10月1日、多くの企業で入社内定式が行われました。企業には毎年、新入社員が入社してきますが年を経るごとに、「新入社員との接し方が分からない」「上司や同僚、部下を巻き込めない」「世代の異なる相手と話がかみ合わない」と悩む社員が増えています。ときに「親子でコミュニケーションが取りづらい」と家庭にまで話が及ぶことも。中には、「指示はしたけれども従わない」「助言をしたら『なぜ、そうしなければならないのですか』と歯向かわれた」と筆者に相談してくる上司もいます。

 なぜ、相手に受け入れてもらえないのでしょうか。

指示や助言を我慢し、質問を展開する

 そのような相談をしてくる人に、普段どのような会話をしているか再現してもらうと、「○○してください」「○○した方がよいと思うよ」といった指示や助言が多いという共通の傾向があることが分かりました。相手が話している割合よりも、自分が話している割合の方が圧倒的に多いのです。理由は、「時間がないので、結論だけ指示した」「他のベテラン社員に対するのと同じように、上司として命令した」というわけです。

 しかし、一方的に話し、指示や命令をしているだけでは相手を巻き込めず、話がかみ合わなくてコミュニケーションが取りづらくなるのは、当たり前です。長年、同じ価値観を持って仕事をしてきて、指示や命令に慣れているベテラン社員には通用するかもしれませんが、異なる価値観を持っているかもしれない新入社員に対しては、通用しないのです。

 では、どのようなスキルを発揮すれば、相手を巻き込みやすくなるのでしょうか。要は、指示や命令という「トップダウン」とは逆の方法をとればよいということになります。筆者はそれを「ボトムアップの巻き込み型のコミュニケーション手法」と名付けています。

「ボトムアップの巻き込み型のコミュニケーション手法」といっても、漠然とした概念を打ち出しただけでは、一体どのようなコミュニケーションをすればよいのか頭では分かっても、話法で繰り出せないということになってしまいます。

 20年来、演習を繰り返す中で、参加者の素晴らしい話法を参考にさせていただきながら、筆者は「ボトムアップの巻き込み型のコミュニケーション手法」を最も発揮しやすい、5つの質問をモデル化しました。この5つの質問を繰り出せば、相手を巻き込めるようになるのに加え、話がかみ合うようになり、コミュニケーションが取りやすくなります。

最後まで質問を続け、サポートする

 相手を巻き込む5つの質問の1つ目は、やってみてどうだったかを聞く質問です。「普段一緒にいるので分かっているはずだ」「データを見て実績を把握しているはずなのでわざわざ聞く必要はない」と思う人もいるかもしれませんが、改めて本人の口から状況を聞くことで、「普段の状況やデータを見ただけで、勝手に決めつけていませんよ」というメッセージを送ることができる効果のある質問です。

 2つ目の質問は、うまくいったことを聞く質問です。うまくいかなかったことより、うまくいったことの方が話しやすいものです。まずは、相手が話しやすいだろう、うまくいったことを聞くわけです。うまくいかなかったことを聞くのは、その後です。

 ただし、相手からダメ出しばかり受けている人は、またダメ出しが始まるのかと身構えたり、口を閉ざしたりしがちになります。そこで、「良いか悪いかを決めつけるのではなく、今後のサポートをしたいので聞きたいのですが、やりづらかったことはありましたか?」「誰しも壁にぶつかることはあると思いますが、何かありましたか?」などと表現を工夫します。

 相手から、「ここがうまくいかなかった」「この点が困った」というような返答があると、つい、こうしたらよい、ああしたらよいと、指示や命令をしたくなるものですが、ぐっとこらえて次も質問です。

 4つ目の質問は、うまくいったことをさらにうまくいくようにし、うまくいかなかったことを克服するために改善したい点を聞く質問です。自分が改善点を気付いていたとしても、改善を実行するのは相手ですから、その張本人の口からどうしたいかを言ってもらうことは、その後の実行度合いを高めるために大いに役立ちます。

 改善点について話をしてくれたら、「さあ、やりましょう」「いつまでにやってください」というように指示、命令したくなるものですが、最後も質問です。サポートを得たいことを聞き、可能であればサポートしてあげます。たった5つの質問で、相手を巻き込みやすくなります。ぜひ、試してみていただければと思います。

モチベーションファクター代表取締役 山口博

相手とうまくコミュニケーションを取るための質問