Point
■2018年11月に火星に着陸した、探査機『InSight』は、火星の地表で夜間だけに発生する謎の磁気脈動を捉えた
■火星は惑星を覆うような磁場は既に失われているが、部分的には地球の10倍の磁場が確認されている
■今回の磁気脈動は、こうした磁場と太陽風とのもつれによって発生している可能性もあるが、現在のところ原因は不明
火星はかつて、地球と同様に惑星を覆うほどの磁場を持っていたと推測されています。
現在の火星は地殻活動が停止し、磁場のほとんどが失われていますが、地殻の奥にはかつてどれほどの磁場がどの向きに発生していたかという記憶を残した鉱物が残されています。
こうした火星内部の調査を目的に、NASAにより打ち上げられたのが探査機『InSight』です。そして今月、その成果の一部が発表されました。
そこではある不思議な現象が報告されています。火星には、夜中になると発生する謎の磁気脈動があるようなのです。原因は現在も調査中ですが、こうしたデータは、火星がなぜ地球とは異なる歴史を歩んだかを知るための手がかりになる可能性があります。
この報告は、2019年9月にスイスのジュネーブで開催された欧州惑星科学会議と米国天文学会の合同学会(EPSC-DPS Joint Meeting 2019)にて発表されました。
Surface: Initial Findings and Implications
https://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC-DPS2019/EPSC-DPS2019-838-1.pdf
火星の内部を調査する探査機『InSight』
火星は42億年ほど前に地殻活動を停止させ、磁場を失ったと言われています。
磁場の調査はこれまで、遠く離れた地球や宇宙空間から惑星上層の磁気状態を確認するだけに留まっていました。しかし、磁場は惑星の地殻から発生するもので、詳しく知るためには実際地表に降り立って、調べる必要があります。
磁場の直接測定は、惑星の内部構造と組成、そして大気中の帯電ガスの振る舞いまで実に多くの情報を与えてくれます。
探査機『InSight』は、こうした磁場の情報を含め火星内部の様子を調査する目的で打ち上げられ、2018年11月に火星へ着陸しました。
着陸からまだ1年も経過していないため、『InSight』のもたらした情報については、細かい精査や分析は完了していません。
しかし、『InSight』は火星の地下から過去の観測の20倍近い強い磁場が出ていることや、地下4kmほどに導電層があるなど、興味深い発見を数々報告しています。導電層は、地下水が存在する可能性を示唆しているものかもしれません。
そして、『InSight』の報告では、奇妙なことに、周辺の地殻磁場が夜間にだけ振動しているというのです。
磁場の振動
磁気脈動は、あまり聞き慣れない単語ではありますが、現象としては決して珍しいものではありません。
惑星の磁場は太陽風の影響や、大気の影響を受けて揺らいでいるため、地球上でも磁気脈動は観測されることがあります。しかし、夜間にだけ発生するという条件は特殊です。
地球でも同様の振る舞いをする磁場は確認されていません。
脈動は10MHzの周波数帯域で夜間だけに、2時間程度持続することが確認されているといいます。
現在この現象は調査中のため、はっきりとした原因はわかっていませんが、仮説の1つとしては、太陽風と火星の大気が衝突した際に発生する弱い磁場の膜が原因ではないか、と言われています。
宇宙空間から火星の上層磁場を観測している探査機『MAVEN』は、火星に太陽風との相互作用で発生した目に見えない、ねじれた磁気の「尾」が存在することを発見しています。
これは、図のように太陽に背を向けた惑星の夜間領域で発生しているため、今回の磁気脈動と関係のある現象ではないかと考えられているのです。
探査機『MAVEN』は現在のところは、火星の昼の空からしか観測を行っていないため、今後は夜の領域でも観測を行い、『InSight』の観測とリンクさせて関連性を調べていく予定とのこと。
かつて火星は地球同様、磁場に守られた惑星でした。しかし、外核部の地殻の対流が止まることで磁場を失い、太陽風から惑星の大気と水を守ることができなくなり、現在のような乾いた砂漠の星となってしまったのです。
こうした惑星磁場を間近で観測する研究は、惑星の内部構造や、惑星進化の過程を知ると同時に、なぜ良く似た環境にあった地球と火星が、これほど異なる歴史を歩むことになったかの謎も明らかにしていってくれるかも知れません。
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