『東大名誉教授がおしえる やばい世界史』(ダイヤモンド社) 著者:滝乃 みわこ


歴史を創るも変えるも一人一人の人間しだい

私は勤務先の東大史料編纂(へんさん)所主催で、「日本を変えた人物10人」という全10回のリレー講座を企画したことがある。ところが、「人間個人が時代を創れるわけないだろう。勘弁してくれよ」〈その人の言葉のママ〉と非難され、実現しなかった。とても悔しかった。

たしかにある意味、そうなのだ。一人の人間がどうがんばっても、歴史は変わらない。だが二つのことを指摘したい。

最近まで、いやもしかしたら今でも、指導者の判断が少なからぬ人命を損なうことがある。命を失う人にとっては、それはすべての終わりを意味する。人との絆も、恋心も、夢もそこで永遠に絶たれる。だとすると、人間一人の判断はやはりとんでもなく重いのではないか。

また、ジンギスカンを紹介するフランステレビ番組が力説していたが、苛烈な状況、たとえば洋上の海賊船、たとえば極寒のモンゴル、こうした環境ではリーダーの判断がみんなの生命を左右する。世界一の帝国を築いたジンギスカンはこうした試練を生き抜いて成長した。彼以外には、良くも悪くも、あの帝国は創れなかった。そして大帝国に内包されることで、東洋と西洋の連絡や交渉が始まった。「世界史」が生まれた。

本書は世界史に影響を与えた人物を生き生きと描く。彼らは私たち平凡な人間を凌駕する才能を持っていたから、時代に足跡を刻んだ。だからといって彼らは英雄などではない。実はドジな部分、笑ってしまう性癖をもつ、「やばいやつ」だった。この意味で、人間が歴史を創っていくことに違いはないのだ。

こうした事情は世界でも日本でも同様である。平凡な私たちも、歴史をよりよく変えていくことはできるのだ。そう希望を持たせてくれる一冊である。

【書き手】
本郷 和人
1960(昭和35)年東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。中世政治史、古文書学専攻。史料編纂所で『大日本史料』第五編の編纂を担当。著書に『天皇はなぜ生き残ったか』『戦国武将の明暗』など。

【初出メディア
サンデー毎日 2019年9月22日

【書誌情報】

東大名誉教授がおしえる やばい世界史

著者:滝乃 みわこ
出版社:ダイヤモンド
装丁:単行本(ソフトカバー)(184ページ
発売日:2019-07-18
ISBN:4478108587
東大名誉教授がおしえる やばい世界史 / 滝乃 みわこ
歴史を創るも変えるも一人一人の人間しだい