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審査員5名中4名が3点を与えたマツダ

320psのホンダシビック・タイプRを破り、最高出力182psと低くパワーウェイトレシオでも50ps/tも差のあるマツダMX−5ロードスターが、2度目となる2019年のBBADCを獲得することになった。その評価のポイントはどこにあるのだろうか。

【画像】2019年のノミネート車両 全171枚

マツダMX−5ロードスターは、確かに間違いなく素晴らしい輝きを持つスポーツカーではあるが、審査員の誰もが少し戸惑ったことは確かだ。それはマツダが圧倒するほどに楽しい操縦性を備えていない、というわけではなく、今回のノミネート車両の中で異なる個性を持っていたことによる。

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マツダMX−5ロードスター 2.0 SE-Lナビ

パワフルというよりも繊細で、心地よく、しなやかで素敵な印象を与える唯一の個性。しかも2シーターのスポーツカーは、5名定員のハッチバックよりも実用性で劣る。BBADCはパフォーマンス性能も重視するが、それより優先されるフィルターは利便性の良さにある。だが、審査員5名中4名がマツダに3点を与え、その個性を否定することはなかった。

「一般道では、クルマのすべてを手中に収めたかのように走れます。サーキットでは、注目を集めるような派手な走りを楽しまずにはいられない」 と魅力をまとめるサイモン・デイビス。 マウロ・カロは「純粋主義者の夢のようなクルマ。お昼に食べたカレーでお腹いっぱいになり過ぎていなければ、日が落ちるまでコースを走っていたかった」 とコメントしていが、折角なのでもう少し詳しく。

手頃な腕時計に収まるスイス製高級ムーブメント

審査員にとって、素晴らしいクルマのドライビングフィールを記憶し、分析するプロセスはとても楽しい仕事でもある。まずはボディサイズのコンパクトさについて。MX−5ロードスターは、アバルト595やミニ・クーパーJCW並みにコンパクトで、英国の狭い道路環境でも生き生きと走ることができる。毎日のように短距離でも自動車を走らせるひとにとって、それはとても重要な要素となる。

走行性能は、理想的なグリップレベルと操縦性の良さとで完璧にバランスしている。英国の高速道や郊外の開けた道路で現実味のある速度域、96km/h〜128km/hで走行させれば、MX−5ロードスターは最高の体験を味わわせてくれる。これほど鮮明な感覚は、他のクルマで得ることは難しい。

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マツダMX−5ロードスター 2.0 SE-LナビとフォードフォーカスSTパフォーマンス・パック、ホンダシビック・タイプR GT

追い越し加速時は、2速と3速を使って2.0Lの自然吸気エンジンを7200rpmまで引っ張ることになるが、ペダルの素晴らしい踏みごたえと、マニュアル・トランスミッションを操り駆動させるフィーリングは、楽しいのひとこと。手頃な腕時計にスイス製の高級ムーブメントが収まっているかのようだ。

MX−5ロードスターはドライバーの熱意に応える準備が常に整っていて、目的地までの高速移動も、良好なグリップ力としっかりした乗り心地でいとわない。制限速度域で飛ばしている限り大きなうねりや凹凸もしなやかにやり過ごす。ドライバーに操縦する自由度を与えてくれる、後輪駆動ならではの活気のあるハンドリングを備えている。

日常利用を肯定する乗り心地とボディサイズ

ただし、このパフォーマンスに関しては、試乗車が備えていたアップデート内容にも大きく依存しているだろう。2.0LのSE-Lナビと呼ばれるノミネート車両には、メカニカルLSDは装備されているが、ビルシュタイン製のダンパーストラットバーは備わっていなかった。そのかわり、ディーラーオプションのBBS製17インチアルミホイールに、アイバッハ製のローダウン・サスペンション、スポーツエグゾーストが装備されていた。この仕上がりが、これまで運転したMX−5ロードスターの中でも最も好印象な内容だったのだ。

サーキットを攻め込むと、タンピング不足でやや上下動の動きで締りがなくなるのは、他のMX−5ロードスターでも同様。コンパクトでシンプルなパフォーマンスカーというカテゴリーで見れば、限界領域での奥深さに物足りなさを感じることもある。だが、最新のホットハッチレベルのスピードをサーキットで得られないからといって、クルマの魅力を霞ませるものではない。

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マツダMX−5ロードスター 2.0 SE-Lナビとホンダシビック・タイプR GT

実用性は、ノミネート車両で比較すれば乗れる人数は限られるが、その程度。むしろ路面を問わず快適に仕立てられた乗り心地とコンパクトなボディサイズは、毎日の利用を肯定するものだ。より馬力が高く、ラップタイムが5秒速く、0-100km/h加速が0.2秒速くても、本当に運転にのめり込める面白さと、他にはないスポーティなハンドリングの魅力には勝つことができないだろう。それは2019年になった今も変わらない。

2019年のお手頃ベスト・ドライバーズカー選手権、BBADCの優勝モデルは、マツダMX−5ロードスターで異論はない。加えて、誕生30歳という節目も、喜ばしい。

番外編:スピードと配点の関係性

ここ数年はノミネート車両に計測機器を付け、マット・ソーンダースのドライブでラップタイムを計測してきた。しかし、残念ながら2019年は天候が不順でスタッフの人数も不足しており、タイム計測に必要な時間を確保できなかった。だがラップタイムの速さと運転の楽しさととは、必ずしも比例しない。

