速水 今年の夏を振り返ると、戦後最も悪化したと言われる日韓関係の問題、その前には7月の参院選があって、香港でのデモが長引くなど、国際関係と政治関連で大きな事件がたくさんあった。どこから振り返ればいいかな。

おぐら それ以外に国内のニュースでも、ジャニー喜多川の死去(7月9日)、京都アニメーションの放火事件(7月18日)、小泉進次郎滝川クリステルの結婚発表(8月7日)、千葉の台風15号による被害など、いろいろありました。

「何歳かな?」発言の小泉進次郎SNSに参加しないのはなぜか

速水 小泉進次郎は、結婚発表が世紀のカップルと話題になり、その約ひと月後、9月の内閣改造で、目玉のサプライズ人事として環境大臣に抜擢。この辺りからずっとテレビのワイドショーを独占。ネットで叩かれる進ちゃんと、テレビに愛される進ちゃんの乖離が大きいね。

おぐら ネットでは、“進次郎ポエム”でも盛り上がりました。福島第一原発事故による汚染土の処理問題については「30年後の自分は何歳かな?」と答えたり、国連本部での環境問題に関する記者会見では「気候変動のような大問題に対抗するためには、楽しくなければならない。そしてクール、それにセクシーにね」と言ってました。

 

速水 SMAP世代だからね。あれからぼくたちはさ、何かを信じてこれたのかなあ。

おぐら あの頃の未来にぼくらは立っているのかな…って、小泉進次郎の世代は嵐ですけどね。だからちょいと重いのはBoo!  夢だけ持ったっていいでしょ? 

速水 ともかく、進次郎は発言に中身がないことが批判されているけど、そんな相手に口説かれたクリステルって……。

おぐら 人心掌握には長けてますから。恋愛においては、話の内容よりも雰囲気のほうが優先されるようなことが往々にしてあります。

速水 でも、まじめな話、進次郎は明らかネットと距離を置いているよね。botみたいなブログは更新されているけど、Twitterやってない。

おぐら SNSは発信者と受け手の距離が近いっていうことで、多くの政治家が利用していますが。

速水 進次郎はそこは狙ってないんだよ。その選択が、一番の彼の明確な戦略って感じがする。

おぐら SNSをやらずとも、メディアがどんどん発言を拡散してくれますし。

速水 そして、小泉進次郎に関しては批判者も裏返しの支持者になってしまう。結局、ワイドショーネットもずっと進次郎ばっかりネタにしているでしょ。アンチ含めみんなの関心を集め続けた泡沫候補のトランプ大統領になってしまった現実をなぞっている状態。

おぐら その流れでいうと、公共放送をぶっ壊すと喧伝している政党の党首も、積極的なメディア戦略で存在感を発揮しています。

速水 そこは、触れるのやめようよ。こっちもまさに批判が裏返しの支持になってしまうし。

ガラケー女」「渋子スマイル2019夏で話題になった2人の女性

おぐら 今年の夏は新しい女性のスターも登場しました。彼女の着ていたウェアも話題になって。

速水 あ、あれね。例のガラケー女?

おぐら 違いますあおり運転の事件も確かに話題になりましたけど。

速水 常磐自動車道の路上で後方の車を停車させて、降りてきた男が運転席の窓越しにガンガン殴りつけたのをガラケーで撮影していた女性じゃなくて?

おぐら その女性は別にウェアは話題になってないでしょう。ゴルフ界の新星、渋野日向子ですよ。20歳で全英女子オープンに優勝して、一気にスターになりました。
 

速水 “渋子スマイル”のほうね。あれは抜群のパンチ力だった。あ、パンチといっても、あおり運転事件の話じゃなくて、ドライバーの飛距離の話。

おぐら 話題性からいっても“渋子スマイル”は今年の流行語大賞ノミネートは間違いなさそうです。

速水 だからといって、ファンメディアが本人にスマイルを要求するのは行き過ぎだと思うけど。

おぐら ギャラリーとのハイタッチも話題になりましたが、ケガのリスクがあるということで、次の大会からは子ども限定にしましたね。

速水 今後はガラケーでの撮影にも応じないと。

おぐら ガラケーとか関係なく、撮影は子供でもダメです。

話題をさらった「あおり運転」に群がる意外な人たち

速水 またあおり運転に話を戻すと、常磐自動車道の事件は車載カメラパンチ動画で一気に拡散したけど、愛知の東名高速エアガン男っていうのもあった。

おぐら 盗難車でナンバーまで付け替えて、ネットで知り合った同乗女性を置いて逃げて逮捕状が出た事件ですね。

速水 車の事件では、ちょっと前まで高齢者のアクセル踏み間違いが最大の社会問題だと言われていたのに、ここへきて40代のDQNたちがどうしようもないっていう風潮が大きくなってる。

