(篠原 信:農業研究者)

JBpressですべての写真や図表を見る

 NHK「ためしてガッテン」で、面白い実験が行われていた。男性ばかり、女性ばかりそれぞれ数人をひとつの部屋に入れ、「お呼びするまで、少々お待ちください」と言って、放置しておくというもの。

 女性ばかりの部屋では、「あなた、どちらからいらしたの?」など、他愛のない話から始まって、おしゃべりに花が咲いた。すぐに打ち解けた空気になって、楽しそう。

 これに対し、男性の部屋は。「遅いですねえ」「そうですねえ」。以後、沈黙が支配。最初の言葉だって、相当長い間沈黙が続いた後でようやく出てきた言葉だが、それを受けて出た言葉も、言葉のキャッチボールになりえないような反応。

 隠しカメラでこの様子を見ていたスタッフ。会話の手助けになるかもと、それぞれの部屋にケーキを運び、「お待たせしてすみません、出番までもう少々時間がかかりそうなので、ケーキでも食べてもうしばらくお待ちいただけますか」と声をかけた。

 そしたら女性の部屋では、そのケーキをきっかけにして、さらに話が膨らみ、おしゃべりがさらに盛んに。

 これに対し、男性の部屋は。「おいしいですね」「そうですね」。以後、沈黙。その後、男性と女性で、空間を分けたらどうなるかという実験だった、と明かされて、男性たちは苦笑いしていた。

 どうも、男性だけだと、会話が弾みにくいらしい。

男性はすぐ「マウンティング」したがる

 私自身が経験したことをひとつ。ふたつの大企業の方を引き会わせる機会があり、一緒に食事をすることにした。参加者はみな男性。すると、それぞれ大企業にお勤めのお二人は、「マウンティング(位取り)」を始めた。自分はこんな大きな取引をまとめたことがある、という話を片方が始めたら、もう片方も、私は何十億の案件を取りまとめて、と来て、そしたらもう片方が、いやいや私は百億単位の案件を・・・会話は弾んでいるようで、「俺の方がでかい仕事をしている!」といったマウンティングというか、意地の張り合いをしていて、見ていて楽しかった。

 最近は、パートを募集すると、半分くらいは男性からの申し込みになる。男性の場合、多くは定年退職、あるいは早期退職した年配の方が多い。面接でお話しすると、男性はほぼ全員、「マウンティング」を始める。自分は何十年ものキャリアがあり、この技術に関しては人後に落ちず、ほんの少し前まではあなたたちの側に座って、アゴで人を使っていたというお話が始まる。

大事なのは「あなたと仲良くなりたい」という気持ちを伝えること

 女性の場合は、「私、農業に以前から興味があって」と、新たな職場への期待を語るけれど、過去に何をやっていたか、自慢するような人はあまりいない。ほぼ全員、控え目。

 男性を雇うと、仕事をやってくれるどころか、説教食らいそう。「私が君くらいの年のころは・・・」。いいから仕事して、って言わなきゃいけないのはつらい。結果、女性を雇うことに。

 すると、女性のスタッフは、驚くべき能力を発揮し、いったいあなたは何者ですか、と聞いてみて、ビックリするような経歴をお持ちの方だったりする。「なんでそれを面接時にアピールしなかったんですか?」と不思議に思うことも。

 女性の会話は、大概、他愛のないものが多い。正直言って、結婚する前は私も、女性の会話の内容のなさに呆れ、バカにしていた面がある。結婚してから嫁さんに、なんで女性は、他愛もない会話を楽しめるの? と聞いた。

「ああ、内容なんてどうでもいいの。私たちも何を話したかなんて憶えていないし。大事にしているのは、『あなたと仲良くなりたい』という気持ちを伝えること。相手の気持ちを傷つけず、仲良くなるには、他愛のないことが無難でしょ?」

 そうなのかあ、と、私は感心した。女性は、大変能力が高く、経歴もビックリするような方も多いのに、マウンティングする人は、男性に比べるとずっと少ない。男だったら自慢せずにいられないようなものをお持ちなのに、そういう気振りも見せない方がいる。何でだろうなあ、と思っていたら、嫁さんのその回答で、ようやく合点がいった。

 男性は、人によるが、「自分の能力がいかに高いか、経歴がいかにすごいか」を相手に認めさせようとするが、女性は、全員ではないがおしなべて、「相手と良好な関係を構築する」ことに意識を集中している。会話の内容は、良好な関係を構築するための道具、手段でしかない。だから、内容は何でもよいのだ。

「すごーい」と言われたい男性

 私がまだ若い頃、年配の方に、よくスナックに連れて行ってもらった。年配の皆さんは、女性たちにおだててもらうのがとても楽しそうだった。仕事の自慢をし、女性から「社長さん、すごーい」と言ってもらえると、うれしそう。

 他方、若い世代の私たちは、男女共学でずっと過ごし、男女同権と言われて育ってきたせいか、スナックの女性たちのほめ言葉が、「心にもないこと」だとよく分かっていた。だから、女性たちが「どんなお仕事しているの?」とか聞いてきても自慢めいた話をする気が起きず、とても居心地の悪い時間をすごしたものだった。

 男性は、「すごーい!」と言ってもらいたい生き物であることが多いようだ。「すごーい!」と言ってもらうために、自慢話を延々とする。それがいわゆる、「マウンティング」となる。

