「育児をしていると『決断』をする場面が多くて疲れてしまう」

 このような声が、育児中の親から多く聞かれます。親自身や夫婦間のことに加え、「今日の気温に合った子ども服はどれか」「どんなベビーカーを買うか」「今オムツを替えるべきか」「いつ予防接種に行くか」など、子どもに関する日常の細かな選択や決め事がとても多く、一つ一つの決断とその結果に対する責任やプレッシャーもあり、その積み重ねによって疲れてしまう親もいるようです。

 育児上の「決断疲れ」について、ネット上では、「育児は本当に決断の連続」「1人目のとき、選択の正しさに自信が持てず消耗していた」などの体験談が寄せられています。育児中の親を悩ませる「決断疲れ」と、どのように向き合えばよいのでしょうか。子育て心理アドバイザーの雨宮奈月さんに聞きました。

人間の「決断」は3万5000回以上

Q.育児における「決断疲れ」は、実際に多くの親にみられるのでしょうか。

雨宮さん「育児について、さまざまなタイミングで頭を抱えている両親はとても多いように感じます。そもそも人間は、1日3万5000回以上の自己対話と決断をしているといわれます。『目覚ましが鳴ったら起きよう』『カーテンを開けよう』など、無意識の行動でも常に自分の行動のために脳へ指令を送り続けています。『今日は何を食べようか』といった意識的な行動を含めると、自分自身のことだけで相当な回数の決断をしています。

育児中の両親は、これらに加えて、お子さんのことで決断が増えます。しかも、自分自身の中にある『パターン』、いわゆる経験則がまだないので、一つずつの決断に時間や気力を費やして、疲れてしまうのは当然でしょう」

Q.育児の決断疲れの原因として、どのようなことが考えられますか。

雨宮さん「次々に決めなくてはならない締め切りが常に迫っていること、情報が非常に多いこと、そして、その決断の答えを早くに求められ、『責任』を親の自分たちだけが負うことが原因としてあるでしょう。核家族化という背景なども考えられます。

特に子育てにおいて、夫婦間で価値観の違いや温度差があるとストレスが大きいようです。決断する割合が夫婦間でどちらかに大きく偏り、片方が、パートナーに対してよかれと思って『任せるよ』と決定を押し付けたり、無責任に『別にいいんじゃない?』と発言したりしていると、さらに大変です。決断する側は、子どもに与える食べ物や洋服を選ぶなど、全ての行動にいちいち『これが最良なのか』と考える必要があるからです。

また、一度に多くのことを決めないと何も進まない場面が、育児には多くあります。しかも、その決断で失敗することもあるので、なおさら疲れます。せめて、大きな決断をするときは、パートナーが一緒にその決断を背負ってほしいものです」

Q.特に決断疲れを感じやすいのは、子どもが何歳くらいの時期でしょうか。

雨宮さん「幼稚園や保育園の入園時など、『育児に家族以外の介入が起きるタイミング』でしょう。どこの幼稚園や保育園がよいのか、保育期間は何年か、認可園を待つのか待たないのかなど、子どもの初めての『社会』を選ぶ責任は重大だからです」

Q.育児中、決断疲れに陥りやすい人/陥りにくい人の特徴とは。

雨宮さん「よくも悪くも、人は思考や行動をパターン化するものです。いつも同じパターンでスマートに決められる人は、あまり決断疲れをしないでしょう。昼食を食べるシーンで考えてみると、『今日はパスタを食べよう』と決めて、その通りにパスタを食べる人は決断疲れに陥りにくいです。『時間がないからおそば』と、やむを得ない変更があっても割り切れる人も大丈夫です。

注文した後に『やっぱり別のメニューにすればよかったかな』と思ったり、それを食後まで引きずったりして、気持ちの落としどころをうまく決められない人は要注意です」

自分の決断に自信を持とう

Q.夫婦関係や、実家・義実家との関係性は、育児の決断疲れに何らかの影響を与えると思われますか。

雨宮さん「夫婦の価値観が完全に一致することは、なかなかありません。ましてや、お互いの両親が関係してくると、価値観が“六者六様”になってしまいます。入念にリサーチして幼稚園を選んだのに『そんな早くから行かせなくてもいいんじゃない?』、お菓子をあげるタイミングを決めているのに『食べたそうだし、一口あげてもいいよね?』など、孫への愛情たっぷりの祖父母が持つ、自分とは異なる価値観に困ることもあります。

そんな場面でも『私は○○という考えなのでこうしています』と伝えることができ、それを受け入れてくれる実家・義実家との関係性があれば、非常に助かります。そうでない場合、自分の決断を認めてもらえないことが心に負担をかけるかもしれませんが、相手がすぐに100パーセント受け入れてくれなくても、諦めずに自分たちの決断の方針を伝えていく努力は必要です」

Q.育児の決断疲れによる精神的負担を軽くするために、日常生活においてどのような工夫や意識をするとよいでしょうか。

雨宮さん「決断疲れを少しでも和らげるために、次の4つの工夫や意識を心掛けてみましょう」

【自分なりのルールを持つ】

決断をするための「自分なりのルール」を作っておくとよいでしょう。決まったルールがあれば、決断する回数が減るからです。例えば、「同じことを3日以上は考えない」「悩んだら即決はせず、必ず一晩寝かせる」などの他、「一度決めたことでも、2回までなら変更してよい」など、ある程度柔軟性を持つとよいでしょう。

【誰かに相談をする】

本当に迷っているときは、誰かに話を聞いてもらうのも大事です。迷いや決断を言葉にすることで、自分の導き出した答えに、より自信が持てます。

【メリットとデメリットを書き出す】

客観的に判断できるように、メリットとデメリットを箇条書きにするのも有効です。デメリットを解消する方法が見つかったら、一つずつ消していきましょう。

【子どものせいにすることがないように意識する】

子どもから想像通りの反応がなかったためにがっかりし、つい「せっかく買ったのに」「せっかく作ったのに」と思っても、それを決断したのは自分であり、子どもの責任ではありません。そのことを肝に銘じておけば「しょうがないか」と気が楽になります。

Q.決断に疲れている親に伝えたいことは。

雨宮さん「子育てに正解はありません。同じ親から生まれたきょうだいでも、親の年齢や経済状況など、誕生時の環境はそれぞれ必ず異なるため、『初めてのこと』はとても多いものです。よく『上の子と同じだけしてあげたい』という思いを耳にしますが、『同じ』には決してなりません。だからこそ、その都度、その子どもに合ったことを意識して決めてあげるとよいでしょう。

どこかの誰かに指摘される筋合いはありませんし、誰かの経験も単なる参考にしかなりません。自分の意思で判断し、自分が最良と思う決断に『これでいいのだ』と自信を持ってください。お子さんのことを一番分かっているのは、やはり一番近くにいる親なのです」

オトナンサー編集部

「決断疲れ」とどう向き合うべき?