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「パイクスピークがアウトバーンのよう」

今回のアタックのため、ID.Rには前後に高地であるパイクス・ピーク用の大型ウイングを取りつけている。しかしニュルブルクリンクやグッドウッドでは空気抵抗を減らすため小ぶりのものが使用された。低速コーナーが多いことがこの選択の理由だ。デメソンによれば、速度域が低いためにダウンフォースも小さく、メカニカルグリップに頼らざるを得なかったという。

しかし最大の問題はその路面だ。コンクリートのスラブをつなぎ合わせた区間が主体である上、そこは往来するバスによって摩耗が進んでいる。しかも山肌からは常に水が湧き出しているのだ。路面は補修が繰り返され、継ぎ目も目立つ。「まさにラリーでした」どデュマはいう。「ひどい路面で、しばしば宙に浮きました。パイクス・ピークも荒れていますが、ここと比べたらまるでアウトバーンです」

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フォルクスワーゲンID.R(パイクス・ピーク

この路面状態に対応するため、プラクティスを通じて車高がを引き上げたほか、サスペンションを柔らかくしてデュマがより着実に感触を掴めるようにしている。そしてもう1つの着目点はブレーキだ。およそ11kmのコースにおいて、デュマは99ものコーナーを通過する。

ID.Rは全長21kmのニュルブルクリンクやパイクス・ピークにも対応できるバッテリーを搭載しており、その点では心配なかった。天文山はおよそ半分程度の長さであり、回生ブレーキの必要性も小さかったが、ブレーキフィールの改善が主眼に置かれた。

8分切りも可能と判断

「パイクス・ピークはより高速かつ幅広いコーナーが多いですが、ここではよりシャープブレーキングが必要です」とフォルクスワーゲンのモータースポーツ部門を統括するスヴェン・スミーツは説明する。「当初は回生ブレーキを強めに設定していましたが、それではブレーキが効きすぎるようでした。そこでの適切なバランスを探っていったのです」

天文山は観光客向けにも解放されていたことから、プラクティスに使用できた時間もわずかであった。土曜日にシェイクダウンを行い、日曜日には2回の走行を行ったが、そのベストタイムはおよそ8分30秒であった。

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天文山ビッグゲート・ロード

デュマはレコードアタックの前に2回の慣熟走行を行い、その模様が地元テレビにより中継された。路面が少し乾いてきた(雨が降らなくても湧き水により常にウエットだ)ことからセッティングを変更したのち、8分6秒という記録を打ち立てたのだ。

「大きな前進でしたが、その時点ではわれわれは8分切りも可能だと考えました」とデュマはいう。しかし、これはより大きなリスクを伴い、絶壁やコンクリートブロックにさらに近いところを攻める必要があるのだ。ゴール地点では後輪が若干浮いており、前回よりも速度が高いことが見て取れた。

今後もさらなる挑戦を続ける

その速さは、7分38秒535という記録を公認した(計測に用いられたのはQX1000だ)中国体育協会から派遣された2人の公証人が証明してくれている。「これほど速く走れるとは、自分でも想像していませんでした」とデュマは振り返る。

チームが最終的に成し遂げたことであり、本来の目的は有名になることだ。デュマは天文山の999段の階段の下にID.Rを止め、地元のジャーナリストや観光客の前でシャンパンを撒きながらその偉業達成を祝った。IDシリーズの活躍はここから始まるのだ。

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ゴールデンドラゴンXML6700

今回の収穫はそれだけではない。チームにとってもID.Rのポテンシャルをさらに深く知ることができたとスミーツはいう。「非常に印象的な道路であり、このプロトタイプで攻略するのはとても難しい挑戦でした。このクルマをより深く知ることができたとともに、今後に向けて改善すべき点も見つかりました」

およそ4か月間に3つの大きなプロジェクトを終え、次の目標はまだ決まっていないという。しかしスミーツは「たくさんのアイディア」を持っているという。今回の中国での偉業を見る限りでは、彼らは既存の挑戦に頼るつもりはないのだろう。「今回の挑戦で、われわれができることの幅が広がりました」とスミーツは語る。


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