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 気候変動科学には150年の歴史があり、おそらく近代科学ではもっとも検証されてきた分野だ。しかし、規制に反対するエネルギー産業やロビー活動家たちは、そうした科学をずっと疑問視し、いつしか誤った噂が信じられるようになった。

 こうした組織的な気候変動科学の否定運動は、世界的な温室効果ガスの削減がなかなか進展しない現状の大きな要因のひとつとなっているようだ。

 彼らは温暖化を否定するために気候科学には嘘があると主張する。とはいえ我々素人がその真偽を見抜くことは困難だ。

 海外サイトで「地球温暖化にまつわる嘘」とされる5つのエピソードを科学的事実と照らし合わせて検証していたので見ていくことにしよう。

【画像】 1. 「温暖化は自然のサイクルの一部である」の誤り

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過去6500万年の世界気温と、温室効果ガスの影響で起こりうる将来の気温上昇(Burke et al. 2018) / 画像内の単語訳 pal:暁新世 eocene:始新世 oli:漸新世 mio:中新世 pliocene:鮮新世 pleistocene:更新世 holocene:完新世 S. hemisphere ice sheets:南半球氷床 N.hemisphere ice sheets:北半球氷床 mry before present:100万年前 kyr before present:1000年前 year CE:西暦

・合わせて読みたい→地球温暖化で動植物が小型化、いずれは人間も? 化石調査と実験で判明(シンガポール研究)

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 地球の気候は常に変化しているが、古気候学(過去の気候を研究する学問)が明らかにしているのは、産業革命以降の150年間は例外的で、自然なものではないということだ。

 気候モデルによれば、将来的な気温の上昇は過去500万年のスパンで見ても未曾有のものになると予測されている。

 自然サイクル説では、地球は小氷河期(1300~1850年)の寒冷な気候から回復する途上にあり、現在の気温は中世の温暖期(900~1300年)と同じ水準であると主張する。

 だが、小氷河期も中世の温暖期も北西ヨーロッパ、東部アメリカ、グリーンランドアイスランドに限られた地域的なものでしかない。

 700の気候記録を用いた研究は、過去2000年の間で世界中の気温が同時に、かつ同じ方向に変化したのは、直近の150年しかなかったことを明らかにしている。

 この間、地球の表面の98%の気温が上昇している。よって今の温暖化は自然のサイクルの一部という噂は誤りである。

2.「 温暖化は太陽の黒点や銀河宇宙線によるもの」の誤り

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1880年以降の世界的な地表の温度の変化(赤)と地球が受ける太陽エネルギーの変化(黄色)の比較(ワット / m2換算) / 画像内の単語訳 solar irradiance:太陽放射照度 temperature:気温 11-year:11年間の平均 / 年 total solar:総太陽放射照度 degree:摂氏

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 黒点とは、太陽の表面にある激しい磁気活動やフレアをともなう嵐のことだ。それが地球の気候に影響を与えるほど強力であるのは本当の話だ。

 しかし、人工衛星のセンサーで地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを記録したところ、1978年以降にその増加は確認されなかった。つまり、黒点が最近の温暖化の原因ではないということだ。

 銀河宇宙線は、太陽系外から届く(遠方の銀河が発生源である可能性もある)高エネルギー放射線だ。

 こちらについては、雲を作り出す可能性が示唆されてきた。つまり地球に届く銀河宇宙線が減れば、雲もまた少なくなり、宇宙に反射される日光も減る。その結果として、地球の気温が上昇するというわけだ。

 しかし科学的な証拠によって、宇宙銀河線が雲を作り出す効率はそれほど高くないことが明らかにされている。

 また過去50年において、銀河宇宙線は減るどころか増えており、近年では記録的なレベルにまで高まっている。

 銀河宇宙線起因説が正しいのだとすれば、地球の気温は下がらなければならないはずだが、そうなっていない。

 つまり今の温暖化は太陽の黒点や銀河宇宙線によるものではない。

3. 「大気に含まれるCO2は少量で強い温室効果があるはずはない」の誤り

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American Journal of Science』(1857年)に掲載されたユーニス・ニュートン・フットの研究論文

 これは昔なら常識だったかもしれないが、まったくの誤りだという。

 1856年、アメリカの科学者ユーニス・ニュートン・フットは、エアポンプとガラス製シリンダーと温度計を使った実験を行い、二酸化炭素を含んだシリンダーを日光に当てると、ただの空気しか入っていないシリンダーに比べて、より多くの熱がたまり熱くなることを明らかにした。

 この実験は、実験室でも大気中でも繰り返し再現され、二酸化炭素の温室効果はその都度実証されている。

 少量しかないものが全体に大きな影響を与えるはずがないという思い込みについては、たった0.1gのシアン化合物が人間の大人を殺せるという事実を考えてみるといい。体重に占める割合でいえば、それはわずか0.0001%でしかない。

 二酸化炭素の場合、大気に占める割合は0.04%でしかないが強力な温室効果を発揮する。一方、窒素は78%を占めるがほとんど反応しない。 よって「CO2は少量でも強い温室効果」を発揮するのだ。

