「少子化解決のために、子どもを3人産んでください」。

【結論】円グラフで見る「もしも“子ども3人産んで”が実現しても、少子化が止まらないワケ」

 近年、若い夫婦に対する政治家のこんな発言が物議を醸すことがあります。確かに少子化を何とかするには産むほかなく、解決を焦って口にしてしまうのでしょう。批判の的になり、ネット上では「政治家なら産めと指示するのではなく、産みたくなるような社会を作るべきだ」といった社会学的な指摘も見られます。

 しかし、この記事では視点を変えて、数学的な観点から“子ども3人産んで発言”の問題を挙げたいと思います。

 結論から言いましょう―― おそらく日本の若い夫婦が子どもを3人ずつ産んだとしても、人口は増えません。

 え、そんなバカなと思うかもしれません。もちろんある条件を満たせば増えるのですが、条件によっては増えません。そして現在の日本は“増えない条件”を満たしている可能性が高いのです。簡単な数式を使って、それを証明してみましょう。

ライター:キグロ

5分間で数学を語るイベント日曜数学会」や数学好きが集まる部室みたいなもの「数学デー」の主催者。数学の記事を書いたり、カクヨムで小説を書いたりしている。

 証明のために、まず「何人産めば人口が増えるのか?」を計算する公式を作りましょう。

 「公式って作れるの?」と驚かれるかもしれませんが、実は数学という学問は公式を使うよりも、公式を作る方がメインなのです。学校の数学の授業とは、少し趣が異なりますね。

 といっても、今回の公式は頑張れば中学生でも理解できそうなレベルです。一緒に考えてみてください。

●数式で考える“少子化の止め方”

「子世代の人口 > 親世代の人口」になれば少子化は解決するはず

 人口が増えるかどうかは「子世代の人口」が「親世代の人口」より多いかどうかにかかっています。子世代の人口の方が多くなれば、少子化問題は解決します。

 では、子世代の人口はどうすれば計算できるでしょうか? 単純に考えて、「夫婦の数」に「1組の夫婦が産む平均の子どもの数」を掛け算すれば求められます。

※実際には婚外子の人などもいますが、いったん考慮外として後で考えます。

夫婦の数は「親世代の人口」と「結婚する人の割合」を掛け算すれば求められる

 また「夫婦の数」は、「親世代の女性人口」と「女性のうち結婚する人の割合」を掛け算すれば求められます(別に男性人口でも構いませんが、今回は女性人口にしましょう)。

 それから、親世代のうち半分が女性だとします。現実には男性の方が若干多いなどの事情もありますが、ここでは話を簡単にするために、男女半々としましょう。

 さて、以上で条件がそろいました。これらを使うと、次のような公式が成立します。

・子世代の人口=親世代の女性人口×女性のうち結婚する割合×1組の夫婦が産む平均の子どもの数

 これが親世代の人口より多くなれば、少子化問題は解決です。文章のままだと書くのが面倒なので、全部記号で置き換えてしまいましょう。

●子世代の人口を求める公式「c=npm」

・c;子世代の人口

・n:親世代の女性人口

・p:女性のうち結婚する割合

・m:1組の夫婦が産む平均の子どもの数

 nは親世代の“女性”人口ですから、男性も含めた総人口はその2倍、つまり2nです。従って、人口が増えるためには、次のようになっていればよいことが分かります

●c=npm>2n

 子世代の人口を求める公式を使って、少子化が解決する条件「子世代の人口 > 親世代の人口」を数式で表すとこうなります。

 この式を変形すると、「p>2/m」になります。“子ども3人産んで発言”の通り、1組の夫婦が産む平均の子どもの数(m)が3人になったとしましょう。

 すると、「p>2/3」という結果が得られます。この式が意味するのは「子どもを3人産んで人口が増えるのは、結婚する女性の割合が67%を超えている場合である」ということです。

