夏が終わると、インフルエンザワクチンの季節です。例年、9月から予約を取り始め、10月から12月までに接種を行います。数年前までは、1000人くらいにワクチンを打っていましたが、さすがに体力の衰えもあって、現在は1シーズンに800人弱に抑えています。

 毎年、患者家族に聞かれるのは「インフルエンザワクチンって本当に効果はあるんですか?」というものです。なかなか返答に窮する質問ですね。確かに、「ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかった」という話はよく聞きます。実際はどうなのでしょうか。

ワクチンの「有効率」は30%

 インフルエンザは、その年の冬に、どのような型のウイルスが流行するかを予測してワクチンを製造するので、いわゆる「当たり/外れ」があるのは否定できません。しかし、有効率はおおむね30%くらいと考えられています。では、有効率とはどういう意味でしょうか。

 幼稚園の星組さんと花組さんを想定してみましょう。星組さんは全員にワクチンを打つとします。一方、花組さんは全員打ちません。そして、その年の冬に、星組さんから7人のインフルエンザ患者が出るとします。そして、花組さんから10人のインフルエンザ患者が出るとします。その差は3人ですね。その3を花組の10人で割った数字が30%です。

 つまり、インフルエンザワクチンの効果はこれくらいなのです。この数字が高いか、低いかを判断するのは保護者ということになります。かつては集団接種だったインフルエンザワクチンが、その効果を疑われて中止になったのは1994年です。打つ意味はやはりないのでしょうか。

 少なくとも成人の場合、インフルエンザワクチンを打っておくと、インフルエンザにかかっても重症化しないというデータがあります。高齢者の場合は、インフルエンザで入院することになったり、最悪死亡につながったりするので、こうしたデータがあるわけです。

 しかし、子どもの場合、インフルエンザにかかって入院することなど、ほとんどありません。ですから、重症化を防げるという明確な証拠はありません。しかし、クリニックで診療をしていると、ワクチンを打っている子は、インフルエンザにかかってもそれほど重篤でないと思うことはしばしばです。

命の危険もある「インフルエンザ脳症」

インフルエンザで入院になることはほとんどない」と言いましたが、1つ例外があります。それは「インフルエンザ脳症」です。脳症は主に幼稚園以下の子に見られ、時に命を奪ったり、脳に障害を残したりします。毎年、インフルエンザがこれだけ話題になるのは、脳症の存在があるからかもしれません。

 インフルエンザ脳症は、インフルエンザと早期に診断できても、タミフルなどの抗ウイルス薬を使用しても防げないとされています。では、どうやって防げばいいのでしょうか。それは、インフルエンザに罹患(りかん)する可能性を少しでも減らすことです。つまり、ワクチンを打つことが最も確実な予防法ということになります。

 実際、1994年の集団接種が終わってから、わが国ではインフルエンザ脳症の患者が増えています。これは統計の取り方や、診断技術の向上によるのかもしれませんが、「インフルエンザ脳症を防ぐためにはワクチンが最も有用」という意見は小児科医の間で根強くあります。確かに、ワクチンは安い値段でないことが難点ですが、お子さんの健康を守るためには必要なものではないでしょうか。

 10月に1回接種し、4週空けて11月に2回目を接種するのが理想です。ワクチンの効果は翌年の4月くらいまで持続します。接種するかどうか、ぜひ考えてみてください。

小児外科医・作家 松永正訓

インフルエンザワクチンの効果とは?