姿を体現していくことになるでしょう。

 今、意欲ある人が学ぶための環境が整いつつあります。学ぶ権利は誰にでもあります。多くの人は、今回の淳さんの行動についてポジティブに捉えているものと確信しています。もし、批判するだけの心の貧しい人がいるとしたら、それは悲しいことであり、今後の日本が案じられます。研究結果が公の場で発表されることを楽しみにしています。

コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員 尾藤克之

田村淳さん