ラグビーワールドカップ(W杯)の日本開催で消費が増えているといわれる「ビール」。そのビールがスーパーやコンビニ、酒販店などの店頭に並ぶ際は、缶か瓶での販売が普通です。ジュースやお茶は炭酸飲料も含めてペットボトルが主流なのに、なぜ、ペットボトル入りのビールをほとんど見ないのでしょうか。メーカーに取材しました。
ペットボトルは気体が通り抜ける
まず、キリンホールディングス(HD)のパッケージング技術研究所担当者に聞きました。
Q.酒販店などで、ペットボトル入りのビールをほとんど見かけません。なぜでしょうか。
担当者「PETボトル(ペットボトル)の材料であるPET(ポリエチレンテレフタレート)はプラスチックであり、ガラス瓶やアルミニウム缶に比べ、微細な穴が開いた構造で、酸素や二酸化炭素などの気体分子が通り抜けるという性質を持っています。ビールは清涼飲料と比べ、酸素によって香味が劣化しやすい非常に繊細な飲み物なので、通常のペットボトルでは、基本的には販売できない製品といわれています。
また、ビールは光による香味劣化が起こりやすい特性もあり、通常のペットボトルのような透明体では基本的に販売できず、光を遮光するような着色(瓶ビールのような茶色がベスト)が必要になります」
Q.キリンの業務用の「タップ・マルシェ」はビールをペットボトル入りで提供しているそうですが、どうやって弱点を克服したのでしょうか。
担当者「酸化劣化を防止する技術として、キリンで独自に、ペットボトル内表面に炭素の緻密な膜をコーティングするバリアー技術を開発しました。DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングと呼んでいます。このバリアー技術を施したペットボトルは、ガラス瓶やアルミニウム缶と同程度の品質保持性能があります。
タップ・マルシェのペットボトルには、このバリアー技術を施しており、また、光劣化を防止するために、ビール瓶と同レベルまで光を遮断するフィルムをボトル表面に装着しているので、ガラス瓶やアルミニウム缶と同程度の品質保持性能があります。
ちなみに、酸化劣化防止のためのバリアー技術はDLC以外にもいくつかあり、世界で使われています。ヨーロッパなどで多く見られるペットボトルビールにもバリアー技術が施されています」
Q.通常のペットボトルのようにリサイクルも可能なのでしょうか。
担当者「DLCコーティングペットボトルは、通常のペットボトルと同様にリサイクル可能です。国内の基準もクリアしています」
Q.技術的には可能になったのに、なぜ、通常の市販商品ではペットボトル入りビールを採用しないのですか。
担当者「日本では、ペットボトルは清涼飲料用容器として広く普及しています。一方、ビール用容器としては缶が約70%と主流です。そのため、ペットボトル入りのビールはあまりなじみがなく、スーパーマーケットなどに並んでいると未成年が間違えて手に取るリスクがあるため、採用されないのが理由の一つとして挙げられます。ちなみに、先述したようにヨーロッパなどでは、ペットボトル入りビールがスーパーマーケットなどで販売されています」
Q.ペットボトルのビールを求める声はお客様相談室などに入ってないのでしょうか。
担当者「『プルタブは缶を開けると気が抜けるので、ペットボトル入りをつくってほしい』『ふたができたら、こぼさなくて済むのでペットボトルだといいです』『お花見のときにはペットボトル入りのビールがいいと思います』といったご意見は頂いています」
Q.今後も、市販商品ではペットボトル入りビールを販売しない方針でしょうか。
担当者「未成年が間違えて手に取るリスクなど、先ほど述べた理由から、すぐには普及しないと考えており、市販商品として販売する方針は現時点でありません」
アサヒビールはかつて販売計画
キリンでは発売予定なしとのことですが、アサヒビールではかつて、ペットボトル入りビールの新商品発売予定があったものの、「幻の新商品」になってしまったようです。その経緯を、アサヒグループHDの広報担当者に聞きました。
Q.かなり以前の話ですが、「ビール用のペットボトルを開発した」というニュースリリースを見ました。どうやって、ペットボトルの弱点を克服したのでしょうか。
担当者「ペットボトルは清涼飲料の容器として広く利用されていますが、ビールの容器としては、気体透過や光線透過などの要因で、大手ビールメーカーでは商品化されていませんでした。しかし、当社では2004年7月、ガスバリアー性と遮光性を飛躍的に高めた『ビール用ペットボトル』を開発し、同年、その容器を生かした新商品を発売することを発表しました。
リリース発表後、多くのお客さまから予想を上回る反響を頂戴し、アルコール市場においても、ペットボトル容器の普及が当初予測以上に加速することが想定されました」
Q.それが、なぜ発売できなかったのでしょうか。環境保護団体から反対の声が上がったとも聞きました。
担当者「複数の環境保護団体から、当時のPETのリサイクルシステムに多大な影響を及ぼす可能性があるというご指摘を頂きました。総合的に判断して同年9月、当初計画していたペットボトル容器入りビールの新商品の発売を当面見合わせることを発表しました」
ちなみに、アサヒビールでは、ビールタイプのノンアルコール飲料「ドライゼロスパーク」をペットボトルで販売しています。
オトナンサー編集部
コメント