選択的夫婦別姓を求めた裁判で10月2日、また原告側が敗訴した。2015年に最高裁が夫婦同姓の規定を「合憲」と判断してから4年。選択的夫婦別姓が各地の裁判所で争われているが、最高裁判例の壁はいまだ厚い。

夫婦別姓の婚姻届が受理されず、法律婚ができないのは違憲だとして、東京都内の事実婚夫婦ら3人が国を相手取り訴えていた裁判(第二次夫婦別姓訴訟)で、東京地裁(大嶋洋志裁判長)は10月2日、原告の訴えを棄却する判決を言い渡した。

判決の言い渡しの中で、大嶋裁判長は「最高裁判決後、社会の動向が認められ、姓が家族の一体感につながるとは考えていない者の割合や、選択的夫婦別姓の導入に賛成する者の割合も増加傾向にある」と認定。しかし、その上で、「最高裁判決当時と比較して、変更するだけの変化が認められない」と判断、原告の訴えを退けた。

この訴訟は、2015年に最高裁判決が下された第一次夫婦別姓訴訟の流れを汲むもので、東京地裁以外にも立川支部と広島地裁で現在、裁判が行われている。

広島地裁の訴訟の原告である恩地いづみさん(63歳)は東京地裁での判決を聞き、「私は30年、事実婚をしてきましたが、一体、どれだけの変化を見せれば、夫婦別姓を認めてもらえるのでしょうか」と悔しさをにじませた。

原告側は控訴する方針を示している。

●裁判所「社会は変化しているが、国会の立法政策で考慮すべき」

訴状などによると、原告側は夫婦同姓を義務付けた民法750条は、同姓を希望する者と別姓を希望する者とを差別していると指摘。別姓では婚姻できないため、法律婚夫婦に与えらえるさまざまな権利や利益を享受できず、法の下に平等を定める憲法14条1項の「信条」による差別がある、などと主張していた。

これに対し、判決では「夫婦別姓を希望することは『信条』にあたる」としながらも、同姓を求める者と別姓を求める者、それ以外の者にも一律に「夫婦が夫か妻のいずれの姓を称するか、協議に委ねるという均等の取り扱いをしている」として、憲法に違反するものではないと結論づけた。

また、判決では、原告側が主張してきた社会の変化についても触れられた。

内閣府が2017年に調査した結果、「夫婦別姓ができるよう法律を変えてもかまわない」との回答が42.5%となり、「改正の必要はない」とする回答(29.3%)を大きく上回ったこと、「家族の姓が違っても、家族の一体感(きずな)には影響がないと思う」と回答した人が年々上昇し、2017年には64.3%だったことを提示。

その上で、「最高裁判決後、社会の動向が認められ、女性が婚姻、出産後も継続して働く傾向にある。氏が家族の一体感につながるとは考えていない者の割合は増加傾向にあり、制度としても選択的夫婦別姓の導入に賛成する者の割合が増加傾向にある」と認定した。

しかし、それらも「最高裁判決の変更を正当化するほどの変化があるとは認められない」と判断。「そのような社会や国民の意識の変化は、まさに国民の意思を託された国会における立法政策として婚姻および家族制度のあり方を定めるにあたり、十分に考慮されるべきことに他ならない」として、原告らの訴えを退けた。

●「何%の人が夫婦別姓に賛成すれば、改正してくれるのか」

判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで、夫婦別姓訴訟弁護団(団長・榊原富士子弁護士)が広島地裁の夫婦別姓訴訟の原告、恩地さんとともに会見した。

榊原弁護士は判決について、「敗訴ではありますが、社会や国民の意識が変化していることは認めてくれている。丁寧に審議してくださったという印象」と評価した。一方で、「さらに、そうした変化を認めさせないと、最高裁の判例を覆すことは難しいと実感しています。今後、裁判で認めてもらえるよう頑張りたい」と語り、控訴の意向を示した。

原告の立場から、恩地さんは「大変、残念に思います。私たち夫婦が、別姓で結婚したいということを憲法は否定しているのだろうか、同姓の強制を求めているのだろうか、と疑問に思っています。私たちは、同姓も別姓も選択できるようになればいいということであって、同姓を廃することを求めているわけではありません」と語った。

また、「どこまで社会が変われば、民法750条の改正を認めてもらえるのか。何%の人が賛成すればいいのか、示してほしい。名前は個人の尊厳の問題であるので、多数決で決まるものではないと思いますが、どうしても多数決で決めたいであれば、どこまで変わればいいのか聞きたいですところですが、くじけず諦めずをモットーにやっていきたい」とあらためて訴訟への意気込みを示した。

夫婦別姓訴訟、次々と地裁から高裁へ

夫婦別姓をめぐっては、社会的な高まりを受け、法制審議会民法部会が1996年、選択的夫婦別氏制度の導入を提言する答申を行なった。しかし、国会での法制化が進まず、選択的夫婦別姓を求める人たちが第一次夫婦別姓訴訟を提訴。最高裁まで争われたが、2015年12月に夫婦同姓を義務付けた規定は「合憲」であるという大法廷判断が示された。

その後、約3年を経て第二次夫婦別姓訴訟が東京地裁と立川支部、広島地裁でそれぞれ提訴された。10月2日の東京地裁の判決を皮切りに、立川支部の判決は11月14日、広島地裁の判決は11月19日に予定されている。

なお、これら第二次夫婦別姓訴訟以外にも、アメリカで法律婚をしたにもかかわらず、日本の戸籍に婚姻が記載されないのは、立法に不備があるとして、映画監督の想田和弘さんと舞踏家で映画プロデューサーの柏木規与子さん夫妻が、国を相手取り婚姻関係の確認などを求めて東京地裁で裁判を起こしている。

また、ソフトウェア企業「サイボウズ」の社長、青野慶久氏らが、戸籍法の改正を求めた夫婦別姓訴訟が東京地裁で3月に敗訴。現在、東京高裁で争われているほか、連れ子再婚した弁護士とその妻が原告の夫婦別姓訴訟も9月に東京地裁で敗訴、原告は控訴の意向を示している。

「夫婦別姓の賛成は増加しているが、最高裁判例を変更するほどではない」東京地裁で原告敗訴