仮にタイムを計測したとすれば、恐らく以前のテスト結果や今回の走行などから、シビック・タイプRが最速だったと思う。シビック・タイプRは、タイトバスストップ・コーナーとデビルズ・エルボー・コーナーでも精度の高い操縦性と機敏さとのバランスで、素早く駆け抜けていける。強力なグリップで、右コーナーへと続くハイウェイ・ストレートでの加速も力強い。

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お手頃ドライバーズカー選手権2019の得点結果

ルノーメガーヌRSも同様に機敏に走るが、4輪操舵システムが機敏性を高める反面、サーキットでは時折緊張感を与える場合があった。後輪駆動マツダMX−5ロードスターは周回自体が面白い。ライバルほどずば抜けたパフォーマンスは備わっていないものの、タイトコーナーではリアタイヤを漸進的にスライドさせ、コントローラブルにドリフトを楽しむことができる。

ヒュンダイi30 Nファストバックも濃いドライビングフィールを味わえる。グルーポット・コーナーでハードブレーキングし、そこから食い込み気味で旋回していく楽しさは、病みつきになる。フォルクスワーゲン・ゴルフGTIとセアト・レオンクプラシリアスに走るが、セアトではフロントタイヤのグリップ力が不足するコーナーでも、ミシュラン・カップ2タイヤのおかげでゴルフは信頼感のあるグリップ力を提供していた。

フォルクスワーゲンの落ち着きと比較すると、とてもクイックなステアリングレシオを持つフォードフォーカスSTは好対照。アジリティとしてはルノーメガーヌRSに迫るものの、走行ペースで及ばなかった。ミニ・クーパーJCWとアバルト595コンペティツィオーネもサーキット走行は楽しめたが、グリップ力不足と落ち着きのなさが、常に足を引っ張ってしまった。

ノミネート車両9台のスペック(価格順)

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRのスペック

価格:3万6445ポンド(473万円)
全長:4258mm
全幅:1790mm
全高:1452mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-100km/h加速:5.6秒
燃費:12.9km/L
CO2排出量:177g/km
乾燥重量:1410kg
パワートレイン:直列4気筒1984ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:290ps/5000−6200rpm
最大トルク:38.6kg-m/1950−5300rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック

ホンダ・シビック・タイプR GTのスペック

価格:3万3550ポンド(436万円)
全長:4560mm
全幅:1875mm
全高:1435mm
最高速度:271km/h
0-100km/h加速:5.8秒
燃費:11.7km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1380kg
パワートレイン:直列4気筒1996ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:320ps/6500rpm
最大トルク:40.7kg-m/2500rpm
ギアボックス:6速マニュアル

セアト・レオン・クプラ300STのスペック

価格:3万3395ポンド(434万円)
全長:4549mm
全幅:1816mm
全高:1454mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-100km/h加速:4.9秒
燃費:11.3−11.8km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1557kg
パワートレイン:直列4気筒1984ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:300ps/5300−6500rpm
最大トルク:40.7kg-m/2000−5200rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック

フォード・フォーカスSTパフォーマンス・パックのスペック

価格:3万2245ポンド(419万円)
全長:4378mm
全幅:1825mm
全高:1454mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-100km/h加速:5.7秒
燃費:12.1km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1433kg
パワートレイン:直列4気筒2261ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:280ps/5500rpm
最大トルク:42.7kg-m/3000−4000rpm
ギアボックス:6速マニュアル

ルノー・メガーヌRS300トロフィーのスペック

価格:3万1835ポンド(413万円)
全長:4410mm
全幅:1875mm
全高:1435mm
最高速度:262km/h
0-100km/h加速:5.7秒
燃費:12.1km/L
CO2排出量:185g/km
乾燥重量:1419kg
パワートレイン:直列4気筒1798ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:300ps/6000rpm
最大トルク:40.7kg-m/3200rpm
ギアボックス:6速マニュアル

ヒュンダイi30 Nファストバックのスペック

価格:2万9995ポンド(389万円)
全長:4455mm
全幅:1795mm
全高:1425mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:6.1秒
燃費:12.0km/L
CO2排出量:178g/km
乾燥重量:1441kg
パワートレイン:直列4気筒1998ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:274ps/6000rpm
最大トルク:35.8kg-m/1450−4700rpm
ギアボックス:6速マニュアル

ミニ・クーパーJCW(ジョン・クーパー・ワークス)のスペック

価格:2万5950ポンド(337万円)
全長:3821mm
全幅:1727mm
全高:1414mm
最高速度:246km/h
0-100km/h加速:6.3秒
燃費:13.7−14.2km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1235kg
パワートレイン:直列4気筒1998ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:231ps/5200rpm
最大トルク:32.5kg-m/1450−4800rpm
ギアボックス:6速マニュアル

マツダMX−5ロードスター 2.0 SE-Lナビのスペック

価格:2万2795ポンド(296万円)
全長:3915mm
全幅:1735mm
全高:1230mm
最高速度:218km/h
0-100km/h加速:6.5秒
燃費:14.4km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1030kg
パワートレイン:直列4気筒1998cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:183ps/7000rpm
最大トルク:20.8kg-m/4000rpm
ギアボックス:6速マニュアル

アバルト595コンペティツィオーネのスペック

価格:2万1985ポンド(285万円)
全長:3660mm
全幅:1625mm
全高:1505mm
最高速度:225km/h
0-100km/h加速:6.7秒
燃費:13.8km/L
CO2排出量:155g/km
乾燥重量:1070kg
パワートレイン:直列4気筒1998cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:180ps/5500rpm
最大トルク:25.4kg-m/3000rpm
ギアボックス:5速マニュアル


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