見ていても痛々しい。内紛が勃発した全日本テコンドー協会の問題だ。環境改善を求める選手側と、これを「コミュニケーション不足」の一言で事態の収束を図ろうとする金原昇会長をはじめとした協会幹部の対立が激化している。

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 両者の対立は9月に行われていた強化合宿を参加メンバーの28人中26人もの選手たちがボイコットしたことで表面化した。1日に東京都内で協議会が行われたものの、協会幹部と選手側の主張は食い違うばかり。怒り心頭の選手が途中退席するなど、双方の関係悪化は修復不可能な状況に陥っている。

補助金はスタッフの旅費に充て、選手は自腹で世界選手権へ

 まず、この問題の経緯を整理しておきたい。

 現況の指導体制に強い不信感を抱く強化指定選手たちが今年6月、協会の理事会へ「意見書」を提出。ここで出された要望の内容は参加が義務付けられている強化合宿を任意参加に変更することに加え、公式大会前は所属チームでの調整を認めることなどだった。

 これに補足すると、選手側からは「これまで強化合宿は基礎トレーニングばかりが中心で一体何のための集中期間なのか分からない。毎月、岐阜・羽島市で行われる合宿にも参加を義務付けられている。それでも『所属しているところで自主的に練習させてほしい』と協会側に言うと『代表選手から外れてもいいのか』と脅され、仕方なく従わざるを得なかった」と〝恐怖政治〟に関する具体的な詳細も明かされている。

 さらに代表選手の1人が一部メディアに「今年5月に英国で行われた世界選手権では選手よりも多い数の強化スタッフが代表団に加わり、JOCからの補助金がスタッフなどの旅費に充てられた。選手側は今年も含め毎回、世界選手権ではいつも自腹で20万円近い負担を強いられる」という趣旨のコメントを口にし、波紋は広がる一方。国からの補助金が選手強化に役立っておらず、実は不正な形で別のところに流れていってしまっているのではないかとの疑惑も浮上している。

 しかし、選手たちが決死の覚悟で提出した「意見書」を協会側は何とスルー。期限内に回答を得られなかったことで招集された大半の選手側が9月17日からの合宿への不参加を決断した。慌てた協会側は回答書を公式ホームページで公表。ところが世界テコンドー連盟からこの問題に関して事情聴取され「選手に不平不満はなく、困惑もない」などと報告したことで、選手側から怒りを買った。

 冒頭の「コミュニケーション不足」は金原会長の発言だ。これは、今回の問題の原因について問われた際の答えである。ちなみに金原会長には反社勢力とのつながりまで指摘され、アスリート委員を務める高橋美穂理事がコンプライアンス委員会に調査を依頼している。金原会長は反社との関係を全面否定しているが、一部メディアで露骨に書かれている内容は具体性を伴っているだけに「〝火のないところに煙は立たない〟のではないか」との声も少なくない。

「夜道を歩くのが怖い」

 そして気になったのは1日に行われた協議会後のメディア対応である。

 会見で金原会長は反社との関わりについてだけでなく、協会内における自身の私物化及び独裁化疑惑まで持ち上がっていると矢継ぎ早に質問を向けられても余裕の笑みを浮かべながらいずれも全面否定。金原会長の隣で小池隆仁委員長が「そういう(顔は怖い)イメージはありますが、確かに・・・」などと言いかけると、金原会長はニヤニヤしながら「そういうことを言うからダメなんだよ」。右手で小池委員長をポンと軽く叩いて小突く仕草を見せ、まるで漫才のツッコミのようなシーンも〝演出〟してみせた。余裕ぶりをアピールしたかったのかもしれないが、笑っていたのは金原会長ら幹部側だけで報道陣は明らかドン引きだった。

 中心になって意見書を取りまとめた江畑秀範選手が協議会の余りの不毛さに途中退席し「夜道を歩くのが怖い」と決死の思いで告発したことを公の場で打ち明けている。今回の問題で選手側に立っている岡本依子副会長も協議会終了後に「今起こった問題ではなく、ずっと続いてきた。ナンバー2なのに何も変えられなかった。(現体制は)もう資格がないと思っている」と涙ながらに訴え、世界テコンドー連盟への問題報告にも「どうしてウソをついているのか分からない」と首をかしげた

 これだけの溝が深まり、内部崩壊の危機に瀕している現状を協会トップの金原会長はなぜ笑い飛ばすことが出来るのか。金原会長は協議会について「非常に有意義だった」と胸を張ってもいたが、もし本心での発言であれば神経を疑わざるを得ない。

 筆者は2000年シドニー五輪を取材した経緯もあり、同五輪で正式種目になったテコンドー日本代表として銅メダルに輝いた選手時代の岡本副会長の辛苦を知っている。

 日本国内で1990年代初頭の当時、テコンドーの統一団体がなく、流派の違う道場が乱立していた影響などで大会出場も人知れず大きな苦労を重ねていた。それでも壁を乗り越えて国内外の大会で数々の功績を残してきたのは、誰よりもテコンドーという競技を通じてポジティブに生きていくことができたからである。だからこそ〝アスリートファースト〟を今も貫き、後進の育成に生かそうと心血を注ごうとしていたのだ。ところが、その志は協会の旧態依然の体制によって木っ端みじんに打ち砕かれてしまった。

 協会に反旗を翻した選手側につく所属チーム関係者の1人は怒りを募らせながら、こう言った。

岡本さん副会長として協会のナンバー2のポジションにいるが、あくまでも〝お飾り〟。何の発言権もないです。これまでも幹部に選手側の要望を細かく伝えてきたが、いつも『真摯に受け止める』と言われるばかりで右から左だった。今回の協議会後、金原会長もメディアの前で選手の要望について『真摯に受け止める』と言っていますが、あれは岡本さんに対して口にする常套句とまったく同じです。岡本さんは犠牲者と言っても過言ではないでしょう。

 シドニー五輪銅メダルに輝き、テコンドーの国内普及に大きく貢献したヒロインなのだから、本来ならば協会のトップになるべき人です。ところが結局は協会を牛耳る〝ネクタイ組〟に都合のいいように利用され、風当たりが強まっても『岡本が副会長をやっているんだからいいだろう』と防波堤のような役割に据え置かれていた。なぜ、こんなことになってしまったのか・・・本当に悲しいです」

 今月8日に行われる予定の理事会で協会側は再度、改善策を話し合うとのことだが、正直に言って着地点は見出せそうもない。東京五輪まで300日を切った今、選手たちに残された時間は限られている。

スポーツ庁長官や五輪相はなぜ動かないのか

 それにしてもスポーツ界を揺るがしかねない、こんなゴタゴタが起きているというのにスポーツ庁長官や東京オリンピックパラリンピックの担当相は一体何をやっているのだろうか。「こういう時に動かなければ、要職に就く意味がないのでは」「問題解決のために政府として救いの手を差し伸べてほしい」などといった悲痛な叫びは、今回の問題で決起した選手サイドや関係者たちからも数多く耳にする。都合のいい楽な仕事ばかりするのではなく、東京五輪にも悪影響を及ぼしかねない問題の解決に腐心しながら努めてほしいと切に願う。

 日の丸を背負って戦おうとしているテコンドーの代表選手たちの苦難は想像以上だ。この現状にもし目をそむけているのなら、大層な冠がつけられた長官も担当相もさっさと職を辞するべきである。

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