おとな向け映画ガイド

オススメはこの4作品。

ぴあ編集部 坂口英明
19/9/23(月)


今週末に公開の作品は22本。全国100スクリーン以上で拡大上映されるのは『任侠学園』。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が多くて21本です。この中から厳選して、おとなの映画ファンにオススメしたい4作をご紹介します。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』



ワンス・アポン・ア・タイム・イン…』を使ったタイトルはこれが元祖。1968年に『ウエスタン』という邦題で公開されたイタリア西部劇の傑作です。クエンティン・タランティーノはこの映画を見て映画監督になろうと思ったそうで、新作の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、まさにこの映画タイトルの引用です。今回、50年の時を経て、オリジナル版が日本初上映されます。

どこをとってもカッコいいんです。荒野の駅に到着する汽車、待ち受けるロングコートの男三人、どこからともなく現れた謎のガンマンとの銃撃戦……。冒頭からひきこまれます。小さなハーモニカを持つガンマンチャールズ・ブロンソン。なんと、アメリカの良心のようなヘンリー・フォンダが悪役で出演しています。ほかに、ジェイソン・ロバーズ、ジャックイーラムと渋い役者が並び、イタリアン・ビューティ、クラウディア・カルディナーレが花を添えます。流れる哀愁のメロディーはエンニオ・モリコーネ

アメリカの西部劇が下火となり、それを受け継いだ形で、イタリアの「マカロニ・ウエスタン(英米伊での呼称はスパゲッティ・ウエスタン)」が世界的にブームとなりました。その代表的な監督、セルジオ・レオーネが、これまでの用心棒ものから西部開拓物語といえる大叙事詩に作風を変えた野心作です。アメリカの西部劇役者を多く起用しただけでなく、撮影も行われ、『駅馬車』でおなじみのモニュメントバレーも登場します。

68年といえば、サム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』が発表されたのもこの年。『明日に向って撃て!』が翌69年。消えゆく西部劇を惜しむかのような作品が続きます。そういう流れの中で作られた映画。大いなる西部への挽歌をイタリア人監督が作り、さらに50年後、アメリカ人であるタランティーノがこの作品にオマージュを捧げているということも面白いです。

『エセルとアーネスト ふたりの物語』



『さむがりやのサンタ』『スノーマン』『風が吹くとき』といった名作絵本の作者、レイモンド・ブリッグズが自身の父母について描いた物語をアニメ映画にしています。あの絵本同様、なんともあったかくて、イギリス人ならずとも懐かしく感じる、ささやかな家族のお話です。

1928年ロンドン、お金持ちの家のメイドをしていたエセルと、牛乳配達を仕事にするアーネストの出会い、結婚、出産、そして戦争、戦後の混乱や子供の成長……。その暮らしぶりが、手描きのアニメーションで丹念に表現されています。

息子のブリッグズは1934年生まれ。ジョン・レノンポール・マッカートニー(エンディング曲を担当)よりは少し年上ですが、50〜60年代、髪を長くし、世の中に反抗したイギリス「怒れる若者たち」の世代です。両親が希望する通りの人生を歩む訳ではありません。親子の世代間ギャップはありますし、この時代、電化や通信の変化も劇的です。でも変わらないのは日々の暮らしと家族への思いやりの気持ちです。

イギリス公開時のキャッチフレーズは「40年、1つの愛、数えきれない紅茶」だったそうです。紅茶は変わらない日常の象徴。そういう普通の人たちの20世紀の歴史です。

『パリに見出されたピアニスト』

パリ、北駅。乗降客が自由に弾けるよう設置されたピアノで、バッハを無心に弾く若者の姿から物語が始まります。クラシックには縁のなさそうな格好の彼の演奏に足を止めたのが、パリ音楽学院のディレクター。天才を発見した、と思ったのです……。若者の名はマチュー。郊外の貧しい家庭に育ち、友達もワルばかり。そんな彼がピアノを弾けるのには、ある理由があったのです。

最近はこういうの、たいてい「実話に基づく」なのですが、この作品はオリジナル脚本。貧困な家庭に育った若者が、ピアノコンクールの優勝を目指す、という、王道ではありますが、実によくできたサクセスストーリーです。

セーヌ川、サン・マルタン運河、ノートルダム大聖堂など、パリ各地でロケをした映像。演奏される曲は、リスト、ショパン、そしてラフマニノフの作品。クラシックファンならずとも楽しめます。マチューを演じるジュール・ベンシェトリが、名優ジャン=ルイ・トランティニャンの孫だというのはフランス映画ファンにとっては、へーっの話題では。

『春画と日本人』

文化記録映画として作られた作品ですが、劇場公開されます。2015年に開催された、日本で初めての大規模な春画の展覧会、「春画展」の内幕を描いています。

もともとは2013年に大英博物館で大成功を収めた企画、その日本巡回展として考えられていたのですが、東京国立博物館をはじめ、20以上の美術館、博物館に断られ、細川家18代当主の細川護煕さんが館長をつとめる永青文庫が引き受けたいきさつなどが関係者の証言で明らかになります。なかには、さる高名な博物館関係者のように、イギリスの展覧会のことを褒め称え、自腹でも行きたいというのですが、「では日本展をお宅の館で」ともちかけると、モニャモニャと腰砕けになる、といった風に、本音と建前がちがう日本の現実が浮き彫りになります。

無修正浮世絵「春画」が、地道な出版活動の積み重ねをへて、いまや堂々と書店で売られるようになったことや、普通のアートとは微妙に異なる図書館での春画の扱いなど、興味深い内容ばかりです。展覧会は18歳未満は入場禁止でした。展示を振り返っての関係者のコメント「ひとりの逮捕者もださずによかった」というのが、まさに本音でしょうね。あ、この映画も無修正の春画がでますので、18歳未満は入場禁止です。

文京区の小さな博物館、永青文庫には異例の21万もの人が訪れました。私もこの展覧会に行き、感動した一人です。その時手に入れた600ページ以上におよぶ貴重な図録は家宝と思っています。

文:ぴあ編集部 坂口英明
イラストレーション:高松啓二