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 抗生物質の乱用によって誕生した薬剤耐性菌(スーパーバグ)の広まりは、現代の医療にとって最大の脅威のひとつとされている。

 抗生物質が効かなくなるため、いくつもの感染症がどんどん治りにくいものとなっており、薬剤耐性菌が原因による死亡はすでに世界で年70万人に達している。

 もしこのまま薬剤耐性菌の広まりを効果的に食い止める方法がわからないままであれば、2050年までには年1000万人が治療できなくなってしまった病気によって死ぬかもしれないのだという。

 つまり、がんによる死者を上回ることになるという予測すらあるのだ。

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ゲノムを変化させるだけじゃなかった。耐性細菌の恐ろしさ

 細菌が抗生物質への耐性を身につける方法としては、まずゲノム(遺伝情報の全体・総体)を変化させるというものがある。

 こうすることで細菌は、たとえば抗生物質を排出したり分解できるようになったりする。あるいは免疫系から隠れるために、成長や分裂を止めてしまうこともある。

 しかし『Nature Communications』(9月26日付)に掲載されたイギリスニューカッスル大学の研究グループによる論文では、もうひとつ、これまであまり知られていなかった方法で耐性を身につけることもあるという。

 それは細菌そのものが変形して免疫や抗生物質の目をくらますという、遺伝的な変化を必要としないやり方だ。

 基本的にあらゆる細菌は細胞壁にかこまれている。これはぶ分厚いジャケットのようなもので、環境から受けるストレスから細菌を守ったりその細胞自体が破裂することを防いだりしている。

 また細菌に一定の形(球状や棒状など)を与えており、効率よく分裂できるようにもしている。

 一方、人間の細胞に細胞壁はない。そのため、人体の免疫系は自分とはまるで違う細菌を簡単に見つけることができる。

 さらにペニシリンのような抗生物質が細菌を効果的に殺しつつそれでいて人体には無害であるのも、この細胞壁を標的にしているからだ。

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細胞壁のない「L型」という状態に変形して生き延びる細菌


 しかし、細胞壁がなくても細菌は生きていられることがある。周囲の条件のおかげで破裂しないですむ場合、細菌は「L型」という細胞壁のない状態に変形することがある。

 ちなみに「L型」の “L” とは、1935年にこれを発見した微生物学者のエミー・クラインバーガー=ノーベルが当時勤務していたリスター研究所にちなんだものだ。

 実験などでは、そうした細菌にとって安全な環境は糖によって作られる。だが人体内で細菌が変形するきっかけとなるのは、細胞壁を標的にする抗生物質や特定の免疫分子だ。

 細胞壁を持たない細菌はひ弱で形をなくしてしまいがちだが、そのかわりに免疫系から発見されにくくなったり細胞壁を標的とする抗生物質がまったく効かなくなったりするというメリットもある。

 かねてからぶり返す感染症の原因は、細菌がL型に変形することで免疫系抗生物質から隠れてしまうことなのではないかという説はあった。

 しかし、そうはっきりと断定するための証拠がなかったが、今回の英ニューカッスル大学の研究グループによって初めて証明された。

 尿路感染症に関係する細菌の研究から、大腸菌やエンテロコッカス(腸球菌)がL型に変形して生き延びていることが明らかになったそうだ。

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 また同グループによる別の実験では、抗生物質があるところで生きているゼブラフィッシュの胚の中で起きる変化の全プロセスを観察することにも成功したという。

References:Science alert / Nature Communications / written by hiroching / edited by usagi

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