4. 「科学者はデータを改ざんしている」の誤り

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5つの独立した国際的科学グループが提示する1880~2018年にかけての世界気温(NASA, CC BY) / 画像内の単語訳 A world of agreement : Temperatures are rising:世界的合意:気温は上昇している global temperature anomaly:世界の気温偏差 NASA goddard institute for space studies:NASAゴダード宇宙科学研究所 Berkeley earth:バークレー・アース Japanese meteorological agency:日本気象庁 NOAA national climatic data center:NOAA国立気候データセンター Met office hadley centre / Climatic research unit:英気象庁ハドレーセンター / 気候研究ユニット

image credit:NASA

 この噂も広がっているが、そんなことはないという。それをするためには莫大なデータの改ざんを行わなければならない。100ヶ国以上に散らばる1000人以上の科学者全員を巻き込んだ陰謀が必要になる。

 確かにデータが検証され、それが修正されることはあるだろう。実際、測定方法の変化に合わせて、歴史的な気温データは修正されてきた。

 1856年から1941年にかけて、ほとんどの海水温データは、船の上からバケツで海水を汲み上げて計測されていた。

 このやり方ではバケツの材質や船の種類(帆船か蒸気船か)といった要因で測定値はバラついてしまう。それどころか、汲み上げる途中で蒸発するために、船の甲板の高さでも変わる。

 だが1941年になると、船のエンジン冷却水で計測されるようになった。こうなれば蒸発による冷却効果を考慮する必要はない。

 また都市が成長していることも考慮せねばならない。かつては田舎にあったはずの気象台でも、いつの間にやら、気温が高い傾向にある都心部に変わっていたということだってある。

 仮に元データにこうした要因による修正を加えなかったとしても、懐疑論者の都合の良いようにはならない。

 というのも、その場合、過去150年の気温はおよそ1度上昇した実際のデータよりもさらに高いものになってしまうからだ。

 よって科学者がデータを改ざんしているというのは誤りだ。

5. 「気候モデルは信頼できず二酸化炭素に敏感すぎる」の誤り

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気候モデルと観測結果(1970~2017年) 1970年以降の世界気温のモデルによる再現。モデル平均(黒点)とモデルの範囲(灰色の区間)、ならびにNASANOAA、HadCRUT、CawtanおよびWay、バークレー・アースの観測値との比較

image credit:Carbon brief

 この主張は、モデルの働きについて不正確で、誤解がある。そして将来的な気候変動の深刻さを軽視するための手段だ。

 気候モデルには、雲を理解するための特定のメカニズムを対象としたものから、地球の将来の気候を予測するための大循環モデル(GCM)まで、さまざまなものがある。

 世界には20の主要な国際センターがあり、そこでは世界最高の頭脳たちが、最新の気候システムへの理解を盛り込んだ長大なプログラムで構成されるGCMを稼働させている。

 そして、こうしたモデルは、常に歴史的・古気候学的データや火山のような個々の事象と照らし合わされて、それがきちんと現実の気候を再現したものであるかが検証されている。

 複雑きわまりない世界の気候を再現しなければならないために、完璧に正しいとされるモデルはただのひとつもない。

 それでも数多くのモデルを構築し、それぞれが個別に検証されているために、そうしたモデルから導き出される予測には信頼性があるといえる。

 よって気候モデルは信頼に値するものである。

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世界気温:人為的・自然要因(1850~2017年) 1850年代以降の世界気温に対する自然および人為的影響(NASA, CC BY) / 画像内の単語訳 observed:観測 all:全要因 greenhouse:温室効果ガス aerosol:エアロゾル land:土地利用 ozoneオゾン solar:太陽 volcanoes:火山

image credit:Carbon brief

誤った噂に振り回されないで真実を見極めよう

 どのモデルも大気に二酸化炭素が追加されればかなりの温暖化が起きると示している。

 そして、すべてのモデルを総合すれば、二酸化炭素が二倍に増加したとき、地球の温度は2~4.5度、平均3.1度上昇することが示唆されている。

 モデルの複雑さが大幅に増しているにもかかわらず、ここ30年に予測された温暖化の程度は非常に似通っている。これは気候科学が導き出した結果が頑強なものであるという証左だ。

 温暖化と寒冷化の要因となる自然(太陽、火山、エアロゾル、オゾン)ならびに人為的現象(温室効果ガス、陸地利用の変化)に関する科学的知識すべてを合わせると、過去150年間に観測された温暖化の100%は人間に由来することが示されている。

 その一方で、消えることのない温暖化否定論に科学的な裏付けはない。

 気候科学をオープンかつ透明に総括するために国連によって設けられた気候変動に関する政府間パネルは、温暖化の証拠として6つの明らかな傾向を提示している。

 気候がますます極端化するにつれて、人々は気候が変化しつつあることを科学者に語ってもらうまでもないことに気づくようになるだろう。百聞は一見に如かずというわけだ。

References: The conversationなど / written by hiroching / edited by usagi

追記:(2019/9/27)本文を一部訂正して再送します。

 
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