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ミニマリストの精神

それでもABSが装着されていないことなど大した問題ではなく、見事なペダルフィールのお陰で、フロントタイヤのロックを心配する必要などほとんどない。マニュアルギアボックスのフィールも素晴らしく、ホンダS660ゆずりのガッシリとしたシフトはこのクルマに完ぺきにマッチしている。

雨不足にもかかわらず、大きな水たまりが跳ね上げる水しぶきのお陰で服が乾く暇もなかったが、それでも、わたしはつねにニヤニヤしっぱなしだった。

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アリエルアトム4

小規模なスポーツカーメーカーでは、ときに楽観的過ぎたり、あまりに多くの車両生産を行おうと考えたり、さらには多くの高価な装備を与えようとしたりして失敗することがあるが、アリエルはつねにそうした失敗とは無縁の存在であり、ブランドを象徴するミニマリストの精神は、アトムのバスタブ形状をしたボディよりも深く彼らの中に埋め込まれている。

ルーフも無ければドアもヒーターも、ましてやほとんどのモデルでウインドスクリーンすら持たないのは、こうしたものを装着することで複雑さとコスト、そして重量が増加することになるからであり、なによりも、こうした装備はアリエルのモデルからドライビングへの集中を奪うことに繋がる。

パンツはずぶ濡れ 心から満足

ドライバーの気を逸らすもののないアトムキャビンによって、アリエルは一途にその経験を積み重ねてくることが出来た。だからこそ、かつてのアトムよりもギアチェンジフィールは素晴らしく、ステアリングには落ち着きが備わり、最小回転半径が小さくなるとともに、乗り心地はよりしなやかになっているのであり、こうした絶え間ない進化が車両のすべてで起こっている。

不要な装備を持たないというのがアリエルの指針であると同時に、進化というものも彼らにとっては重要なテーマなのだ。

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酷いウェットコンディションでは、3種類あるエンジン出力マッピングに大した違いはない様に感じられ、例え「1」であってもリアタイヤは簡単にホイールスピンをしてみせる。

サマセットへと戻る長い旅路に出発すると直ぐにふたたび雨が降り始めた。こうした状況が続くこと考えれば、アトムからよりこうした天候への適応力を持つモデルへと喜んで乗り換えたに違いなく、このクルマと比べれば、ケーターハムでさえ快適なモデルに思える。

だが、天候が回復すると工場にアトムを返却する前、最後に素晴らしい景色を楽しもうとA303号線を予定よりも早く降りることにした。

お陰で工場へと着くころには完全に元気を取り戻すことが出来たのであり、パンツはずぶ濡れのままだったが、このクルマを返さねばならないことが心から残念に思えた。

アリエル・アトム4のスペック

価格:3万9950ポンド(万円)
エンジン:1996cc 4気筒ターボ
パワー:325ps/6500rpm
トルク:42.9kg-m/3000rpm
ギアボックス:6速マニュアル
乾燥重量:595kg
最高速:261km/h
0-100km/h加速:2.8秒
燃費:WLTP値未公表
CO2排出量:WLTP値未公表

番外編:シンクロトロンとは?

ダイアモンド・ライト・ソース(DLS)で行われているのは最先端科学であり、フルパワーで稼働するには、6MWもの電力が必要となるが、これは小さな街ひとつで消費する電力量に相当する。

紫外線、赤外線、X線といった超高密度な光線を創り出すことが可能であり、可視光線では不可能な非常に微細な物質の研究に使われている。

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そう、内部から見ると48面体だ。

100MeVのエネルギーを持つリニア加速器を使い、出力90keVの電子銃によって電子を光の速度をわずかに下回る程度という超高速にまで加速させると、DLSが収まる建物形状の理由となった巨大なリング状の「ストレージリング」へと送っているのだ。

その名称にもかかわらず、ストレージリングとは実際は48のストレートセクションが、電子を誘導するための48ケの強力な電磁石によって繋がれた48面体であり、この電磁石によってビームの進む方向を誘導している。

ビームの進行方向を曲げることで、電子はエネルギーを失うと同時に莫大な光を発するが、この光は実験専用のビームラインと呼ばれるステーションへと導かれるのだ。

現在33のビームラインがあるが、この数を40まで増やすべく作業が行われており、ここでの実験を望む企業や大学などが長蛇の列を作っている。

この施設は自動車関連の研究にも使用されており、そのなかにはハイグレードな金属材料に関する材料分析やナノコーティング技術、さらには燃料添加材の研究などが含まれている。

その他、最近の例としては16世紀にヘンリー8世が建造させた軍艦、メアリーローズから発射された砲弾の分析(1980年代に施された保護被膜が確認されたことでその価値を落としている)を行っており、さらにはNASAアポロ計画で月から持ち帰った石の分析も予定されている。


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