国際線の発着枠拡大など、ますますその役割が大きくなる羽田空港。そこへアクセスする鉄道各社の競争は激しさを増しています。京急電鉄東京モノレールしのぎを削るなか、JR東日本東急電鉄はそれぞれ新線を構想しています。

規模拡大する羽田空港

2010(平成22)年の再国際化以降、羽田空港の存在感はますます大きくなっています。1日平均の旅客数は2010年の17万人(うち国際線1万3000人)から、2018年には24万人(同5万人)まで増加。さらに国際線発着枠の拡大により、第2ターミナルでも国際線の取り扱いが始まることから、2020年3月から「国際線ターミナル」が「第3ターミナル」に改称される予定です。羽田空港の役割はさらに拡大することになるでしょう。

国土交通省が実施した2017年航空旅客動態調査によると、羽田空港国内線)利用者のおもなアクセス手段は、京急電鉄が32%、東京モノレールが23%、リムジンバスが16%、自家用車が11%です。

1998(平成10)年に京急が空港ターミナルビルに乗り入れるまで、モノレールがシェアの7割以上を占めていましたが、2007(平成19)年には京急30%、モノレール33%と拮抗するまでになり、ついに逆転したというわけです。この熾烈なシェア争いの過程で、モノレールは快速運転を開始、京急はエアポート快特を大増発するなど、羽田空港アクセスの利便性は大きく向上しました。

東京モノレールは定期運賃を値下げ

そして2020年の東京オリンピックを目前に控え、空港アクセス競争は次のステージへと進んでいます。京急は10月1日消費税率改定に伴う運賃改定にあわせて、京急空港線の建設費などを回収するために設定していた加算運賃を最大120円引き下げました。これにより、品川~羽田空港国際線ターミナル、国内線ターミナル)間の運賃(ICカード)は407円から292円に値下げされました。東京モノレールモノレール浜松町~羽田空港国際線ビル、第1ビル、第2ビル)間が492円(ICカード)ですから、京急は圧倒的な価格競争力を手にしたことになります。

苦境に立たされた東京モノレールですが、今後は京急との真っ向勝負を避けた「生存戦略」を取ることになりそうです。その第一手が、10月1日の運賃改定で実施した、定期運賃の最大24.4%引き下げです。この結果、モノレール浜松町~羽田空港第2ビル間の通勤1か月は1万1280円となり、京急の品川~羽田空港国内線ターミナル間の1万1540円(同)より安くなり、普通運賃と定期運賃で逆転現象が生じたのです。

東京モノレールには天空橋、整備場、新整備場など空港関連施設の最寄り駅があり、これまでも空港関係者の通勤輸送を担ってきました。羽田空港では、各ターミナルビル店舗の従業員や航空関係者など5万人以上が働いており、ターミナル拡張工事関係者の利用も増えています。京急よりも多い運転本数に加えて、定期運賃で優位に立つことで、羽田空港への通勤路線としての生き残りを目指していくことになりそうです。

JR東日本と東急の新線構想、いつ実現?

東京モノレールに代わって、京急と新たなライバル関係を築くことになりそうなのが、休止中の貨物線と既存の線路、新設トンネルを組み合わせ、東京駅新宿駅新木場駅の各方面から羽田空港まで直通列車を走らせるJR東日本の「羽田空港アクセス線」です。

JR東日本は2019年2月、東京駅に接続する「東山手ルート」の環境アセスメントの準備に着手したと発表しており、最短で2029年ごろの開業に向けて、着工に向けた準備を進めています。

そしてもうひとつ、羽田空港アクセスへの参入を目論んでいるのが、大田区東急電鉄が推進する「新空港線蒲蒲線)」です。東急多摩川線矢口渡駅東京都大田区)から分岐して地下にもぐり、蒲田駅地下、京急蒲田駅地下を経由し、京急空港線大鳥居駅(同)まで接続する鉄道路線の構想です。

この連絡線が整備されると、東急多摩川線を経由して東横線東京メトロ副都心線との直通運転が可能になり、東京西部から池袋、新宿、渋谷を経由して、羽田空港まで乗り換えなしで直結する新たなネットワークが誕生するというわけです。

ただ、東急と京急で軌間(レール幅)が異なるため、異なる軌間を直通運転できるフリーゲージトレインや、3本のレールで両軌間の車両を走れるようにする三線軌条などの対応が必要になります。そのため大田区は第一段階として、京急蒲田駅直下まで路線を建設して、京急蒲田駅京急空港線に乗り変える形の整備を検討しています。その場合でも1200億円以上にもなる整備費の財源など課題も多く、実現するとしても2030年代半ば以降のことになりそうです。

ますます激化が予想される羽田アクセス競争から目が離せません。

京急空港線の羽田空港国内線ターミナル駅(2018年11月、草町義和撮影)。