連続テレビ小説なつぞら』で、自分の夢に実直に突き進む純度100パーセントの青年・小畑雪次郎を演じ、好評を博した俳優・山田裕貴。一方で、同時期深夜に放送されたドラマ『HiGH&LOW THE WORST EPISODE.O』では“漆黒の凶悪高校”鬼邪高校を仕切る定時の番長・村山良樹を怪演するなど、ふり幅の広さには驚かされる。

【写真】少年っぽさ漂う表情が魅力的な山田裕貴

 朝と夜でまったく違うキャラを演じている山田を見ることの楽しさを伝えると、本人は「どんな役でも演じるというのが、自分のなかでの強みではあるのですが、両方とも僕が演じているということにどのぐらいの人が気づいてくれているか分からないですよね」とやや自嘲気味に笑う。

 ドラマ『HiGH&LOW THE WORST EPISODE.O』は、10月4日から公開される映画『HiGH&LOW THE WORST』の前日譚に当たる物語であり、山田にとっては『なつぞら』への出演が決まったときから「『EPISODE.O』と朝ドラが同時期に放送され、朝ドラが終わるのが9月。そして映画の公開が10月頭。自分が朝ドラで多くの人に知ってもらえることで、映画にも良い影響が与えられるという意識はありました」と胸の内を明かす。

 朝ドラで雪次郎のピュアさを観たあと、深夜では、不良たちから100発殴られる荒行を耐え抜き、その後全員を返り討ちにした圧倒的強さと、やや天然の飄々(ひょうひょう)としたマイペースさが共存するつかみどころのない番長・村山を観ると、同一人物が演じているとは思えない驚きを覚える。

 「気づいてもらえていないかも」と山田自身は語っていたが、逆に考えれば、それだけ役になり切っているということ。本人も「自分がゲイリー・オールドマンを見て『この役とこの役同じ人だったんだ』と驚いたのと同じことをやりたい」と語っていたが、オンエアのタイミングが重なったことは、山田の目指している道を突き進んでいることを証明する結果となっている。

 そんな山田の俳優活動の一つの集大成となっているのが、最新作映画『HiGH&LOW THE WORST』においても、圧倒的な存在感を見せている村山というキャラクターだ。非常に立体的な人物造形は、数々の役柄を演じてきた山田だからこそ作り上げることができたのだろう。

 「最初に役をいただいた4年前から、共演した林遣都くんや岩田剛典さん、窪田正孝くんらがどんな芝居をやってくるかを見ているなかで、みんなが一番行かないルートを通ろうと思ったんです。普通の不良にはしたくなかった。そこから、自分の中のいろいろな引き出しを開けて、『コブラちゃん』と呼んでみたり、『ジャジャーン』とかやってみたり…。そういう芝居を、監督をはじめスタッフの方々もしっかりキャッチしてくれて、次の話の台本に盛り込んでいただき、本当にありがたかったです」。

 本作では『HiGH&LOW』シリーズと、 累計発行部数7500万部を突破している高橋ヒロシの伝説的不良コミック『クローズ』『WORST』がコラボした。「ヤベーって思いました」と破顔した山田は「最初話を聞いたときは鈴蘭が出てくるのか、鳳仙が出てくるのか、滝谷源治は? 芹沢多摩雄? 美藤兄弟? とかいろいろなことを考えてしまいました」と興奮気味に語る。

 すべてにおいてパワーアップした『HiGH&LOW THE WORST』だが、シリーズを通して山田は、トップに立つ人間が背負うものの重さを痛感したという。「当初のドラマシリーズで岩田さん演じるコブラタイマンはるとき『俺、これが頭だと思ってもらえるように死ぬ気でやるので、見ていてください』と他の鬼邪高のメンバーの人たち一人ずつに頭を下げて回ったんです。そうしたら一気にコミュニケーションが円滑に進みました。いろいろなものを背負うってこういうことなんだなと分かった気がしたんです」。

 さらに俳優として、強い思いがあったという。「鬼邪高のメンバーだけ、LDH(注:岩田剛典らが所属する事務所)さんがいないチームだったので、勝ち負けではないのですが、長く俳優をやっている人間として『絶対良い』と言われなくてはいけないんだという気概を持ってやっていました。自分の想像を超える芝居を見せなければいけないという危機感が常にありました」。

 「鬼邪高校篇にフォーカスした作品になってからお客さんが減ったと言われたくない」と強い視線で語った山田。そんな言葉が杞憂に終わるぐらい、本作の熱量は圧倒的であり、山田演じる村山は“最高に格好いい”仕上がりになっている。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 映画『HiGH&LOW THE WORST』は、10月4日より全国公開。
 
※高橋ヒロシの高は正しくははしご高。

山田裕貴、『HiGH&LOW THE WORST』インタビュー  クランクイン!