労働者の味方であるべき左派政党が労働者から支持されず、安倍政権に支持が集まるのはなぜか? 消費税が増税となり可処分所得が減るいま、労働者を救う道を経済金融アナリストの吉松崇が探る。(JBpress)

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(※)本稿は『労働者の味方をやめた世界の左派政党』(吉松崇著、PHP新書)より一部抜粋・再編集したものです。

 自民党・安倍政権が選挙で勝ち続けているのは、景気を好転させて雇用状況を改善することに成功したからだ。しかしそれにしても、この第2次安倍政権下での左派政党の凋落は著しい。

 2009年8月の衆議院総選挙で、民主党が308議席を獲得して第1党となり、民主党社会民主党国民新党の3党連立による鳩山由紀夫政権が誕生した。反自民の左派政権の誕生である。

 この選挙時点の世論調査による政党支持率を見ると、民主党29.0パーセント、社会民主党0.7パーセント、国民新党0.5パーセント、に対し、前政権与党の自民党26.6パーセント、公明党3.3パーセントであった。この時点では、左派政党がおよそ30パーセントの支持率を得ていたわけだ。

 その後の推移を見てみよう。自民党・第2次安倍政権が誕生した2012年12月の総選挙の時点の政党支持率は、民主党16.1パーセント、社会民主党0.7パーセント、国民新党0.1パーセントであり、2014年12月の総選挙時点では、民主党11.7パーセント、社会民主党0.9パーセント、2017年10月の総選挙時点では、(民主党の後継政党である)民進党立憲民主党希望の党の3党合計で10.8パーセント、社会民主党0.5パーセントであった。

 さらに、最新時点(2019年5月)の政党支持率は、(同じく、民主党の現在の後継政党である)立憲民主党国民民主党自由党の3党合計で5.5パーセント、社会民主党0.6パーセントである。

 つまり、現在では、日本共産党(支持率3.2パーセント)を含めても、左派政党への政党支持率は合計で10パーセントにすら届かないのである。これはおそらく、左派政党のコアな支持層以外の中間層はもはや、誰もこれらの政党に「期待していない」という事態を示している。

 第2次安倍政権が誕生した2012年12月以降、左派政党や左派にシンパシーを抱くマスメディアがいくら安倍政権を批判しても、有権者は聞く耳をもたず、左派政党の政党支持率は低下の一途を辿っている。

低所得者を意識した経済政策運営

 もちろん、左派政党低迷の背景には、民主党政権時代(2009~2012年)に経済政策で成果を挙げられず、外交・安全保障政策で現実的な対応が取れず(沖縄の米軍基地をめぐる対米交渉、尖閣列島をめぐる中国との外交)、稚拙さを露呈したことの影響が大きいのは間違いないが、それだけではないだろう。

労働者の味方をやめた世界の左派政党』の2章初めのほうで指摘したが、私は、自民党・安倍政権のほうが左派政党以上に低所得者を意識した経済政策運営を行っているからではないかと思っている。だからこそ、中間層(あるいは無党派層)が2014年以降、左派政党から離反しているのではないだろうか?

 自民党・安倍政権のほうが左派政党より「低所得者に優しい」ことは、データを見れば明らかだ。経済格差を表す代表的な指標は、ジニ係数と相対的貧困率である。これらを、平成29年版厚生労働白書で見ていく。

 日本の所得再分配後の等価所得で見たジニ係数は、1992年に0.3074であったものが、金融危機真っ只中の1998年に0.3326でピークを付ける。この指標で見るかぎり、1998年が最悪の年である。

 その後2000年代は0.32台で推移し、民主党政権下の2010年には0.3162、そして2014年には0.3076まで低下した。これは、1995年以降では最も低い値である。ここで「等価所得」とは家計の所得を世帯人数の平方根で除して、1人当たり所得を平準化したものである。

 なお、ジニ係数のピーク1998年で、2000年代に入り緩やかに低下しているのは年金制度の深化の影響で、高齢者世帯のなかでの極端な低所得層の比率が減少しているからである【厚生労働省(2017)『平成29年版厚生労働白書』60頁】。

 したがって、2000年代の低下トレンドはある程度割り引いて見る必要があるが、それでも2010年から14年の低下幅は大きい。

貧困率を改善した安倍政権

 この図表は、相対的貧困率の推移を表したグラフである。日本の相対的貧困率は、1985年の12パーセントから一貫して上昇を続け、2012年が最悪で16.3パーセントであったが、これが2015年には15.6パーセントにまで減少している。なお、「相対的貧困率」とは等価可処分所得の中央値の半分以下の所得層の比率を表している。

 現役世代(18~64歳)の相対的貧困率も、そのトレンドは全世帯のものとほとんど同じで、1985年の10.6パーセントから上昇を続け、2012年の14.5パーセントがピークであった。だがその後、雇用情勢と所得の改善で、2015年には13.6パーセントにまで減少している。

 全世帯より現役世代の改善幅が大きいのは、高齢者ではなく現役世代が雇用情勢の影響を大きく受けるからである。

 また、17歳以下の相対的貧困率(いわゆる「子供の貧困率」)も1985年の10.9パーセントから上昇を続け、2012年に16.1パーセントでピークを付けたが、2015年は13 .9パーセントへと、じつに2.3パーセントも低下している。当然のことであるが、「子供の貧困率」は現役世代の所得に大きく依存する。

 相対的貧困率では、つねに1人親世帯の貧困が問題になる。シングルマザー問題である。子供がいる1人親世帯の相対的貧困率はきわめて高く、50パーセントを超えている(図表のなかで、この指標だけ右軸の目盛である点に注意)。しかしこの指標も、2012年の54.6パーセントから2015年には50.8パーセントにまで低下している。

 安倍政権の経済政策、「アベノミクス」の下での雇用の増加が、格差の縮小と貧困率の低下に寄与していることは明白である。市井の人びと、とりわけ貧しい人びとは、日々雇用の問題に直面しているのだから、このことを皮膚感覚で理解している。

 私は、これこそが自民党・安倍政権が選挙に強い理由だと考えている。

【関連記事「PHPオンライン衆知」より】

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