中村勘九郎阿部サダヲがダブル主演を務める大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)。

【写真を見る】桐谷健太が印象的だったと語る田畑(阿部サダヲ)との場面

同作は、宮藤官九郎が脚本を手掛けた日本のスポーツの歴史物語。日本で初めてのオリンピックに参加した金栗四三(勘九郎)と日本にオリンピックを招致した田畑政治(阿部)が奮闘する姿を描く。

そんな同作で、1940年東京オリンピックには反対するも、1964年東京オリンピックでは副総理兼オリンピック担当大臣として開催に尽力する河野一郎を演じるのが桐谷健太だ。

宮藤作品には多く出演しているが「河野さんみたいな役は初めてだ」という桐谷。作品の魅力や共演している阿部とのエピソード、演じる上でのポイントなどを聞いた。

■ 「さすが宮藤さんだなと思いました」

――田畑役の阿部さんとのシーンも多いですが、共演された感想を教えてください。

タイガー&ドラゴン」(2005年、TBS系)で宮藤さんの作品に初めて出演させていただきました

阿部さんも出演されていたのですが、ほとんど絡みはなかったので…。

今回はお互いがスポーツを愛していて、でも水と油のように異なる2人がライバルとして、そして良き仲間として切磋琢磨するという役どころでうれしかったですね。

また、宮藤さんの作品ではいつもおかしなことばっかりしているので(笑)、河野さんみたいな役は初めてなんです。

そういう役で約15年ぶりに阿部さんと共演させていただけるのはすごく光栄ですね。

――田畑とのシーンはいかがですか?

阿部さん演じる田畑が高い声で走り回っていますが、河野はどちらかというと重心が低くその対比が面白いですよね。

ただお互いに“スポーツを愛している”という共通点はあって、(7月7日放送、第26回の)アムステルダムオリンピックメダルを獲得したと聞いた時に抱き合って喜ぶシーンはとても印象的でした。

河野さんはその後新聞社を辞め政治家になりますが、「新聞なんて無力だ。代議士になって、村の用水路一つ直した方が、よっぽど世のためになる」というせりふは、河野さんを演じる上ですごく基盤になっていますね。

そうして政治家になった河野さんは、自分もオリンピックを東京に誘致したかったのに、オリンピック返上を唱えるんです。

第38回(10月6日放送)では、本来ならオリンピックを行うはずだった競技場で戦争に行く若者たちを見送るシーンがあるのですが、そこで見るに堪えなくなった河野さんが出ていこうとするんですよね。

そんな河野さんを田畑が追いかけてきて、「これで満足かね、河野先生」って声をかけるんです。

もちろん河野さんも満足しているわけないし、戦争のことを良しと思っているわけでもない。本編で河野さんの葛藤は多く描かれているわけではないけれど、この1シーンで田畑との関係や河野さんの思いが感じられるというのは、さすが宮藤さんだなと思いました。

■ 「『いだてん―』という世界の中で“河野一郎”が存在すればいいのではないかと」

――これまでに宮藤さんの作品には出演されていますが、今回はいかがでしょうか?

演じているのが実在する人物じゃなかったら、もっと変なことさせられていたんじゃないかなと思います(笑)。

でも宮藤さんの作品って真剣なテイストの中にもちゃんと笑いがあり、緩急があるので、本当にすごいなと感じています。

――河野さんは新聞記者から政治家になりますが、政治家を演じる上で気を付けたところはありますか?

この時代の政治家さんって存在感もすごいですよね、それは出そうとして出せるものではないと思うのですが…。

自分としては河野一郎さんの資料を読ませていただいて、それで感じたことを大切にしていこうと思いました。

でも、史料をたくさん読んだ後に息子である河野洋平さんが「父が傍若無人というように言われていることは心外だ。本当は周りの人に対して気を使っているところもある」とおっしゃっている文書を見て、「あ、また変えないといけない!」となったり…。

そうやって印象がどんどん変化する中で自分でも演技を変えたり、また史実と脚本の空気感が違ったりするので、その両方の側面を合わせながら、どうすれば魅力的な河野さんになるのかなと意識しました。

だから政治家だから意識するということは特になかったです。

――実在の人物を演じるということに関してはいかがでしょうか?

