韓国の文在寅大統領と、アメリカドナルド・トランプ大統領が、現地時間の9月23日夕刻に、国連総会が開かれているニューヨークで、9回目の米韓首脳会談を行った。だが、日本が注視していた日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)について話し合ったという報道はなく、これが11月22日をもって破棄される確率が、いよいよ高くなってきた。

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 私は、トランプ大統領もホンネでは、日韓GSOMIAを破棄したいのではないかと勘繰っている。

トランプも文在寅も金正恩に「恋してる」

 そもそもトランプ大統領文在寅大統領は、日本では「不仲説」が取り沙汰され、「トランプ大統領と昵懇の仲の安倍晋三首相と大違い」などと報道されている。今回の米韓首脳会談でも冒頭、トランプ大統領が文大統領を無視して、一方的にまくし立てる場面が見られたことなどを、日本メディアは辛辣に報じた。

 だが、この米韓トップには、実は2つの重要な共通点があることを忘れてはならない。

 それは第一に、二人とも北朝鮮金正恩委員長に「恋して」いることだ。

 北朝鮮が今年5月以降、短距離ミサイル実験を10回も行っているにもかかわらず、両首脳は意に介さない。そして両首脳とも、金正恩委員長を近く、自国に招待することを夢見ている。

 そのため、この両首脳の「不仲説」は、むしろ「二人が恋敵(こいがたき)だから」と考えた方がよいのかも知れない。早い話が、トランプ大統領は、文在寅大統領が自分よりも金正恩委員長と「近い関係」になってしまうのではと、ヤキモキしているのである。時に文大統領を無視したような仕草を見せるのは、「嫉妬」の表れである。だが、米韓両首脳は明らかに、同じ方向を向いている。

 2つ目の共通点は、両首脳とも「在韓米軍を撤退させたい」という気持ちを抱いていることだ。私は、昨年6月にシンガポールで、歴史的な米朝首脳会談を取材したが、何より衝撃を受けたのが、首脳会談後の単独会見で、トランプ大統領が「在韓米軍はカネの無駄だから撤退させたい」と発言したことだった。

「経営者」トランプにとって軍隊は「警備会社」のようなもの

 私はトランプ外交を「商談外交」と呼んでいる。トランプ大統領は、まるで会社を経営するかのような方法で、国家を統治しようとしている。

 だが国家にあって会社にないのが、安全保障分野だ。その辺りは、軍隊を警備会社のように捉えている。

 そのため、トランプ大統領にとって在韓米軍とは、自分が経営する警備会社の社員たちを韓国に貸し出しているような感覚だ。だから「(警備会社の出張費を)増額しろ!」となるのだ。

 その裏返しで、「払わないなら撤退する」となる。在韓米軍に対する韓国の負担分は、2019年は1兆389億ウォン(約935億円)で合意した。前年比8.2%増だ。

 だが、2020年分はまだまとまっておらず、トランプ大統領は、今年の5倍(!)を要求しているという報道も出た。これはもう、トランプ大統領が撤退の方向で考えているということではないのか。

 一方の文在寅大統領は、公の場で在韓米軍の撤退に言及したことはない。だが、「文在寅大統領の代弁人」と言われる文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保担当特別補佐官は昨年、米外交誌『フォーリン・アフェアーズ』(2018年6月号)に「朝鮮半島平和の本当の道――文・金サミットの進展と約束」という論文を寄稿。「平和協定が結ばれた後には、韓半島(朝鮮半島)で在韓米軍駐留を正当化するのは困難だ」と記して、日米韓に衝撃を与えた。

 文補佐官は、今年9月9日に高麗大学で行った講演でも、「韓米同盟を生かそうとして南北関係がダメになっている」「南北関係で最大の障害物は国連軍司令部(在韓米軍)」「韓国国民は『国連軍司令部は撤収せよ』と言い出すはずだ」・・・と、発言をエスカレートさせている。

 ある韓国政府関係者に、文正仁補佐官の存在について聞くと、次のように答えた。

「外交安保オンチの文在寅大統領にとって、文正仁補佐官は先生のような存在です。つまり、大統領と補佐官の関係というより、先生と生徒のような関係になっているのです。

 そのため、『文補佐官の言葉は文大統領の言葉』というのが、青瓦台(韓国大統領府)の常識です。例えば、文正仁補佐官の『天敵』と言われたのが、宋永武(ソン・ヨンム)前国防長官でしたが、文大統領は昨年9月、宋長官の方をクビにしてしまいました。

 今年8月9日、文大統領は、新たな駐米大使に、(北朝鮮の核開発問題を話し合う)6カ国協議の韓国代表を務めた元外交官で、与党・共に民主党の李秀赫(イ・スヒョク)議員を任命しました。ところが文大統領の『意中の人』は文補佐官で、文補佐官を駐米大使に起用しようと画策したのです。

 しかし、ワシントンの外交安保関係者たちが、『韓国大使館が北朝鮮大使館になってしまう』と猛反発し、喰い止めました」

二人の”文”は一心同体

 文正仁補佐官には、私も延世大学政治外交学部教授時代に何度かお目にかかったことがある。「2000年2007年の歴史的な南北首脳会談に、どちらも立ち会った学者は私しかいない」と、自慢げに語っていたのが印象的だった。

 文補佐官は、流暢なべらんめえ調の英語を話すが、「同盟(アメリカ)より同胞(北朝鮮)重視」という左派学者の典型である。金大中、廬武鉉、文在寅と、左派3代の大統領に仕えたが、影響力の度合いで言えば、現在がピークで、「二人の文(大統領と補佐官)は一心同体」とも言えるのである。

 ともあれ、こうしたことを勘案すると、日韓GSOMIAの継続は、かなり悲観的に考えておく必要があるだろう。日韓が揉めた時には両国の同盟相手であるアメリカが懐柔に乗り出すというのが、過去半世紀の「鉄則」だったが、いまやトランプ大統領も「破棄支持派」と思えるからである。

文正仁と曺国疑惑との接点

 おしまいに、文正仁補佐官の「死角」について、ひと言言及しておきたい。

 韓国で、いま最もホットな話題と言えば、「タマネギ男」(剥いても剥いても疑惑が出て来る)と言われる曹国(チョ・グク)法務長官を巡る一連の疑惑である。日本でもいまやすっかり有名人で、日本の法務大臣の名前(河井克行法相)は知らなくても、韓国の法務長官の名前は知っているという日本人も多いことだろう。

 曹国長官の疑惑は、一族による不正投資から娘の学校を巡る疑惑まで多々あるが、ここへ来て新たに噴出したのが、息子の大学入学を巡る疑惑である。そしてこの息子が通っているのが、まさに延世大学政治外交学部なのである。

 文正仁補佐官は、2016年に延世大学を定年退職しているが、いまだに政治外交学部で絶大な影響力を持っている。そして、検察が曹国長官の息子の入学時の書類を押収しようとしたが、息子のものだけ紛失していたとか、延世大学の学生会が独自調査に乗り出すとかいったことが、ニュースになり始めた。

 ここへ来て、文在寅大統領にとっての「助さん、格さん」のような存在である曹国長官と文正仁補佐官が、一本の線でつながったのである。内政を巡る韓国の混乱が、この先、外交安保にも波及していくかもしれない。

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9月23日夕(日本時間24日早朝)、国連総会に合わせて首脳会談を行ったトランプ米国大統領(右)と文在寅韓国大統領(写真:AP/アフロ)