モテない――ただそれだけで大量殺人を犯す“童貞”は、なぜ誕生したのか? から続く

 ガタガタのトランプ政権下のアメリカでは、相も変わらず差別やテロ、デモが横行中。そんなアメリカで話題となった、もっともインパクトのある発言・暴言を取り上げるコラム「町山智浩の言霊USA」のシリーズ最新版『アメリカ炎上通信 言霊USA XXL』が9月27日に発売される。この最新コラムから選りすぐりの全3本を公開! 第2弾は「全裸ライド Body Positivity 訳・どんな体も素晴らしい

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参加者1万人! 全裸で自転車に乗って10キロ行進する

 全裸自転車ライドに参加した。例によって、BS朝日で放送中の番組『町山智浩のアメリカの今を知るTV』のロケです。

 オレゴン州ポートランドでは毎年1回、10キロほどを全裸で自転車に乗って行進するイベントがある。同じ催しは世界各地で行われているのだが、ポートランドの規模は最大で、今年は1万人が参加した。筆者もそれだけの数のおっぱいちんちんをいちどに見たのは生まれて初めてだった。

 全裸自転車の目的はまず石油燃料への抗議。CO²と亜硫酸ガスを撒き散らし、地球温暖化と異常気象の原因になるガソリン自動車ポートランドは市ぐるみで反対しており、市内の道路は歩行者自転車、それに市電が中心で、自動車は肩身が狭そうにゆっくり走っている。だからスモッグも交通事故も少ない。

 そんなポートランドはここ数年「全米で最も住みたい街」のランキング1位をキープしている。そして全米で最も自転車が多い。それを誇示するのが全裸自転車ライドなのだ。

 でも、なぜ全裸?

のやり場に困った……5000人が丸出し

 理由は2つ。ポートランドには「芸術表現やメッセージのためなら、全裸は公然わいせつ罪にならない」という判例があり、人口に対するストリップクラブの数も全米で最も多い。全裸ライドに参加した筆者はさすがにテレビの収録だからパンツだけは穿いていたが、他の参加者は半分くらいは性器丸出しだった。つまり5千人くらいが珍満モロだったわけで、マイクを向けて話を聞いている間も、目のやり場に困った。で、そんな全裸ピープルを警察は逮捕するどころか、全裸ライダーのために自動車の規制をして全面協力した。

 ポートランドスローガンは「Keep Portland Weird(ポートランドをヘンテコなままに)」で、モラルや常識に縛られない自由さがウリ。それを求めてキリスト教や何やらで自由のない南部や中西部から人々が移り住み、住宅ブームで市は大儲けしている。警察が協力するのも当たり前だ。てか、1万人じゃ逮捕できないしね。

 全裸になるもう1つの目的(というか言い訳?)は「ボディ・ポジティヴィティ」。これは「太っていようと痩せていようと、傷や欠損があろうと、どんな体も素晴らしい」と訴える運動。ファッションモデルのような体型に憧れて、そうでない体の人を蔑視したり、自己嫌悪したり、拒食症になったり、整形にハマったりせず、それぞれの体を讃えましょう、ということ。ボディ・ポジティヴィティ運動の盛り上がりのなかで、ファッションモデルにもLサイズのふくよか体型の人が増えてきた。

 実は筆者は、全裸ライド取材が決まってから、56歳の老醜を視聴者にお見せしては申し訳ないと1カ月間ダイエット筋トレに励んだのだが、現場ではもうブクブクやブヨブヨだらけで実に自由。お腹をつまんで気にしてた自分が恥ずかしくなった。

 そんな性器ポロリが街にあふれたら、子どもの教育に悪いざんすー! と思う人もいるだろう。ところが、全裸ライドはずっと住宅地の中を通って行き、沿道の人々は家族そろって家の前に出て、星条旗ふって応援してくれる。お父さんに肩車された幼い女の子が「セレブレイト・ボディズ・ポジティヴリー(体をポジティヴに祝福しよう)!」と叫ぶ。まあ、意味わかってないだろうけど。

「デブは美しいわけがないのか?」とプリントされたスウェット

 そんな時代に逆行するような服が大問題になった。REVOLVE(リヴォルヴ)というファッションブランドオンライン・カタログに載せた女性向けスウェットの胸にこんな文字がプリントされていた。

Being Fat Is Not Beautiful. It's An Excuse(デブが美しいわけがない。ただの言い訳よ)」

 写真ではスリムな体型の美女がそれを着ている。

 これに憤慨したのはレナ・ダナム。自分が主演するTVコメディガールズ」の企画製作脚本を担当するマルチタレントだが、ドラマの中では家にいる間は全裸。全裸で食事してテレビ見て。しかも太くて寸胴。「そんなもの見せるな」と言われれば言われるほど脱ぎまくるレナ・ダナムは、まさにボディ・ポジティヴィティ運動の旗手である。彼女は「この企画から降ります」と表明した。

 この企画って? 実はその「デブが美しいわけがない」Tシャツは、偏見や差別と戦う女性たちを励ますためのチャリティ企画のために作られた。レナ・ダナムのような女性たちがSNSでぶつけられた嫌がらせの言葉をあえてプリントした服をそれぞれが着てキャンペーンをするはずだった。ちなみにレナ・ダナムが着る予定だったのは「今のフェミニズムの悪い例」という言葉で、「デブが美しいわけがない」は人気のLサイズモデル、パロマ・エルセッサーが受けた罵倒だった。それがなぜか、キャンペーン前に商品化されてしまったのだという。しかし、なんでそんな事故が起こるんだよ。

 レナ・ダナムはREVOLVEに抗議するため、インスタグラムにルーベンスの描いた豊満な女性たちの絵と、シャワールームの床に裸で横たわる自撮りをくっつけた。ただ脱ぎたいだけじゃないの?

 筆者の全裸自転車ライド取材は既に日本のテレビで放送された。画面いっぱいに数千人のおっぱいちんちんが映り続けているため、1つ1つ修正するのは不可能ということで、首から下が全部ボカされて、何が何なんだか全然わからない、という放送事故モノになってしまった。オレと1万人脱ぎ損!

[初出 週刊文春2018年10月11日号]

第3弾「「キアヌ・リーブス」は9月27日金曜日に公開されます。

(町山 智浩)

※筆者が参加した全裸ライドではありません ©iStock