写真も残っていますし、顔が似ているとか似ていないとか、声も身長ももちろん違うし、色んなことを気にしだすと何もできなくなるというか…。

だからそういった要素を似せていくというのは違うのかなと思います。

そういったことよりは、「いだてん―」という世界の中で“河野一郎”が存在すればいいのではないかと。

例え河野さんがタイムスリップしてこの役をやってもまた違うと思いますし、あまりプレッシャーに思わずにやりました。

――国会で演説するシーンなども意識はされなかったのでしょうか?

もちろん国会中継がよぎることはありましたけど、誰かをまねするのではなく自分の中の思いを大切にしました。

本当はオリンピックを東京でしたいという思いがある中で戦争が始まってしまうって、今の人たちにはなかなか理解できないことだったと思うんですよ。

そんな中で自分が思う正しいこと、政治家としての在り方、そういった感情を思いっきり、腹から声を出そうという気持ちで臨みました。

■ 「僕らの映像の仕事にも近いなと感じるんです」

――河野さんを演じる中で工夫した点などはありますか?

たくさん資料を読ませていただいて、脚本も並行して読んでいく中でぱっと思い浮かぶようなことを書き出しました。

ガキ大将、風穴を開けていく男、おしゃれボーイ…。

色んなことを書き出して、自分の中にそれが入っていったような気がしましたね。

でもそれはあくまで客観的なことなので、そこから自分がいざ演じるとなった時に全てを気にするわけではないです。

現在、河野太郎さんを担当されている秘書の方や洋平さんの秘書だった方にもお会いしたのですが、その時に「当時の議員さんが2人だけ廊下ですれ違った時に風圧を感じる人がいた。一人は田中角栄さんで、もう一人は河野一郎さんだ」という逸話があったと聞いたんです。そのお話の後に「桐谷さんにも風圧ありますよ!」と気を使っていただいて…。

また、河野洋平さんは映画に出演されたことがあるんですよね。その時に「芝居をしていない自分がなぜ選ばれたのか?」と聞いたそうで、監督に「目力があった」と回答されたと。

それで「桐谷さん目力ありますもんね!」とまた気を使っていただきました(笑)。

――「いだてん―」の出演を通して、オリンピックについて新たな発見はありましたか?

発見だらけですよね。僕はそこまでオリンピックに詳しくなかったのですが、たくさんの男のロマンがあり、それを支える女性たちの力があり、こんなにも大変なことだったんだなと。

もし「いだてん―」に出ていなかったら、来年のオリンピックもサラッと、全然違う感じで見ていたかもしれませんね。

きっとこの時期なんてすごくバタバタしているんじゃないでしょうか?怒号が響いていたり、寝不足の人がいたり、今は携帯もあるから「いだてん―」の時代より忙しい可能性がありますよね(笑)。

スポーツマンたちがオリンピックでたくさんの人たちに“ドラマ”を見せる前に、もしくはオリンピックが開催される時に、すでに一仕事を終えて、自分自身の“ドラマ”が始まっていたり、終わったりしている、いわゆる裏方の人のことを知れるのはいいですよね。

そういった選手ではなく大会の運営の仕事は、僕らの映像の仕事にも近いなと感じるんです。5秒しか映っていないシーンだけど実は撮影がすごく大変だったり、その場面のために練習したにも関わらずカットされてしまったり…。それと同じような愛しさを感じますよね。

来年はこれまでと違った視点でオリンピックを見られるなと思いますし、今大変な人を思うと、僕も頑張ろうと思います!(ザテレビジョン

大河ドラマ「いだてん―」で河野一郎を演じる桐谷健太