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力強い加速と空気を滑らかに進むボディ

ジャガーDタイプはキーを回すと燃料ポンプが動き、3基のウェーバー・キャブレターへ燃料を送られたことを確認してから、大きなプラスティック製のボタンを押す。長めのクランキングの後、直6が目を覚ました。助手席側に伸びるマフラーエンドから爆音が轟く。

スピードメーターは180mph(289km/h)まで刻まれている。ジャガーのレーシングチームのボスだったジョン・ワイアーは、ドライバーが高速で走っていることを実感していただろう。エンジンの回転数に気をかけることも重要だった。ジャガーの創業者、ウィリアムライオンズはDタイプ最高速度が、販売面でも有利であることを評価していた。

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ジャガーDタイプ

短いシフトレバーはかなり前方から生え、2速から3速へと変速すると、大きく倒れてトランスミッショントンネルに触れそうに感じる。発進の瞬間からシフトフィーリングは鋭く正確で、ギアチェンジのたびにブリッピングをしたくなる。

エンジン1500rpmを超えると力強いトルクが湧き出し、スムーズパワーが発生するため加速も強力。分厚い音質の排気音を発しながら、Dタイプは非常に速く走る。スピードを上げてアクセルを離すと、滑らなかなボディが空気の中を滑らかに進んでいくようだ。

ル・マンの滑らかな路面を優先させたDタイプは、英国郊外の凸凹が多い路面が得意ではない。時折不意に路面に弾かれてボディが振られるが、ラック・アンド・ピニオンの優れたステアリングが付いているから修正も苦ではない。

対象的な特徴を持つ2台

アストン マーティンとは異なり、Dタイプはサスペンションからガタガタとした音や突き上げがない。ブレーキは想像に反し、不安定なアシストのおかげでフィーリングが悪い。このクルマにはレース用のブレーキパッドが付いていたから、そのためかもしれない。

いまドライブしてみると、2台の対象的な特徴に気付く。「アストン マーティンはDタイプのような馬力もトルクも持っていません。ジャガーと戦うには、綿密にドライブする必要がありました。ブレーキングとコーナリングが重要ですが、Dタイプに直線で追い越されました」

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ジャガーDタイプ

ジャガーなら、ジェントルマンドライブできましたが、アストン マーティンは荒々しくドライブしなければ勝てません。かなり攻めなければならない勝負でした」 当時のレーサー、ロイ・サルヴァドーリは振り返った。

かのスターリング・モスは両車を運転しているが、Dタイプに乗ったのは3度だけ。「DB3Sはとても優れたロードゴーイングレーサーでした。操縦性も良く、小さく感じられ、運転もしやすいクルマでした。しかしエンジンは回転数を上げることができず、制限を受けているようで酷いものでした」

レッドラインまで回して変速すると、パワーがなくなったように感じられるのです。しかし操縦性の高さがパワー不足を補いました。思いのままに運転ができる懐の深いクルマでした。力のない、私のお気に入りマセラティ300Sのように」

「アストン マーティンハードコーナリングでリアの内側が浮き上がる傾向があり、スピンも引き起こしました。ライバルコーナーの出口で加速する場面で、DB3Sはしばらく落ち着かせる必要がありました」 とモスは振り返っている。

レーサーからの支持があつかったDB3S

カーブの多いサーキットでは、DタイプよりもDB3Sの方が優れていたとモスは話している。「メルセデス・ベンツ300SLRからDB3Sに乗り換えると、ずっと小さく軽く、運転も簡単に感じられました。ニュルブルクリンクのようなサーキットでは、DB3Sの軽快さと、SLRの信頼性とスピードが組み合わせれば、完璧なクルマになったでしょうね」

スターリング・モスのジャガーDタイプに対する思いは、戦歴で悪く色づけられている可能性もある。彼が唯一Dタイプでフィニッシュできたのは、1954年のダンドロッドツーリストトロフィーだったが、油圧不足で不調となり18位で終わったからだ。

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アストン マーティンDB3S

美しいジャガーでした。もしかすると何よりもカリスマ的かもしれません。ル・マンのために作られた精密な専用マシンで、一般道や空港跡地のサーキット向きのクルマではありません。Cタイプと比べればDタイプ明らかに丈夫で速く、正確性も優れていましたけれど」

ル・マンランス・グーなどの滑らかな高速コースでは有利でしたが、ダンドロッドなど路面状態の悪いサーキットでは、操縦性や反応の良さではDB3Sには及ばなかったと思います」

レーサーモータージャーナリストポール・フレールも、ジャガーとアストン マーティンの両車を運転している。1955年にはピーターコリンズとともに、アストン マーティンル・マンで2位入賞を果たした人物だ。「レースの半分以上は雨でしたが好調でした。力不足のアストン マーティンにはむしろ合っていました。DB3Sの運転を本当に楽しめました。よりレーシングカー的でした」

パワーがないぶん、トレーニングになった

ジャガーDタイプは運転が簡単でフレキシブルで、ツーリングカー的でしたね。アストン マーティンはうるさく、硬く、エンジンは柔軟性がなく、変速も難しいものでしたけれど。Dタイプブレーキは軽く良く効きましたが、アストン マーティンはペダルを強く踏み込む必要もありました」 と語るポール・フレール。

アストン マーティンで名を馳せたレーサートニーブルックスはDB3Sの魅力をこう語っている。「当時優れたマシンは何台かありましたが、SB3Sもその1台です。ハンドリングブレーキングも優れていましたが、ジャガーフェラーリと戦うにはパワーで苦労しました。直線では常に劣勢でしたが、アストン マーティンを限界まで攻め込んで走らせることは、良いトレーニングにもなりました」

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ジャガーDタイプとアストン マーティンDB3S

ブルックスは果敢に走り、1956年に参戦したニュルブルクリンクノルドシュライフェのレースでは、チームメイトより16秒速く周回し5位で入賞している。「ニュルブルクリンクは好きでした。DB3Sの操縦性が活かせ、競い合うのも楽でした」

アストン マーティンDB3SとジャガーDタイプは、ともに際立った特徴から筆者のお気に入りで甲乙が付けがたい。アストン マーティンの操縦性のバランスと、ジャガーの圧倒的なスピード。Dタイプの型破りな美しく魅惑的なボディラインにも引かれるが、DB3Sの貴重でクラシカルな存在感も魅力的だ。

わたしヒーロー的存在といえる、ピーターコリンズレースを戦ったマシンを所有する価値は比較にならないほど特別なものだ。仮にどちらかを選ぶとしたら、アストン マーティンとなるだろう。2シーターとして使え、確固たる歴史を共有できるという価値は、他にはかえがたい。

DB3SとDタイプ、2台のスペック

アストン マーティンDB3S(1953〜1956年)のスペック

価格:1953年時 3684ポンド(49万円)
生産台数:31台(一般向け20台を含む)
全長:−
全幅:−
全高:−
最高速度:225km/h
0-96km/h加速:6.6秒
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:890kg
パワートレイン:直列6気筒2992cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:228ps/6000rpm
最大トルク:−
ギアボックス:4速マニュアル

ジャガーDタイプ(1954〜1958年)のスペック

価格:1954年時 3633ポンド(48万円)
生産台数:67台(公道用XKSSの16台を含む)
全長:−
全幅:−
全高:−
最高速度:273km/h(ル・マン仕様)
0-96km/h加速:4.7秒
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:992kg
パワートレイン:直列6気筒3442cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:273ps/5750rpm
最大トルク:35.3kg-m/4500rpm
ギアボックス:4速マニュアル


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