2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の主役が俳優の吉沢亮さんに決まりました。発表されたのは、NHK連続テレビ小説なつぞら」で「天陽くんロス」をもたらした印象的な最期からわずか数日後のこと。ファンには、うれしいサプライズだったでしょう。

独眼竜政宗」の渡辺謙をほうふつとさせる抜てき

 この起用、大河の歴史においても異例なことです。朝ドラから大河へというステップは、2020年の「麒麟がくる」で主役を務める長谷川博己さんと似ているものの、こちらは既に40代。一方、吉沢さんは27歳になる年に大河を演じます。主役を務めた男性俳優の最年少は「義経」(2005年)の滝沢秀明さん(当時23歳)ですが、選ばれた時点でもう国民的アイドルと呼べる存在でした。

 キャリアや年齢、経緯という意味で思い出されるのは、「独眼竜政宗」(1987年)の渡辺謙さん(当時28歳)です。朝ドラ「はね駒」で注目され、翌年の大河の主役にいきなり抜てきされると、これを大ヒットさせました。いわば、世界的スターと同じ展開を期待されているわけです。会見では、

「名実ともにトップクラスの素晴らしい方が演じてきた印象が強いので(中略)プレッシャーも尋常じゃないくらい」

 と吉沢さん。しかし、モチベーションは十分です。というのも、今年5月に「あさイチ」(NHK総合)に登場した際、「なつぞら」の共演者でもある山田裕貴さんがVTRでこんなコメントをしました。「まず、顔が国宝級じゃないですか」とした上で、意外な野心家ぶりも明かしたのです。

「『主役にこだわらなければダメだ。俺は一番になりたい!』って言うんですよ。それも一点の曇りもなく。うそのない表情で」

 実はこの2人、同じ時期にテレビ朝日系特撮ヒーロー作品で世に出ました。吉沢さんは「仮面ライダーフォーゼ」のメテオ役、山田さんは「海賊戦隊ゴーカイジャー」のゴーカイブルー役です。2012年には映画「仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦」で共演。ただし、吉沢さんはパンフレットの中で、「今回も出番でいうと、ほとんど前回と変わらないんですよね(笑)」などと語っています。

 これも含めて、このシリーズの映画に4作出ていますが、その都度、出番へのこだわりを見せていました。「ラストでちょっと出るだけだったんです」「最後の最後に出てくるのはおいしかったんですが(笑)」「出番は一瞬で(笑)」「(今回は初めて)出番がたくさんあるので、台本を頂いたときから撮影を楽しみにしていました」などなど。彼の演じたメテオは主役ではないので、ちょっと物足りなかったのでしょう。

 それゆえ、「フォーゼ」の主役だった福士蒼汰さんをはじめ、菅田将暉さんや千葉雄大さん、志尊淳さん、竹内涼真さん、横浜流星さんといった世代の近い特撮ヒーロー出身俳優が続々とブレークしていくのは複雑な気持ちだったはず。そこからついに、大河の主役という「一番」を射止めたのです。

適性を示した「なつぞら」の対話シーン

 こういう貪欲さは、偉人や英雄のサクセスストーリーが基本の大河に向いているといえます。ただ、もちろん、役者としてのスキルも伴わなくてはなりません。その意味でも、適性の高さを示したのが、あの亡くなった「天陽くん」とヒロインとの幻想的な対話シーンでした。磯智明チーフプロデューサーは、こんな指摘をしています。

「吉沢さんは淡々と演じたいとおっしゃっていました。なつにとっては天陽との最後の別れで、広瀬さんは感極まった芝居をするわけですが、吉沢さんは敢えて感情的に受けず、天陽が最後まで、なつの人生を導く役割を担っていることに徹しました。(中略)吉沢さんは敢えて広瀬さんとは違う、抑制した芝居に挑んだ。だからこそ、魅力的で見応えのあるシーンになったと思います」(スポニチアネックス)

「天陽くん」には実在したモデルがいて、それをこなしたあたりも大河に通じます。また、吉沢さんは二次元原作の実写モノでも高い評価を受けてきました。そのイメージを損ねることなく、フィクションとしての魅力を加えることにもたけているのでしょう。

 ちなみに「青天を衝け」の主人公・渋沢栄一は、農民から武士、官僚、実業家へと転身を遂げつつ、志の高さと反骨、慈悲といった心を持ち続けた人でした。吉沢さんには、ハマリ役に思えます。青春期から壮年期まで演じることになりそうですが、加齢による落ち着きや渋みも表現できることは「天陽くん」で証明済みです。

 なお、所属事務所のアミューズは大河に強く、これまでにも、福山雅治さんや上野樹里さん、佐藤健さん、三浦春馬さんといった面々が主役や重要な脇役を演じてきました。こうした先輩たちの助演も期待できますし、「なつぞら」つながりで、草刈正雄さんあたりとの再共演もあるかもしれません。

 また、脚本を手がける大森美香さんは出世作の連続ドラマ「ランチの女王」(フジテレビ系)や朝ドラあさが来た」などでイケメンの生かし方にも実績のある人。これも頼もしいところです。

 というわけで「天陽くんロス」の皆さん、1年数カ月後にはまた、吉沢さんがおおいにワクワクさせてくれること、間違いなしです!

作家・芸能評論家 宝泉薫

吉沢亮さん(2019年04月、時事通信フォト)