まんが/榎本まみ

弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々<31>
 前回に引き続き、「モラ夫の不貞」について取り上げる。

 少し前、30代前半の子どものいない夫婦の離婚の相談があった。夫が、半年前に突然、職場近くに部屋を借り、週末も帰ってこなくなった。

 離婚を要求され、拒否したら、離婚調停を起こされ、妻が相談に来たのだ。

 彼の言う離婚理由は、「お前との結婚に疲れたから」であった。彼によると、「休みの日くらいゆっくりしたい」彼の気持ちに配慮できずに、散らかっている部屋を片付けるように言った妻の言葉に失望したという。

◆不倫されていることを認めたくない、被害妻たちの複雑な思い
 ところで、客観的には、不貞していると推測されるような状況にありながら、これを頑として認めない被害妻は、決して少なくない。

 例えば、急に「残業」が増え、深夜帰宅➡午前様➡朝帰り➡無断外泊と進んでいけば、まず、間違いなく不貞している。どこに泊まっていたかを尋ねると、夫は、職場で朝まで働き、仮眠をとったなどと説明する。連絡をしなかったのは、「仕事を早く終わらせたかったから」と説明する。

 このような状況を聞き、私が、「おそらく、彼、不貞してますよ」と言うと、少なくない数の妻が、「不貞って、どこに証拠があるんですか?」と怒り出す。

 被害妻たちの思いは複雑だ。おそらく、不貞を疑う客観的状況は、理解しているが、自分が不倫されている妻であることを認めるのが余りに辛いのだろう。

 私の離婚実務の経験上、不貞も風俗も全くないモラ夫はいない。モラ夫は、その男尊女卑の価値観から、女性に対する無思慮な性行動(性加害)を抑制する意思も能力も弱いので、機会があれば風俗に通うし、不貞に憧れていたりする。

 つまり、世の中には、2種類のモラ夫しかいない。不貞/風俗を隠すのが下手なモラ夫と、上手なモラ夫の2種類である。

◆モラ夫が優しくなったら不貞の兆候
 前回紹介したとおり、モラ夫たちは、不貞の初期段階は、妻に優しくなる。モラが緩和し、家事、育児を分担したりする。ただし、これは、不貞の邪魔をされないように妻の機嫌を取るだけであり、決して、罪悪感からではない。そもそも、罪悪感が本物であれば、不貞などしない。さらに根本的には、モラ夫にはならない。

 また、モラ夫が妻の機嫌の取り方を知っていることにも注意喚起したい。モラ夫は、普段の自らのモラや、家事育児の一方的放棄(夫にも家事育児の責任は当然ある)が妻を苦しめ追い詰めていることをしっかり認識しているのだ。

 妻は、夫の態度の変化に嬉しくなって、不審な点を見て見ない振りをする。却って、「残業」や「休日出勤」に勤しむ夫に感謝したりする。まさに、モラ夫の思惑どおりに進む。

 不貞が初期段階で終われば、夫婦の危機は発生しない。ただし、不貞が終われば、遅かれ早かれ、夫は、本来の不機嫌なモラ夫に戻ってしまう。

◆モラ夫は、不貞相手には妻とセックスレスであると嘘をつく
 不貞が深まると、モラ夫は、不貞相手に対し、至らない妻と結婚した自らの不幸を嘆く。妻とはセックスレスであると説明する(これは、多くの場合、嘘である)。そして、不貞相手と結婚を語り始める。この時期は、「宿泊付き出張」が始まる時期でもある。

 モラ夫が不貞相手との結婚を考え始めると、妻は邪魔な存在である。妻に対する敵意が生じることもある。「休日出勤」や「宿泊付き出張」などの不審な点を妻が問い質そうものなら、モラ夫は、これを抑え込もうと「俺を疑うのか」「証拠あんのか」「そんなに疑うお前に愛想が尽きた」などと反撃する。妻に対する敵意が爆発して、DVに発展する事例もある。

◆最後まで不貞を認めることができなかった被害妻
 冒頭の事例では、勤務先近くに部屋を借りる数か月前頃から、妻への「連絡を忘れる」ほど、夫の「仕事が忙しくなった」。そして、「仕事が余りに忙しく」、深夜、午前様までの残業や、朝帰り、無断外泊を余儀なくされという。夫が離婚理由として挙げた、部屋の片づけへの言及は、確かに2、3回あったが、執拗には言っていないし、言い争いにもなっていなかった。

 そして、夫は、借りている部屋の場所も教えず、携帯への妻からの電話には出ない。そこで、妻が、会社に電話したところ、同僚の女性が電話に出て、彼は外出中であると言った。妻であることを述べたのに、しつこく用件を聞かれたと言う。

 調停では、双方離婚に同意したが、慰謝料が争いとなった。彼が慰謝料を渋るので、私が、同僚女性との関係を疑っているので、慰謝料を拒否するなら、同僚女性に対する訴訟もあり得る旨伝えた途端、彼は、あっさり、慰謝料の支払いに同意した。

 調停離婚が成立したので、私は、妻/依頼者に対して、「やっぱり、不貞していましたね」と述べた。妻は、厳しい表情になり、私に対して、「どこに(不貞の)証拠があるんですか!」と怒った。

 つまり、人は、「人に欺かれるのではない、自分で己を欺くのである」(ゲーテ)。

<文/大貫憲介 漫画/榎本まみ>

【大貫憲介】
弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『入管実務マニュアル』(現代人文社)、『国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中

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