●でも、そもそも結婚している女性の割合が少ない

 では、現実のデータはどうなっているでしょうか。2015年国勢調査の結果を見てみましょう。

 妊娠出産に適していると考えられる25~35歳の女性に注目すると、その人口は753万0680人。そのうち、有配偶者(現時点で夫のいる人)は374万0621人。つまり結婚している女性の割合は

7530680÷3740621×100=49.67176%

 なんと、たったの50%しかいません。67%には遠く及ばないのです。

 最近は晩婚化が進んでいるので、年齢を上げて30~40歳の結婚している女性の割合を計算してみましょう。この範囲の女性人口は864万2168人、有配偶者は558万9314人。

・8642168÷5589314×100=64.67491%

 約65%。必要な67%にわずかに足りません。

 このデータは有配偶者、つまり「現時点で結婚している女性の人数」です。過去に結婚していたが今は離別/死別した人は含まれていません。こうした人たちも含めるとどうなるでしょう?

 25~35歳では、その値は約57%と、やはり足りません。一方、30~40歳では約73%に達し、何とか足ります。

 つまり、現在の30~40歳の人たちが、離別/死別した人も含めて平均3人以上の子どもを産んでいれば、子世代は親世代より多くなるはずなのです(ただし、現実にはそうなっていないため、少子化が進んでいます)。

●婚外子を考慮すると?

 ここまで、結婚した人限定で話を進めてきましたが、「子どもを産むかどうか」だけに注目したら、どうなるでしょう。いわゆる婚外子も含めた場合です。

 この場合、公式は次のように書き換えればよいでしょう。

・子世代の人口=親世代の女性人口×女性のうち子どもを産む割合×子どもを産む女性が平均して産む子どもの人数

 これも文章のまま書くと面倒なので、全部記号に置き換えましょう。

●c=nqs

・c:子世代の人口

・n:親世代の女性人口

・q:女性のうち子どもを産む割合

・s:子どもを産む女性が平均して産む子どもの人数

※ちなみに、sはいわゆる出生率より大きな値になるはず。出生率は「子どもを産まない女性も含めた平均」なのですが、sは「子どもを産んだ女性だけ」で計算するからです

 これが親世代の人口2nを超える(c=nqs>2n)ためには、どうなっていればよいでしょう?

 この式を変形すると「q>2/s」という式が得られます。記号が違うだけで、さきほどの式とそっくりですね。式の意味するところもほとんど同じです。

 さて、子どもを産む女性が平均して3人の子どもを産むとしましょう。すると、qは67%以上になり、この式からは以下のように読み取ることができます。

 「結婚するかしないかに関わらず、子どもを産んだ女性が平均して3人産む場合、人口が増えるには、子どもを産む女性が67%を超えていないといけない」。

●円グラフを見れば、こうなる理由が一目で分かる

 「子どもを3人産んでも人口が増えるとは限らない」というのは直感に反する結果かもしれませんが、円グラフを描いてみると理由が一目で分かるはず。

 人口を増やすためには「産む人数を増やす」か「産まれる人数を増やす」しか方法がありません。そしてこの2つの間には、簡単な数式で表せる関係があります。

 例えば、「親世代の女性のうち、半分が子どもを産む」ということは「親世代の4分の1が子どもを産む」ということになります。少子化がストップするのは平均4人以上産んだときです。

 もしも世の中が“子ども3人産んで発言”の通りに動いたとしても、さらに「女性の3分の2(約67%)が子どもを産む」という条件を満たさないと子世代の人口は減ってしまうのです。

 今回の例に限らず、「これをやるためには、具体的に何を目標にすればよいのか?」という疑問に、数式が答えてくれる場合があります。なかなか思い通りにコトが進まないなと思っている方は、やろうとしていることを数式で表してみるとよいかもしれません。それは自分が思っているよりも、大変な目標なのかもしれませんよ。

2019年10月9日15時15分 修正:タイトルを一部変更しました

公式を作って、“少子化が解決する条件”を数学的に考えてみます。