おぐら 40代はヤンキー漫画で育った世代で、ワルい=カッコいいと思う文化があるからじゃないかって指摘もあります。

速水 うーん、たしかに『ビー・バップ・ハイスクール』、『湘南爆走族』、『ろくでなしBLUES』、『カメレオン』、『特攻の拓』、『今日から俺は!!』とかで育ってはいるけど、そういう問題じゃないでしょ。

おぐら でも今の30代、20代になればもっと、ワルい=かっこいいっていう感覚は薄いと思いますよ。不良に憧れる層も減っているのでは。

速水 わかる気もする。でもさ、この問題、もう次の段階に行ってる。ネット動画の世界で、あおり運転動画関連へのアクセスが多いのを見込んで、あおり運転を誘発させる人たちがいるって。

おぐら あおり運転をあおるYouTuber……最悪ですね。

速水 怒らせようと、わざと右レーンをゆっくり走って前方を塞いでブレーキをかけたりするやつが出てきているんだよ。もちろん、それは動画を公開するためにやってる。これが本当だったらかなり悪質。みんなの“わかりやすい悪者を見たい”を見たいっていう願望がこうした状況を生み出しているってこと。

地上波でできないことに挑戦」? Netflixドラマ『全裸監督』への高評価

おぐら あおりといえば、ドラマ『全裸監督』の広告がけっこうな規模で展開されていました。

 

速水 渋谷駅ジャックして、「『コンプライアンス』に塗りつぶされるこの時代。」っていうポスターもたくさん見かけたね。

おぐら ただ、裸のシーンを引き合いに出して、これは地上波では無理、さすがNetflixという声については、ほめるところそこなの? って思います。Amazonプライムの『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』のときも、過激な下ネタや股間のアップに喜んでいる人が一定数いましたけど。

速水 でも、地上波で流せないというのは本当だけどね。今の地上波でエロができないのは、スポンサークレームが行くのを恐れているから。昔からテレビで女性の裸が出ると苦情の電話はたくさん来たんだよ。でも、かつては局のプロデューサーとかスタッフ宛に苦情が来た。今のクレーマーは、苦情を直接スポンサーにぶつけるからね。

おぐら コンプライアンスの問題にしても、有料の動画作品は表現の自由度が高いことはもう前提で、だからこそ何をどう表現するかっていうことが一番大事なんじゃないの?って思います。

速水 そういう意味では、『全裸監督』は実際の話をかなり脚色し、しかも1980年代の話にうまく絞ったのが成功している。一方で、ポルノや黒社会の話を描きながら、主人公を美化しているという批判もある。これはばかばかしすぎるから無視でいいと思うけど。

本人不在で広がる「許可とってるの?」という批判の違和感

おぐら モデルとなった実在の女優に許可をとっているのか?という批判もあります。これについては、Netflixが配信停止の措置をとることはないんでしょうか。

速水 配信停止しないでしょ。

おぐら それは課金制でスポンサーもいないから、批判に応じる必要はないってことですか?

速水 地上波テレビみたいな広告モデルだと、スポンサーへの電凸で番組が終わる可能性もあるけど。Twitterで「許可とってるのか」と指摘する人たちがいるってだけで、配信をやめろっていう話ではない。

おぐら でも許可をとっていないことは、ビジネスモデルの話ではなく、人権の問題になりませんか。

速水 そこには、ポルノ出演者=被害者みたいな決めつけがある気がする。黒木香本人が被害を訴えればそうかもしれないけど、本人不在で人権うんぬんっていうのは意味がわからない。少なくとも、これまでの黒木香がメディアに対して起こしてきた裁判にしても、AVへの出演を取り消したがっているわけではないし。

あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」は開催3日で中止

おぐら 電凸で中止といえば、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」が、開催3日で展示の公開を中止しました。展示に対してクレームはもちろん、テロ予告や脅迫まで相次ぎ、それに対応する事務局の負担が大きすぎて、「安全上の理由」で継続が困難になったと。

速水 少数のテロ予告が問題だったというのはもちろんだけど、大量のテンプレ化した電凸が障害になったということだよね。

おぐら 9月26日には、愛知県が公式ホームページで「あいちトリエンナーレ2019に寄せられたご意見等」と題して、実際にかかってきたクレーム電話の音声を公開されました(現在は削除されています)。一通り聞きましたけど、「ご意見じゃないのこれは忠告」「税金返せバカ野郎!」「あんた日本人?」「へ〜差別主義者なんだ」とか、本当にきついです。

速水 ちなみに、テンプレの電凸をした人たちは、ただ単に意見を申し立てているのではなく、最大限に効力を発揮する異議申し立てのやり方を、ネットで共有・拡散して、確実に影響力を持つための手段を行使している。

おぐら 個人というより、組織的な動きだったと?

