「路線バス」は、鉄道と並ぶ身近な公共交通機関です。駅まで、学校まで、会社まで、普段利用している人は多いことでしょう。都市部ならば1時間に数本、人里離れた山間部などの路線であっても数時間も待てば多くの場合、バスはやってきます。

【写真21枚】週に1本だけのバスから見た景色

 しかし「1週間に1本(!)」という路線バス神奈川県平塚市にあります。もし乗り遅れたら「来週まで来ない」。ひぇぇ……ウソだろ。そんなバスが神奈川県にあるだなんて。

 神奈川県平塚市は人口約26万人のかなり大きな市ですが、週に1本という路線バスにどんな需要があるのでしょうか。そもそもどんなバスなのでしょうか。実際に乗って確かめました。

●「週1本しか運行しない路線バス」果たしてどんなバスなのか

 JR平塚駅の東口は、12の乗り場がある大きなバスターミナルがあります。今回乗車するのは神奈川中央交通神奈中)の「平44」系統。3番乗り場から出発します。

 現時刻は日曜日の朝6時30分。この平44系統は「休日ダイヤ6時40分発の1本」しか運行していません。あ、分かりやすく週1本としましたが念のため、休日ダイヤ日曜日と祝日に運行するものなので、月曜日が振替休日の場合は2日連続で運行されます。

 出発3分前。いよいよバスがやってきました。 乗客は4人。バスは定刻の6時40分に出発し、平塚駅前の大通りを西に向かって進みます。この道は毎日1時間に10本以上のバスが走る区間です。

 古花水バス停を越えて国道1号線に入り、大磯町へ。「大磯駅には参りません」との車内アナウンスがあります。JR大磯駅へ行くならば「大磯局前」バス停で降りるとよいでしょう。

 バス停では1人降り、2人降りてはまた1人が乗り……と、利用客は意外と入れ替わります。早朝で道路も空いているせいか、たびたび時間調整のための停車をしながら、バスは西へと進みます。

 「大磯プリンスホテル入口」バス停で完全に乗客が入れ替わるとここはもう二宮町。国道1号から外れ、JR二宮駅に立ち寄ります。ここで5分ほど停車をします。

 JR二宮駅わたし以外の乗客が下車し、ここからは貸切状態になりました。

 バスは箱根駅伝フリーザ様が出る地点として知られる「押切坂」を越え、西湘バイパスと並走しながらJR国府津駅へ向かいます。左手は海です。

 二宮駅国府津駅の区間は他社のバスも含めて本数は少なく、1時間に1~2本ほどでしょうか。一方、並行するJR東海道線は1時間に5本程度の運行があります。

 JR国府津駅から先、JR小田原駅までの区間を走るバスはこの1本だけです。ちなみに国府津駅小田原駅間のバス停に停車するバスは、この平44系統と小田原から平塚へ折り返す「平45」系統の1往復だけ。行きと帰りでは小田原駅付近で一部別のルートを通るために系統番号を分けたそうですが、この平45系統も休日ダイヤの朝に1本のみの運行で、復路の線と位置付けられます。

●週1本の路線バス、「利用者がいない」わけではない

 最初は週1本なんて利用客がいなさそう。大丈夫だろうか……などと思っていたのですが、国府津駅で一気に高校生の集団10人を含む14人の利用客が乗り込んできました。そこそこ需要がありながら、どうして週に1本だけの運行なのでしょうか。

 実は国府津駅小田原駅間は平44系統を運航する神奈中バスの他に、箱根登山バスが1時間4~5本も運航している区間。利用者は早く来た方のバスに乗るだけのこと、なようです。

 さらに神奈中バスWebサイトによると、週に片道1本のみが走るとある「緑町」バス停は、箱根登山バス伊豆箱根バス富士急バスの4社合同のバス停となっています。時刻表には時刻ではなく「7時~20時台は1分~15分間隔で運行」と書かれているほどでした。

 終点のJR小田原駅着は7時53分。降りた人は6人でした。平塚駅小田原駅間まで乗り通したのはわたし1人でしたが、区間ごとの利用客はそれなりにいました。まったく利用客がいないので本数が少ない、のではないことが分かりました。

●週1本だけ運行している理由は「免許維持」のため

 神奈中の平44系統は、平塚駅国府津駅までは並行して他系統の神奈中バスが走っています。単独区間である国府津駅小田原駅間ではライバル他社のバスが多く走っており、本数や利便性の面で大きく見劣りします。あれば利用者はいるものの、失礼ながら「なくても困らない」といった感じでしょうか。

 それならばなぜ、「わざわざ週に1本だけ」運行しているのでしょうか。

 バス路線を営業するには、国土交通省に路線を運行する申請をし、沿道住民や警察との協議を経てバス停の位置を決める手続きが必要です。路線ごと廃止してしまうのは簡単ですが、もし将来復活させたくなったときにこういった手続きをイチからやり直す必要があります。ここにとても手間やコストが掛かるので廃止はできれば避けたいのです。

 でも、路線バスの走っている実態がなければ「バス路線の免許が失効」してしまいます。そこで免許を維持するために最小限度の本数で走らせます。「免許維持路線」と呼ばれます。

 もっとも、各バス会社が「これが免許維持路線ですよ」と公表しているわけではありません。極端に本数が少ないことを筆頭に、「そのバスしか走らないバス停がある」「他のバス会社の運行エリアと重なっている」などの特徴を持つ場合が多いようです。今回乗った平44系統と復路の平45系統も、恐らく免許維持路線の1つなのだと推測します。

 ちなみに、平塚駅小田原駅間は、バスだと約1時間13分、運賃680円の道のりでした。JR東海道線ならば約21分で410円。早く安いのは鉄道です。

 でもいいのです。週に1本しか運行しない超レアなバスで、日曜の早朝にのんびりと海沿いを移動するのも意外に心地よいものでした。東京近郊で体験できる「平44系統」で日常にまぎれた非日常の旅、皆さんも楽しんでみてはいかがでしょうか。

神奈川にある「週に1本しか運行しない路線バス」に乗ってみた