大阪市内を地下鉄で結ぶ大阪メトロで最も新しい路線をご存知でしょうか?答えはオレンジカラーの8番目の路線「今里筋線」であり、大阪市の中心から南東にあたる今里駅から、北東にあたる井高野駅の間を南北に結ぶ路線です。

今里筋線には開業当時から今里~湯里六丁目区間(約6.7km)の延伸計画が存在しています。

この地下鉄延伸にかかる総事業費は約1,363億円と見込まれている一方で、2014年に公表された『「大阪市交通事業の設置等に関する条例」に位置づけられた未着手の地下鉄計画路線の整備のあり方について』の中では黒字化が困難との試算が出ました。

これに対し延伸の実現を求める自民党の市議団が、地下鉄の民営化に賛成する条件としてBRT(バス高速輸送システム)を使った需要予測の検証をおこなう社会実験を求めた経緯から、今里筋線の終着駅となる今里~長居間(湯里六丁目経由)と、今里~あべの橋の2系統が設定されたBRT(愛称:いまざとライナー)が運用されることになりました。

そのため延伸区間を走るBRTの停留所「中川西公園前」「大池橋」「田島五丁目」「杭全」「今川二丁目」「中野中学校前」は約1km間隔にあり、地下鉄の新駅を想定した場所に設置されています。

全国の鉄道路線には多くの延伸計画が存在していますが、実際に延伸を想定して社会実験をおこなうことは非常に珍しく、地下鉄の運用を意識したBRTにはユニークな点が数多く存在します。

地下鉄からBRTへのスムーズな接続

BRT地下鉄としての運用を意識していることが、駅の路線図からも見て取れます。

接続地点となる今里駅のホームからBRTの停留所までの道のりもスムーズに移動できるように、案内のサイネージや発車時刻を表示するモニタが随所に設置されています。

駅出口の目の前に停留所が設置されており、駅とほぼ直結なので乗り換えは想像以上に快適といえるでしょう。

乗換案内が地下鉄並みに親切

車内には前方と後方それぞれにモニタが設置されており、路線バスの乗り換えに関する行先や時刻などの情報だけでなく、広告映像やニュースも流れています。駅に隣接する停留所の案内では、地下鉄およびJRなど他社路線の時刻なども表示されるので、ある意味では地下鉄の駅よりも親切と言えるかもしれません。

停留所がハイテクで豪華

イメージカラーが目を引くBRTの停留所にもモニタが採用されています。接近情報や発車時刻、遅延などが表示されており、地下鉄の改札やホームと同じように情報をリアルタイムで確認することができます。一般の路線バスと比べれば設備の充実ぶりは一目瞭然です。

停留所が疑似的な地下鉄駅

通常の路線バスでは乗降客がいない場合は停留所を通過しますが、発⾞時刻までの時間調整をおこなう場合が多いBRTは乗降客の有無を問わず各停留所にほぼ停⾞します。また停留所のごとの区間が地下鉄の駅と同じような間隔で設置されており、停留所を駅に見立てた運用がなされています。

車内がユニークで楽しい

BRTは車両ごとに内装のデザインが異なっており、ユニークなデザインが多いのも特徴的で目を楽しませてくれます。14種類のデザインパターンがありますので、全ての車両に乗車する!といった密かな楽しみが生まれるかもしれません。

社会実験という試みが人の流れを変える可能性

2019年4月から5年をかけて利用状況の検証を行うBRTですが、運用開始後3カ月間の利用状況の発表内容では、2019年4月の段階では平日1便あたり8.2人と少ない印象ですが、3カ月後の2019年6月になると平日1便あたり10.3人と若干ではありますが増加傾向にあるようです。

あくまでも需要予測を検証するために始まったBRTですが、この社会実験が人の流れを変えてしまう可能性も秘めています。近年の大阪はインバウンド需要の影響もあり、外国人を含む観光客が目に見えて増加しています。陸上競技場がある長居エリアやあべのハルカスがある天王寺・阿倍野エリアが終着点であることから、地元で愛されているグルメや穴場スポットへの足として利用される可能性も十分に秘めています。この地下鉄BRTという組み合わせは、MaaS(Mobility as a Service)と呼ばれるあらゆる交通手段を1つサービスとして提供して利便性を高めるシステムの先駆けといっても過言ではありません。

運用が始まったばかりのBRTですが、今後この地域にどのような影響を及ぼすのか、まだまだ多くの可能性が秘められていることでしょう。

(写真/記事:田村 聖)