速水 そこが問題。個別の人たちがやったという意味では、集団や組織ではない。だけど、ネットにやり方が書いてあるから、手段が共有されてる。そのやり方も、事務局にかけるだけでなく、同じ県にある別の美術館にかけたり、協賛している企業や機材提供会社にまで、日常の営業が困難になるレベルで電話がかかってきたって。

おぐら 事前にある程度は想定していたでしょうけど、そこまでいくと対応は難しいですね。

速水 というか、そのコストまで事前に計算しておけと言うのはおかしな話だよ。電凸の場合、ノウハウはネットにタダで落ちてるし、やる人たちはみんなボランティアなんだからコストはほぼゼロ。反対に、それを受けて対処する運営、事務局の側は、そのための人員も時間も割かれるわけで、コストはどんどんかかる。今後あらゆるものがそれで動かなくなる可能性がある。

神対応」至上主義にみる“ファンが一番の敵となる瞬間”

おぐら あいちトリエンナーレの件はあまりに極端ですが、ある時期から「神対応」という言葉が市民権を得て、あらゆる場面で求められる対応のハードルが上がったように思います。お店にしても、アイドルタレントにしても、サービスや企業にしても。それこそ「おもてなし」もそうですけど。

速水 アンチは、裏返しの支持者だっていうのと同様、ファンがひっくり返ると、一番の敵になるっていう理論もある。ジョージ・ルーカスは、世界一熱いファンの多い『スター・ウォーズ』の生みの親なわけだけど、続編でジャー・ジャー・ビンクスっていうキャラを出して、ファンの総スカンを食った。『ピープルVSジョージ・ルーカス』(2010)っていうドキュメンタリー映画は、いかにファンダムが恐ろしいかっていうのがテーマ

おぐら つい最近も、田中圭が主演で熱狂的なファンを生み出した『おっさんずラブ』が、キャストや設定を一新した続編を発表し、原理主義的なファンたちから大バッシングを受けていますね。

速水 新キャラが気に入らないって?

おぐら 1作目のカップリングを愛していたファンたちにとっては、相手役が変わるのに『おっさんずラブ』というタイトルのまま新シリーズが作られることが許せないと。

速水 「許せない」ってのは、ファンダムを語るうえでのキーワード

おぐら 前作から引き継いだ公式Twitterには、「せめてアカウントを変えてください」「大事なものが踏みにじられました」「こんなの誰が喜ぶと思ってるんですか」「最低」「不誠実」「天国から地獄」「さようなら」といった批判のリプライが殺到しています。

 

速水 言葉遣いこそ丁寧だけど、あいちトリエンナーレ事務局にかかってきた電話の「ご意見じゃないのこれは忠告」と求めていることは同じだよね。

おぐら だから「神対応」にしても、推しとか応援っていうのも、いい面もあるけれど、不穏な面もあるなって。

速水 ひどいクレームも「いや、これは純粋な応援の気持ちです」みたいな感じで絡め取られていくし。

おぐら タレントの場合、好感度と言い換えてもいいですが、ファンへの対応の素晴らしさが評判になって極まっていくほど、ギャラや人気は上がっていく一方で、同時にリスクも高まっていきますよね。不倫騒動の前後でベッキーの評価が一変したように。

速水 神格化したほうが、叩いたときの手応えが大きいということか。

おぐら さっき話に出た“渋子スマイル”にしても、プレーに対する評価よりも、ギャラリーファン対応の良さがうけているところがあるじゃないですか。そもそも“スマイル”って、プレー関係ないですし。

速水 そしてメディアファンは、どんどんそれを要求するようになる。アスリートに競技の内容以上のプレッシャーを与えるのは、マイナスでしかない。渋子は笑わないでいいって、むしろみんなで言うべきかも。

