東武鉄道東上線の〈TJライナー〉からスタートした“簡易優等車両”による有料列車。ロングシートクロスシートを両方設定できるデュアルシートの導入により、効率的な車両運用と乗客の着席ニーズを両立させた。

東急
オレンジのフルラッピング車体でQシートを強調
 東急では、大井町線急行列車の一部を自由席と有料座席指定サービスQシートに設定し、より効率的な車両運用を図っている。

チケットレスサービスで座席指定券を購入

 Qシートは、2018年12月14日から平日夜の大井町線大井町発の急行長津田行きで営業運転を開始。3号車に連結され、大井町発19時台から23時台まで毎時1本運転(191・201211221231号)されている。乗車専用駅は大井町、旗の台、大岡山、自由が丘。降車専用駅は二子玉川溝の口、鷺沼で、たまプラーザから先は列車指定券なしで利用できるフリー乗降区間だ。

 列車指定券は1人400円(おとな・こども同額)。乗車日当日の朝5時から発売され、一部の駅やチケットレスサービスで購入できる。後者は会員登録(クレジットカード払い、登録費無料)すれば、スマートフォンなどで購入できるほか、シートマップが表示され、空いている席を自分で選べる。

 今回は私のスケジュールの都合で、チケットレスサービスに登録し、列車指定券を購入。午前中だというのに、大井町19時32分発の急行191号長津田行きは売れゆきがよく、車端部のロングシートも一部が埋まっていた。

 18時を過ぎ、スマートフォンでチケットレスサービスアクセスし、急行191号長津田行きの残席状況を確認すると、ロングシートは全9席完売、クロスシート全36席は通路側のみ5席残っていた。

残席情報が駅構内で案内されていない

 18時50分頃、大井町線大井町に乗り込む。駅構内を見渡してもQシートの残席状況を案内していない。駅の有人改札で列車指定券を買おうとする人にとっては、不親切だ。せめて改札付近のデジタルサイネージで、30秒おきに表示できないものか。

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Qシート用のウエイティングエリアは3列分確保
 19時10分過ぎ、改札を通過すると、1番線と2番線のあいだにQシート用のウエイティングエリアを発見。3号車のホームドアで待たないよう案内している。付近では駅員がマイクや拡声器を使わず、「19時32分発の急行長津田行きの3号車は、有料座席サービス、Qシートです」と案内。Qシート列車指定券を持っていない方は、ほかの車両を利用するよう促す。

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6020系LEDヘッドライトを輝かせ、暗闇を切り裂くようにして走る
 19時27分、2番線に6020系の急行191号長津田行きが入線。上り大井町行きの3号車はセミクロスシートに設定されており、運賃だけで乗れる“乗りドク列車”と化す。次回乗るときは溝の口19時07分発の急行大井町行きにして、“無料クロスシート”を楽しんでみたい。

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6020系3号車のクロスシート設定時
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6020系3号車のロングシート設定時
 Qシートは当初、6020系のみ運用していた。2編成しか保有していないので、予備車がない状況だったが、2019年春に2代目6000系の一部編成にも連結され、車両故障や検査による“Qシート運休”がないようにした。

ロングシートも有料座席指定サービスの対象に

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急行191号長津田行き編成表
 Qシートが連結されている3号車は、4つの乗降用ドアがすべて開く。それぞれ駅員が立ち、列車指定券の確認を行なう。当初はスマートフォンスクリーンショットを駅員に提示しようかと考えたが、不正乗車防止の観点からか、現在時刻が表示されるため、やむなくアクセスして見せる。

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3号車のみ、中吊り広告が掲げられていない
 車内の室内灯は電球色で特別車両を強調。日が暮れると、電球色の温かみが増す。できれば調色機能をつけて、オールロングシート運用時はホワイト、Qシート運用時は電球色に変えていっそうの特別感を出してもよさそうだ。

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QシートクロスシートはA~D席として発売
 私が指定したクロスシートに着席。リクライニングはしないが、座席背面にカップホルダー、座席下にコンセントを装備。一応飲食はできるが、車内にトイレがないので、乗車前に済ませたほうがよい。

 シートピッチ1010ミリ(一部を除く)で、東武鉄道500系リバティより10ミリ広い。しかし、デュアルシートの構造上、暖房が床置き式なので、足が伸ばしにくい。これは簡易優等車両の宿命と言えよう。また、荷棚が低い位置にあるので、荷物も容易に載せられる半面、立ちあがったときに頭をぶつける恐れがある(実際、ぶつかってしまう乗客がいた)。

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窓框の滑り止めテープは、JR東日本の特急車にも見られる
 窓框(まどかまち)には白いテープを貼付。おそらく滑り止め対策で、そこに飲み物などを置いたとき、落下を防ぐためと考えられる。

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QシートロングシートはE・F席として発売。優先席の設定は中止される
 一方、3人掛けロングシートは着座幅525ミリで、ほかの席に比べ65ミリ広いゆとりがウリ。京王電鉄の〈京王ライナー〉ともども、ロングシートを指定席にする発想に驚かされる。東急では、車椅子ベビーカーなどを利用する場合、向かい側にフリースペース車椅子ベビーカー用)がある1~3E席の利用を勧めている。

 大井町―長津田間26.6キロの所要時間は約45分、大人運賃はたった300円(IC運賃299円)。列車指定券を加えると700円(IC運賃+列車指定券=699円)。JR東日本の電車特定区間に換算すると運賃は470円(IC運賃464円)なので、東急の運賃の安さが際立つ。

