何ともやるせない発表が韓国であった。
韓国の統計庁はこのほど、2018年死亡原因調査を発表したが、自殺者数が再び増加に転じたのだ。自殺率はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最高になってしまった。
2018年の自殺者数は1万3670人となり前年比で1207人増加した。1日当たり37.5人。人口10万人当たりの「自殺率」は26.6人となり、9.5ポイント増加してしまった。
リトアニアを抜いてOECD最悪に
韓国でも自殺者の増加が社会的な問題となり官民を挙げて対策を進めてきた。その効果もあってここ4年ほどは自殺者が減少傾向にあった。これがまた増加してしまったのだ。
年齢調整後の自殺率を比較すると韓国は人口10万人当たり24.7人でOECD加盟国の中で最高になってしまった。
韓国はリトアニアのOECD加盟で2位になっていたが、2018年の統計では再び1位になってしまった。
日本も自殺者数が多いことは大きな問題だ。2003年には3万4427人まで達したが、その後は減少に転じた。2018年には2万840人になった。
2010年以降9年連続減少し、自殺率は16.5人で、厚生労働省と警察庁がまとめた統計によると「1978年に始めた自殺統計で過去最少」になったという。
これに対して韓国は、増加に歯止めがかからない状態だ。
日本と比較すると…
日本と韓国の自殺統計を比較すると、いくつかの特徴が浮かぶ。人口10万人当たりの自殺率はこうだ。
10代(日本5.3人、韓国5.8人)と20代(日本17.2人、韓国17.6人)はほぼ同じだが、30代は日本が17.8人であるのに対し、韓国は27.5人と跳ね上がる。
さらに40代も日本が18.6人、韓国が31.5人と大きな差がある。
もっと顕著な差があるのが高齢層だ。60代は日本18.2人、韓国32.9人、70代は日本19.8人、韓国48.9人、80代は日本20.7人、韓国69.8人となる。
高齢者は「肉体的困難」が理由
韓国では、高齢者の自殺率が特に高いのだ。
では、どうしてこんな悲しい選択をしてしまうのか?
韓国の保健福祉部は、2019年6月に発表した「自殺予防白書」で、警察庁の内部資料をもとに原因を分析した。
それによると、10~20代は「精神的な困難」、30~40代は「経済的な困難」、50代は「精神的な困難」、そして60代以上は「肉体的な困難」が原因だという。
自殺原因や防止策について取材をした経験がある、あるベテラン韓国紙記者はこう話す。
「韓国が未曽有の経済危機に見舞われたIMF危機は国が倒産するという衝撃的な出来事だった。自分が苦境に陥っても国や親戚・家族など誰かに期待できるという信頼が崩れ、自殺が急増した」
「構造的な問題としては、年齢面では10代と高齢者が多く、低学歴、低収入の層、さらに女性より男性の自殺者が多い」
10代、20代については、韓国での進学、就職競争の過酷さがストレスを生み出すという指摘もあるが、日本と自殺率がほぼ同じことを考えれば、別の理由があるのかもしれない。
30代、40代の場合は、経済格差の拡大で、自分の生活が不安定な点。さらに家族を十分に支援できない点などがストレスになっていることが背景にあるとみられる。
さらに高齢層になれば、健康上の問題に加え、老後の生活に対する不安も大きな原因だろう。
超競争社会
韓国では、ここ1か月以上にわたって、曺国(チョ・グク=1965年生)法相とその家族を巡る様々な問題で、法相就任が妥当かどうかについての賛否が割れている。
一つの問題が、娘が大学、大学院(メディカルスクール)進学した際に不正があったかどうかだ。
韓国社会では「受験」問題はきわめて重大で敏感で、若者を中心にして不正を批判する声も少なくない。
一方で筆者は最近、40代で子供が高校生だという働く女性何人かと話す機会があった。
「受験不正疑惑に、さぞかし怒っているのか?」と思ったら、予想外の答えが返ってきた。
「子供に申し訳ない。周りの親も、こんな思いで落ち込んでいる」という。
親が普通の社会人で、「特権」を行使することができず、子供に厳しい受験勉強を強いることを「自分の責任」だと思っているというのだ。
進学、受験問題、子供問題は、10代だけでなく、30代や40代にも深刻な問題だ。経済的に困難で子供に十分な受験準備の機会を与えることができないことが、親にとって、相当なダメージなのだ。
日本とは、かなり異なる「超競争社会」のストレスを垣間見た思いだった。
自殺統計を見て、もう一つ考えさせられてしまった。
所得主導成長論
高齢者の自殺率がこれほど高いことの驚きだ。
文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)政権は発足以来「所得主導成長論」を掲げている。
最低賃上げの引き上げ、非正規職の正規職への転換、さらに高齢者向けに週数時間働く短期雇用の拡大などを一気に推し進めている。
こうした経済政策は、大企業から見れば、負担を強いられ、国際競争力を低下させかねない政策だ。
また、雇用対策に積極的に財源をつぎ込む「ばらまき政策」という批判を浴びかねない。
ところが、自殺統計を前にすると、何が必要な経済政策なのか、考えさせられてしまう。
「毎日経済新聞」は10月7日付で青瓦台(大統領府)の経済首席秘書官のインタビューを掲載した。
この中で「増加しているという雇用の大半が、老人の一時的な職に過ぎないという批判がある」という質問にこう答えた。
「1955~1963年まで毎年100万人が生まれ、いま85万人程度が残っている。毎年この層が60歳以上の高齢層になる」
「この多くの層がある時期急に職を失うことの方がより深刻な問題だ。老人向けの仕事は、1日1~2時間働いて月収が27万ウォン(1円=11ウォン)に過ぎないという批判もあるが、こういう仕事でも当事者にとっては大事だ」
何とも意味深長だ。ばらまき批判を受けても、必要な措置だと言われれば、自殺統計の前では反論の言葉が浮かばない。
2018年の自殺者が増加したことについては「ウェルテル効果で一時的だ」という指摘もないわけではない。
メディアが有名人などの自殺を報道したことに影響を受けて同じ選択をする例が増えることを指すが、2018年の統計を見ると、1月、3月、7月の自殺者が増えた。
歌手、芸能人、政治家の自殺が大きく報道された時期で、この影響があったことは否定できない。
それでも、韓国の自殺者が国際的にみても多いことは明らかだ。
熾烈な受験、就職競争、不安的な雇用と経済格差拡大、年金制度の遅れなど不安的な老後・・・。
韓国は、1960年代以降に「圧縮成長」といわれる効率重視の経済成長策を続けて成功したが、社会のセーフティーネットの整備は、まだこれからだ。
自殺という極端な選択を防ぐ対策に総力戦で臨むべきだ。
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