映画を語るWEB番組「活弁シネマ倶楽部」#52に、カンヌ国際映画祭「批評家週間」特別招待作品である『典座-TENZO-』の監督・富田克也、脚本・相澤虎之助がゲスト出演した。

【写真を見る】二人が僧侶に対して抱いていた「下世話なイメージ」を暴露!?

映画監督をはじめとする業界人らがほぼノーカットで好き勝手に語り倒す、映画マニアが密かに集うWEB番組「活弁シネマ倶楽部」。毎回映画マニアが思わず話を聞きたくなる作品のチョイスやキャスティングで、局地的に話題を集めている。

映像制作集団「空族」の一員として、独自の制作スタイルを持つ二人は、2016年の作品『バンコクナイツ』で第69回ロカルノ映画祭「若手審査員・最優秀作品賞」を受賞するなど、海外でも高い評価を受けている。

今回は、本作の主要なテーマとなる「3.11」以降の日本社会と仏教の在り方について、また住職らが自ら出演して描いた本作についての一部始終、そして空族の過去作などについて語った。

■ 「カンヌなんて無理に決まってるから、出したことにしようって(笑)」(富田)

今回語られる作品『典座-TENZO-』は、10年前、本山での厳しい修行期間を終えた河口智賢(僧名・チケン)と兄弟子の倉島隆行(僧名・リュウギョウ)が自ら出演する、ドキュメンタリーとフィクションの枠を超えた作品。

住職を務める智賢(ちけん)は、本山での修行によって食物のアレルギーが完治した経験から、「高度に発展した現代社会にこそ仏教の教え、その中でもとりわけ日常全ての人間が行う“食”に関する問題が大切なのではないか」と考え、本作の製作を思いついたという。

全国曹洞宗青年会からのオファーについて、富田は「プロモーションビデオかなと思ったんですけど、『プロモーションビデオじゃなくて短編映画で』って言い直されたんですよね。

世界仏教徒会議という、毎年いろんな国で開催されている会合があるんですが、2011年の会場が日本になって、曹洞宗がホストを務めることになったので、そこで上映するための(短編映画)ってことだったんです。

倉島さんから『完成の暁には、カンヌ国際映画祭の短編部門に出したいんです』と言われたんです。僕らとしては『最善を尽くします』としか言えなかったです(笑)」と、最初は映画業界のことをわかっていない無茶な注文だと思っていたことを告白。

結果的に、彼らの願い通り第72回カンヌ国際映画祭に見事選出されたことについて、「ビックリしました。誰も信じていなかったし、正直『無理に決まってるから、(カンヌに)出したことにしよう』って裏で言っていたくらい(笑)」と、富田自身も彼らの思いに後押しされた経緯を明かした。

■ 僧侶がカンヌ国際映画祭にこだわった驚きの理由とは

そこまで倉島がカンヌ国際映画祭にこだわっていた理由について、富田は「良いエピソードがあるんですよ」と倉島から聞いた話を語り出す。

「倉島さんが、お坊さんになるための修行を(曹洞宗の)本山の永平寺でしていた頃、思いを寄せていた女性が余命を宣告されてしまったことがあって。

倉島さんがその女性にいろいろ問いかけられるんですけど何も答えられず、そんな自分を不甲斐なく思って『このまま僧侶になっちゃいけない』と考えて、修行を続けるために南仏にあった禅寺に行くことに決めたんです。

そこでいろんな奇跡的なことが起きるんですけど、そんな中で、彼は映画も好きだったからカンヌ国際映画祭にたどり着いて。その時に『いつか俺はここに帰って来るんだ』って心に決めたらしいんです。

そんな20代前半で抱いた思いを、こういう形を成就させたことになるんです。僕たちはそれを知らなかったんです。カンヌでインタビューで倉島さんがいきなり話し始めて。最初から言えばいいのに(笑)」と、倉島が抱いていた本作への思いを明かした。

■ 「青山老師に一発で魅了されちゃったんです」(富田)

脚本について話が及ぶと、「脚本を書き始めるのがわりと遅くて。まずは曹洞宗のことを知らなきゃいけないと思ったし、そもそも青年会の皆さんと関係を深めていく時間も必要だったので。

最初のオファーから丸2年ぐらい時間があったから、僕もわりと余裕があって、永平寺に泊まらせてもらって座禅を組んでみたり。そんな中で、青年会の皆さんと『どんな映画にしましょうね』なんて話をしていた時に、『曹洞宗のことを知るためには曹洞宗一の人格者に会っちゃうのが一番早いんじゃないか』と思って。

青年会の皆さんに『そんな人いますか?』って聞いたら、青山俊董老師の名前が挙がったので、会いに行こうと。ただ会いに行くのも何なので、弟子が師匠に問いかける禅問答の形を借りることにして、それを撮影したんです。

ノンストップの2時間半に及ぶ対話だったんですけど、一番初めに撮影したのがそのシーンでした。その時点ではまだ(相澤)虎ちゃんも関わっていなくて、脚本という形にはなってませんでした」と、映画としての形が決まる前に撮影をスタートさせたことを明かした。

青山老師について、富田は「一発で老師に心を奪われた。魅了されちゃったんですよね。こんな人間いるのかと思って。こんな人がいるならこの世はまんざら捨てたもんじゃないなと思うくらいでした。

僕たちはそれを捉えることができて、後で映像を見返した時に『これは行ったな』と思って。そこでこの映画に対する確信を得ました」と、その出会いが作品作りに大きな影響を与えたことを熱弁。

その上で「弟子の思いの部分である、普段の彼らの生活をフィクションパートとして、ドキュメンタリー部分である老師との対話の両脇に配置するというイメージが思い浮かびました」と、本作の構造に関してコメントした。

■ 「宗教は震災以降、世の中の人から求められている」(相澤)

本作において一つのキーワードとなる「3.11」について、脚本を務めた相澤は「福島のことを描こうって話が出てきたのは、青年会の皆さんの話を聞いている中で、『震災以降、世の中の人から求められていると感じる』って仰っていたんです。

それまでは“葬式仏教”とか揶揄されることもあったんだけど、人々が親交や心の拠りどころを求めているのを感じるっていうのを聞いて、僕たちも福島(を取り上げること)にチャレンジしようと思ったんです」と、取り上げた経緯を語る。

一方で、富田は「震災後すぐに物資を届けるために福島を訪れて、一応カメラも持っていったんですけど、今すぐ何かをどうこうっていうこともできないほどのすさまじい風景を目の当たりにして。その年の5月にも行ったんですけど、映画を撮ることは到底考えられなかったんです。

あれから8年近く経とうとして、ようやく福島を映画の中で題材として扱おうという気持ちになったというか。先ほどの話にもありましたけど、お坊さんたちがそういう思いになった(ことが大きい)。その人々に求められているという感覚は、僕たちも一致したんですよね」と、葛藤を経てのテーマ設定について振り返った。

そのほか、番組内では「空族」の過去作品、関連作品の全カットが入っているシーンがあったり、「これまでの過去作すべてが本作に繋がる作品であった」という富田の思いなど、あらゆるエピソードが語られている。フィクションとドキュメンタリーを通して仏教を描く本作の魅力に、ぜひ触れてみよう。(ザテレビジョン

「活弁シネマ倶楽部」に出演した空族の富田克也(右)と相澤虎之助(左)