九州新幹線の開業にあわせてデビューした800系。性能面では東海道・山陽新幹線に導入された700系と大きな違いはありませんが、見た目はまったくの別物。「和」を強調したデザインはほかの新幹線車両と一線を画しています。

ベースは東海道・山陽新幹線の700系

2000年代初頭、九州新幹線の建設区間のうち南側の新八代~鹿児島中央間の工事がまもなく完了しようとしていました。そこで九州新幹線用の車両が開発されることになり、JR九州としては初の新幹線車両となる800系電車が2003(平成15)年に製造されました。

当時の東海道・山陽新幹線の最新型車両である700系電車をベースに開発。真っ白な車体に赤い細帯を巻き、先頭車はどことなくカイコに似た独特な形が特徴的です。普通車だけの6両編成でグリーン車はありませんが、座席の配列はほかの新幹線グリーン車と同じ4列で、ゆったりしています。また、九州新幹線にある急勾配の線路に対応するため、6両全車にモーターを搭載。営業最高速度も九州新幹線の法令上の規格に合わせ、700系より少し遅い260km/hとされました。

ただ、車体の構造やモーターの出力、制御方式などは700系と大きな違いはありません。先頭車の独特なデザインも、実は700系の先頭車デザイン案のうち、お蔵入りしていたものを採用しています。

しかし、800系700系にはない強い個性があります。座席には木材が使われていて、クッションは西陣織です。ブラインドや手すりには地元のサクラ材、客室前後の壁はクスノキを使用。洗面所も八代特産のい草を使った縄のれんが設置されています。内装の壁などに使われている色も白や赤、黒、柿渋色、瑠璃色といった日本の伝統色でまとめられ、客室の床も日本らしい格子柄です。

従来の新幹線車両の内装は、どちらかといえばビジネス客の利用を想定してシンプルにまとめられていましたが、800系はドアをくぐった瞬間から「和」の世界。JR九州は発足直後から外部の工業デザイナーに駅や広告、在来線用の車両のデザインを依頼し、ほかのJRの車両とは一線を画した独特なデザインで注目されていましたが、それはJR九州初の新幹線車両となった800系にも受け継がれたのです。

走りながら線路を検査できる

九州新幹線の新八代~鹿児島中央間は2004(平成16)年に開業。博多~西鹿児島(現在の鹿児島中央)間を結んでいた在来線特急「つばめ」は、博多~新八代間の在来線特急「リレーつばめ」と、九州新幹線の新八代~鹿児島中央間を走る「つばめ」に分けられ、800系は新八代~鹿児島中央間の「つばめ」で使われるようになりました。

車体は当時のJR九州社長が毛筆で描いた「つばめ」の文字(のちに消去)や、昔ながらの円形のヘッドマークを模した「つばめ」のロゴマークで装飾されました。この「つばめ」という列車名、実は1930(昭和5)年に登場した東京~神戸間の在来線特急で使われたのが最初(当初は漢字の「燕」)。その後も東海道本線山陽本線鹿児島本線を走る在来線特急の列車名として使われ続け、歴史の長い国鉄の代表的な列車名でした。

2011(平成23)年には九州新幹線の博多~新八代間も開業して全通。博多駅山陽新幹線と接続し、山陽・九州新幹線を直通する「みずほ」「さくら」も走るようになりましたが、800系は引き続き九州新幹線のみ走る列車(「つばめ」と一部の「さくら」)で使われています。

全通に先立つ2009(平成21)年には800系が追加製造され、ライト形状の変更や座席の改良などのマイナーチェンジが行われていて、「新800系」ともいわれています。「和」が展開する車内の雰囲気は変わりありません。2010(平成22)年までに800系新800系あわせて54両が製造されましたが、2016年に発生した熊本地震で被害を受けた6両が廃車され、2019年4月1日時点の車両数は48両です。

ちなみに、東海道・山陽新幹線東北・上越新幹線などでは、線路や電気設備の状態を走りながら検査する業務用車両がありますが、九州新幹線にはそのような車両がありません。そのため、800系の一部の編成に検査装置を取り付けています。

九州新幹線を走る800系(2011年5月、恵 知仁撮影)。