「記憶が曖昧でわかりかねます」「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません」……。

 東京地裁の法廷でのらりくらりと質問をかわしたのは、東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5)を虐待死させたとして、傷害、保護責任者遺棄致死などの罪に問われた父親の雄大被告(34)。起訴内容は認めたものの、結愛ちゃんの命の危険を認識したのは死亡前日の「昨年3月1日だったと思う」と述べ、「2月下旬」とする検察側の主張に争う姿勢を見せた。

 社会部記者が振り返る。

「本人が細かい主張をしてきているのに、いざ被告人質問をしてみると、虐待の時期や当時の考えなどは『明確な記憶がない』と答え、検察官を苛立たせていた。裁判員も繰り返し質問するなど丁寧に向き合っているのに、下手な国会答弁のような答えをしばしば繰り出したのが印象的でした」

 法廷では雄大の過去も語られた。幼少期を北海道で過ごした後、東京の大学に進学。学生時代に在籍したバスケ部ではのけ者にされた経験もあったという。

 大卒後は有名企業の子会社に就職してシステム関係の仕事に就くも、仕事のプレッシャーで体調を崩して退職。その後はススキノクラブボーイとして勤務し、2015年から香川県キャバクラに勤めることに。すでに有罪判決を受けた優里被告(27)は、当時シングルマザーでこのキャバクラキャストだった。

具を使ったと思われる“凄惨な暴力”の証拠

 優里との結婚を決めた雄大だが、結愛ちゃんと「血が繋がっていないことを気にしていた」という。理想の子供像を求めて早起きや勉強などの厳しい課題を与え、“しつけ”と称した暴力を加速させていく。

 面会した児童虐待の専門家は法廷で「自分が教えた行動を習慣化させ、後で結愛ちゃんがよかったと思えることを残したかったのだろう」と推し量るも、「他者の立場で考える能力にかなり問題がある」と断じた。香川で結愛ちゃんを2度保護した児相職員も、保護の原因は結愛ちゃんにあるとしていた雄大が「子供が悪いと堂々と言うことにあぜんとした」と証言した。

 結愛ちゃんの体には約170カ所の傷があり、背中にはL字型の変色した傷、足の裏には複数の円形の傷など、道具を使ったと思われる凄惨な暴力の証拠が刻まれていた。

「雄大の鼻をすする音が鳴り響くため、裁判長が鼻をかむように促していたが、心証はいいとはいえないでしょう」(前出・社会部記者)

 証言に立った優里は「もう結愛と息子には近づかないで」と泣き叫んだ。検察側は懲役18年を求刑。一審判決は10月15日に下る。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年10月17日号)

検察側は「比類がないほど悪質」と述べた ©共同通信社