溝の口で駅員が乗車をブロックするも

 急行191号長津田行きは定刻通り19時32分に発車。Qシート担当車掌1人が乗り込み、案内役を務める。4ドアすべて開閉するので、車内の切り盛りをするのが大変そう。1号車に乗務する車掌はQシート乗車駅停車中、「この電車の3号車は、指定席Qシートです。御利用には指定券の事前購入が必要です」という車内放送を入れて、3号車に“券なし客”が立ち入らないよう努める。しかし案の定、大岡山で女性1人が誤乗してしまい、Qシート担当車掌にひたすら平謝りして自由が丘で降りた。

 東横線乗換駅の自由が丘でほぼ埋まり、定刻より1分遅れの19時43分に発車。夜の街を快走し、田園都市線に合流すると、19時48分、二子玉川2番線に到着。向かいの1番線に田園都市線各駅停車中央林間行きが到着しようとするものの、接続をとらず定刻通りに発車。ここから溝の口までは複々線で、東急は基本的に内側を大井町線、外側を田園都市線に分けている。

 急行191号長津田行きは田園都市線直通列車なので、外側を走る。通過する二子新地、高津は、すでにホームドアが設置されており、列車通過時の安全性が向上した。

 19時52分、溝の口に到着。3号車乗車口では駅員4人が立ち、乗車をブロックする。別の駅員は「3号車御利用のお客様、ほかの号車を御利用ください」、1号車の車掌も「3号車は指定席Qシートです。当駅から御乗車にはなれません」と案内するも、発車直前、スキをついて女性1人が乗車。当該駅員に指摘され、ただちに隣の4号車へ向かった。このような厳戒態勢では、Qシートの乗客は落ち着いて過ごせないのではないだろうか。

Qシートを3号車のデハにした理由

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8500系は2022年度に引退の予定
 溝の口を発車すると、先行の各駅停車長津田行きに接近するのか、ノロノロ運転。トンネル内で上りの8500系がけたたましい走行音をたてて、すれ違う。

 一方、6020系田園都市線用の2020系と同様、低騒音型の主電動機や駆動装置を採用し、車両騒音の低減を図っている。灯具のオールLED化も相まって、8500系に比べ、消費電力を約50%削減したという。

 そして、3号車のQシートモーターを搭載したデハ(電動客車。JRなどではモハを用いる)。モーターのない先頭車のクハ、中間車のサハは車両騒音が少なく、居住性の点でよさそうに思える。以前、報道公開で車両課に伺ったところ、2つ理由があることを述べた。

 1つ目は、大井町は改札が1号車寄りしかないので、そこに設定すると、ホーム上において乗客の流動を阻害する恐れがあること。2つ目は自由が丘で大井町線下り列車の乗客が増えること。このため、Qシートの連結位置を3号車と4号車にしぼって議論したところ、「3号車だとQシートに乗車しない方の流動を阻害しない」という結論に達したという。実際、自由が丘では乗客の流動を阻害するような動きはなかった。

 Qシートの車両騒音も気にならない。ノロノロ運転時はモーターの音が聞こえないほど静かなのだから。

乗ってみてわかったQシートの課題

 鷺沼で各駅停車長津田行きの接続はなく、たまプラーザからフリー乗降区間へ。Qシート担当車掌はここで降りた。フリー乗降区間では思ったほど乗客が増えず、江田で各駅停車長津田行きを抜く。隣の国道246号線(通称、ニーヨンロク)は上下線とも渋滞し、無数のヘッドライトとテールライトが夜景を作り出す。

 青葉台でQシートの空席が増えてゆくが、乗客の多くは乗車専用駅から終点長津田まで利用。着席ニーズの高さを表している。

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6020系折り返し溝の口まで回送され、再び大井町線急行の運用に就く
 ラストコース田園都市線最速の110km/hで飛ばし、田奈を通過。JR東日本横浜線に合流すると、20時15分、終点長津田4番線に到着した。回送して長津田検車区付近まで引き上げると、江田で抜かれた各駅停車が向かいの3番線に到着した。

 Qシートの居心地はよい。ただ、ホームドアプログラムが関係しているのか、全区間4つすべての乗降用ドア開閉が気になる。今後は大井町―鷺沼間を1つのみ開閉にすれば、誤乗防止のほか、車内保温の向上にもつながる。

 6020系には、1両片側4つある乗降用ドアのうち、ひとつを除いて締め切るスイッチ(3/4扉閉制御)を設けている。3号車のみ有料区間は1か所開閉に限定するなど、改造が必要になるだろう。

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大井町線のツートップ、6020系2代目6000系。
 また、2代目6000系と6020系は、大井町線の急行専用車両だ。前者の3号車をすべてQシートにすれば、田園都市線直通列車に限り、終日指定席化し、有料座席指定サービスの向上を図るのも一考だ。

 新生東急電鉄初日となる2019年10月1日田園都市線大井町線ダイヤ改正を実施する。目玉は日中の大井町線急行で、毎時2往復の運転区間を大井町―中央林間間に延ばし、利便性の向上を図ることだ。これを起爆剤に2020年代は、Qシートの発展を期待したい。

<取材・文・撮影/岸田法眼>

【岸田法眼】

レイルウェイライター。「Yahoo! セカンドライフ」の選抜サポーターに抜擢され、2007年ライターデビュー。以降、ムック『鉄道のテクノロジー』(三栄書房)『鉄道ファン』(交友社)や、ウェブサイトWEBRONZA」(朝日新聞社)などに執筆。また、好角家の側面を持つ。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)がある

QシートのクロスシートはA~D席として発売