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NASA協力のもと、ISSの微小重力空間で、セメントを合成することに成功

■宇宙セメントは、「均一な密度」という強度が高くなる性質と「多孔性」という強度が低くなる性質とを持っている

セメント合成の材料は、月面上のレゴリスが使用可能なため、地球から材料を運ぶ必要もない

5000年以上も昔から人類が愛用してきた主要な建築材料であるセメント。この古くから伝わる技術が、ついに宇宙空間にもたらされました。

ISS(国際宇宙ステーション)上の微小重力環境にて、コンクリートの主成分であるセメントの合成に成功したことが、ペンシルベニア州立大学により発表されています。

セメントの材料には、月面上のレゴリスが使用できるため、地球からわざわざ材料を持っていく手間もありません。地上のセメントと宇宙セメントのどちらが強度的に優れているかは、今後の研究で明らかにされるとのことです。

研究の詳細は、「Frontiers Media」に掲載されています。

Microgravity Effect on Microstructural Development of Tri-calcium Silicate (C3S) Paste
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmats.2019.00083/full

宇宙でもしっかり固まる

研究チームは、NASA協力のもと、セメントの基本的な材料となる「ケイ酸三カルシウム」「水酸化カルシウム」「蒸留水」などをISSに送り、セメントの合成実験を行いました。

材料を専用の袋の中で混ぜ、水和作用というプロセスを経て42日間硬化させました。すると、宇宙空間で混合されたセメントは、地球上と同じように固化することが判明したのです。

結晶同士が結合してセメントになる過程/Credit:astronomy

しかし、宇宙セメントには、地球とは異なる特徴がいくつか確認されています。

地球のセメントと異なる性質を持つ

まず、宇宙セメントは、地上のセメントよりもはるかに均一な密度を誇ります。地上セメントは、強い重力により重い物質は下方に沈降して、層状の性格を発達させます。

しかし、宇宙セメントは微小な重力により、沈降現象が起きず、密度が均一に保たれるのです。研究主任のアレクサンドラ・ラドリンスカ氏は「密度が均一であればあるほど、セメントの強度も増す」と言います。

地上セメント(左)と宇宙セメント(右)/Credit:astronomy

その一方で、宇宙セメントは、生成過程で多くの気泡を発生させ、より多孔的な性質を持つことが分かりました。

地上であれば、浮力によってセメント内部の気泡も自然にセメント表面へと上昇します。ところが、宇宙セメントは、やはり微小重力が災いして、浮力が働かず、気泡もセメント内部に留まってしまうのです。

ラドリンスカ氏は「セメントの多孔性は、強度が落ちる原因となる」と指摘します。

つまり、宇宙セメントは、「均一な密度」という強度が高くなる性質と「多孔性」という弱くなる性質とを持っているというわけです。地上セメントと宇宙セメントの強度の優劣は、今後の実験で明らかにされます。

「地産地消」の建築が可能に

月面や火星でのミッションは、多大な放射線に晒されるため、常に危険がつきまといます。それを防ぐ方法として、地球と同じようなコンクリート製のインフラを現地に整えることが最良の手段となるでしょう。

コンクリートは、核廃棄物の遮蔽材としても使われるように、優れた断熱性と放射線の防御壁として利用可能です。

Credit:youtube

また幸いにも、セメント合成の材料には、月面上のレゴリスが使えるそうで、わざわざ地球から材料を調達する必要もありません。しかも、レゴリスはギザギザの細かい粒子でできているため、セメント内部の気泡率を減らして、強度を高める可能性もあるのです。

近い将来、月面オリジナルの建築物が誕生することに期待しましょう。

 

宇宙セメント合成の詳細な動画はこちらを参照。

 

reference: astronomy / written by くらのすけ
微小重力の中で「宇宙セメント」の合成に成功