 男性でも、お客さんを接待する側になると、お客さんが繰り広げる自慢話を一方的に伺う立場だということを弁え、「すごいですねえ!」を連発する。だが、ひとたび仕事を離れたら、「仕事だからあの時は頭を下げたが、本当の俺は」と、誰かにマウンティングしたくなる。そして、「すごーい!」と言ってもらいたくなるようだ。

 嫁さんのお父さん(義父)のことを、私はいたく尊敬しているのだが、その理由は、マウンティングを一度としてしたことがないからだ。それは、義父のご親族みんなに共通。義父の実家に遊びに行ったことがある。ふつう、義父の実家ともなれば、縁もゆかりもないから、居心地が悪いのが普通だ。ところが、居心地がよかった。男性はみなさん寡黙で、ほとんど黙っているのだけれど、「よく来たね」という気持ちが伝わってきて、沈黙していても、なんだか居心地がよい。大阪育ちの私は、沈黙が怖く、何かしらしゃべっていないといけないような気がする方だが、そこでは、静かにお茶を飲み、みかんの皮をむいているだけで幸せだった。この経験は、私にとって、大変なカルチャーショックだった。私の実父も、そして私自身も、男はマウンティングするのが当たり前だと思っていたからだ。

 しかし、この経験をきっかけに、いろいろ考え直すようになった。そういえば、女性はマウンティングする人が少ない。それでいて、関係を構築するのが上手。男性は自慢話ならスルスル滑らかに話すことができるけれど、それ以外の会話は苦手なことが多い。そして、自慢話で良好な関係を築けることは、ほとんどない。自分がお客さんで、相手が仕事として対価をもらっているときにしか、自慢話は聞いてもらえない。そして相手とは、スナックの女性か、こちらに何か売りつけようとしている営業マンか、部下か。そしてこの人たちは、「すごーい!」と言ってくれはするが、内心はどう思っているか分からない。

会話が苦手な男性は相手に「質問」せよ

 ではなぜ、男性はマウンティングしてしまうのだろう? 恐らく、子どもの頃から、何を話したらよいのか、訓練されていないからだろう。男の子は女の子と比べると、人間関係より自分の興味に邁進する傾向がある。興味のあることに集中した後に、人間関係を考える。そうした性向のためか、「ぼくこんなことできるようになったよ! すごいでしょ!」という傾向が、大人になっても続いてしまうらしい。

 そうはいっても社会人になってすぐは、ひたすら先輩や上司の自慢話をヨイショすることに忙しいから、自分の自慢話はできなくなる。しかしやがて年をとり、経験知も上がってきて、後輩や部下ができると、「すごいだろ」と自慢する権利を得たと考え、幼い頃の願望を再発させる。

 男性にはどうもそうした性向があるようだから、周囲がそれを理解し、ヨイショするのもコミュニケーションのひとつだと弁えたら円滑に関係が進むのかもしれないが、マウンティングするのが一人でなく、複数になるとややこしくなる。猫が縄張り争いで「フー!」と唸り合っているのと近い状態になりかねない。この性向は年寄りと言われる年齢になっても続くようで、「俺が働いていた頃は」と一席ぶつ人も多い。周囲は「また始まった」「すごいかもしれないけれど、昔のことでしょ。今と関係ないじゃん」と、あしらわれることが多い。余計に孤独に陥りやすい。

 いったい、マウンティング以外の方法でどうやって会話したらよいのだろうか?

 簡単だ。自分が話すのではなく、質問することで、相手の話を引き出すこと。そして、相手の話を面白がり、驚けばよい。ひたすらそれを続ければ、会話は弾み、相手とも良好な関係が築ける。

 自分のことを理解してほしい、すごいと評価してほしい、という欲望はいったん引っ込める。そして、ひたすら相手に関心を持ち、面白がり、驚けばよい。そうすると、会話は弾む。

 そして不思議なことに、相手の話をひたすら聞いていると、相手はあなたに興味をもつ。「こんなに自分のことに興味を持ってくれる人のことを、理解したい」という気持ちになる。そうなってから、相手の感情を逆なでしないように話せば、相手もまた、話を面白がり、驚いてくれるだろう。

マウンティングは人間関係構築にはマイナスばかり

 私は今から、自分が高齢者になったとき、マウンティングばかりして孤独に陥らないようにするにはどうしたらよいのか、ひたすら言語化を続けている。どういう心構えでいれば、マウンティングせずに済むのか。どう会話を転がせば、マウンティング以外の方法で会話が弾むのか。そして、どうしたら年をとっても交流できる友人をつくることができるのか。

 はっきりしていることは、マウンティングは、人間関係構築には、マイナスに働く作用が強くて、プラスに働く要素があまり見当たらないということだ。なんでこんな不都合な本能が、男性側で強く発現するのか、それも興味深い。たぶん、動物としての本能なのだろう。けれど、社会性を基礎に発展してきた人類にとって、この本能は、いまや邪魔っけなものになりつつあるように思われる。

 この本能を学習で克服できるのか。それが、男性に課せられた使命なのかもしれない。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  子育てで親の責任は「3~4割」がいいところ

[関連記事]

「がんばれ」の言葉が人を萎えさせる理由

ゲームのレベルデザインから学ぶ意欲の引き出し方