おぐら これだけ推しや応援が盛んな時代なのに、そういった視点はまだ薄いですね。

“距離感の喪失”で生まれた「クソリプ」という地獄

速水 スポーツはまだはっきりと客と選手は別だからいいんだよ。それ以外の、主体と客との距離の近さの問題はもうちょっと考えないといけない。例えば、オンラインサロン

おぐら NewsPicksのPR動画を見ていたら、教師と生徒という関係性では距離が遠すぎるからよくない、オンラインサロンのような距離の近さがいいんだって言ってました。

速水 まさにそのNewsPicks の討論番組で、キングコングの西野亮廣とかオリエンタルラジオの中田敦彦と共演したんだけど、一人だけ超絶アウェーだった。議論自体はとてもおもしろかったんだけど、サロン肯定派はみんな、これからの創作は共同作業になるって確信している。作り手と受け手の垣根が低くなっていて、サロンメンバーはすでにクリエイターなんだって。

おぐら メンバーはお金を払って参加してるんですけどね。そういえば去年、雑誌「マーマーマガジン」が、編集長の服部みれいアシスタントを募集したときに「お金を払ってでもマーマーマガジン編集部で働きたい」「お金を払って働いていただく」という募集要項を出して炎上してました。

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速水 だから、熱狂的なファンがいてこそのやり方なんだよ。ファンも作り手だっていう考えもわかるけど、一方ではそういったファンの望むことに応え続けなくてはいけない地獄もあるよなって。

おぐら あと、いわゆるクソリプファンの歪んだ応援の一形態ですよね。

速水 応援される人たちって、同時にすごいクソリプも受ける。ちなみに、水泳の金メダリストの岩崎恭子が最近インタビューで答えていたんだけど、14歳金メダルを獲って「今まで生きてきた中で一番幸せ」って発言したら、山ほど「たかだか14歳で」的な批判が来たんだって。

おぐら 岩崎恭子の金メダル1992年バルセロナオリンピックなので、SNSではなく、手紙が届いたってことですか?

速水 そう。ネット以前からクソリプの嵐ってあったんだよね。今はそれがネットになっただけ。

おぐら クソリプへの対応も求められるし、ファンへの神対応まで求められている。

アイドルから政治まで……「高度神対応社会」のいま

速水 このファンアイドルの関係性、神対応問題は、ポピュリズムの話にも見えてくる。例えば都知事になったばかりの頃に小池百合子が「築地市場の豊洲移転ストップ」って言って出てきたときは、喝采を受けたんだよね。いま考えるとやぶ蛇だったわけだけど。

おぐら 当時は「神対応」だったと。その後、泥沼の展開になったせいで小池百合子の対応の悪さに焦点が当たるようになりましたけど。

速水 このときは、豊洲の地下水の基準値を巡って、不安をあおるマスコミの報道がひどかった。メディアを挙げて意見を真っ向から分裂させたでしょ。本来そこまでの規模の話ではまったくなかったのに。同じことが、新国立競技場の建設問題でもあった。

おぐら 新国立競技場にはエアコンがないということで、夏の間どうするんだって話題になってましたね。

速水 国際コンペやって選んだのは、ザハ・ハディドデザイン案だったのに、その予算が高いとか、地域の景観にそぐわないからといって大騒ぎした。それを安倍総理が出てきて「白紙撤回」(2015年7月)とばっさりやった。

おぐら あのときも「神対応」って感じのムードでしたよ。

速水 実際にエアコンを付けるかどうかくらいは冷静に議論しておくべきだった。結局、予算はふくれあがったわけで、言うほど安くはなってないし。

おぐら アイドルや芸能の世界で広まった「神対応」要求が、いまや政治をはじめ、あらゆるところで求められるようになったんでしょうね。

速水 なるほど。それで、高度神対応社会が生まれて、いろいろ蝕まれるようになったと。

おぐら その場では「神対応だ!」って盛り上がったとしても、あとは減点方式にしかならないので、その後が厳しくはなります。

速水 パフォーマティブな言動に踊らされて、のちに発生するコストは誰が払うの? っていうことが繰り返される。じゃあ、世の中、塩対応くらいの対応力でちょうどいいってこと?

おぐら 何事もすぐにエスカレートするのは世の常なので、ちょうどいい中間がいいとは思いますけど。

速水 ちょうどいいくらいを見出すのが大事。つまり、ガラケー時代に戻れと。

おぐら いや、もうどんなにスマホ依存だと言われようが、ガラケーには戻れません。

速水 だよね。スマホの利便性は神だから。

写真=山元茂樹/文藝春秋

(速水 健朗,おぐらりゅうじ)

おぐらりゅうじ(左)=1980年生まれ。編集者。速水健朗(右)=1973年生まれ。ライター。