《虐待保育施設》立ち入り調査後に“犯人探し”「○○ちゃんのパパが怪しい」 園長は直撃に開き直り から続く

 前回報じた、東京・足立区竹ノ塚駅にある認可外保育施設「X」で繰り返されていた、A園長(28)と社員保育士B(27)による“虐待保育”。同じ保育施設に勤める臨時職員のR子さんが、幼児に対する理不尽な叱責や暴力などを告発した。

 報道後、「X」には保護者からの非難が殺到した。施設側は対応策として、A園長を短期間の謹慎処分に、保育士Bを解雇した。しかし事態が収まることはなく、「X」は10月4日で閉鎖することが決定した。

「24時間営業だった『X』ですが、今は電気が消され、ひと気がありません。入口のガラスドアに貼られていた施設名が剥がされ、10月4日に閉鎖すると書かれた紙が張り出されています」(地域住民)

保育施設は“閉じられた世界”

 保育施設は保育士と幼児だけの閉じられた空間だ。もし我が子が虐待に遭っていても、怪我など目に見える被害が出るまで保護者が虐待に気づくことは難しい。しかし、もし虐待に気が付いたら、どうすればいいのだろうか。「一刻も早く退園すべき」と語るのは、保育問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子氏だ。

「幼い子供は、小さなおもちゃを誤飲する、うつ伏せ寝で窒息する、ベッドから転落するなど、大人社会では些細と思われることが命に関わる大事故に繋がる可能性があるのです。虐待が行われているような保育施設は、そもそも基本的な保育ができていないことが多い。預け続ければ、最悪の場合、子供の命に関わります。事故が起きてからでは遅いのです。親は気がついた時点で即退園させなければなりません。

 しかし、質の低い保育施設ほど、保育者とまだ言葉の覚束ない幼児だけの“閉ざされた世界”になりがちです。見てすぐにわかる怪我やアザでもない限り、虐待を含めた不適切な保育に親が気付くことはかなり難しいのもまた現実なのです」

 以前「X」に通っていて、今年5月に認可保育園へ転園したリョウくん(仮名・4歳半)の母親チハルさん(仮名)も、虐待には気が付かなかったという。

『何かあったときのためにこの写真は持っておいたほうがいい』

「自宅の近くに新設された認可保育園に運よく入園できたので転園しました。でも『X』に不満があったわけではないんです。Bさんがよく『リョウくん面白くて大好きなんです~!』と言ってくれていましたし、リョウも『X』で楽しく過ごしていたんだと思い込んでいました。ですが前回の記事を読んで初めて虐待があったことを知ったんです」

 しかしチハルさんは「今思えば違和感はあった」と語る。最初に違和感を持ったのは2018年9月21日。この日リョウくんを「X」に迎えにいった際、ベテラン保育士Sさんに声をかけられたという。

「いつも良くしてくれるSさんから『リョウくんのウンチの件聞いた?』と尋ねられました。それまでも『ウンチが服についたので持ち帰ってくれ』と園長から言われたことが2度あったので、そのことかと思ってうなずいたら『写真は見た?』と。見ていないと答えたら、『じゃあ見せてあげる』と言って、園のタブレットを持ってきてくれました」(同前)

 そこに映っていたのは、おむつ替えの際に撮られたという写真だった。リョウくんのズボンから泥状の便が溢れ出し、長袖Tシャツの裾にも付着している。

「家でこんなウンチをしたことはなかったのでびっくりしました。その時にSさんから『何かあったときのためにこの写真は持っておいたほうがいい』と言われ、写真が映った画面を携帯で撮影しました。『何かあったとき』ってどういう意味なんだろう、と疑問に思っていましたが、深く考えなかったんです。でも、あの時に詳しく聞いておけばよかった……」(同前)

じゃんけんで負けた方がおむつを替える

 実は「X」での虐待を告発したR子さんもリョウくんへの虐待を目にしていた。

リョウくんは園にいるとき、大量の泥状便が出ることが度々ありました。でもAさんやBさんは、決して自分で替えようとはしません。リョウくんがウンチをするとあからさまに嫌な顔をして『ウンチしたの誰? リョウ? だったら園内じゃなくて玄関で替えてください』と臨時職員に吐き捨てるんです。私がおむつを替えると、Bさんは『おむつ替えしてくれた先生にお礼して!』とリョウくんにしつこく要求することもありました」

 悪質なのがA園長と保育士Bによる「ウンチじゃんけん」だ。

リョウくんのおむつを替える時には、AさんやBさんは『ウンチじゃんけん』をすることもあった。ウンチをしたリョウくんを放置し、目の前でじゃんけんをする。そして負けた方がおむつを替えるんです」(同前)

 次第にリョウくんは排泄行為そのものに罪悪感を持つようになってしまったのだという。

意に沿わない行動をした幼児は“お叱りベッド”に

リョウくんはウンチをすると、申し訳なさそうに『R子先生、ウンチでちゃった……』と報告するようになりました。AさんやBさんに聞こえないように、小声で。ウンチに限らず、リョウくんはすごく大人の顔色を窺うんです。誰かがおもちゃを落としただけで、バッと先生の表情を確認するので、AさんやBさんは『リョウいちいち顔見なくていいから』などと冷たく言い放っていました」(同前)

 R子さんによると、リョウくんは“お叱りベッド”にもよく入れられていた。泣き止まない子や、AやBの意に沿わない行動をした幼児をベビーベッドにいれて長時間放置するのだ。チハルさんも「リョウが“お叱りベッド”に入っているのを目撃したことがある」と明かす。

リョウが2歳半か、3歳になった頃でしょうか。仕事を終えてお迎えにいったとき、リョウはどうしているかなと園の窓をのぞいたんです。その時ベビーベッドに入って、柵を両手で掴んでいるリョウの姿が見えました。私が『X』に入ると先生がリョウベッドから出してくれたのですが、その途端にリョウが駆け寄ってきて、突然私の脚を抱きしめて泣き始めました。その時は『寂しかったのかな』くらいに思っていましたが、あれが“お叱りベッド”だったんですね。ずっと放置されていたのでしょうね……」(同前)

転園後は「保育園楽しかった」

 チハルさんによると、今でもリョウくんは「ウンチをする時は申し訳なさそうにしています」と語る。しかし転園後には以前のような泥状の便をすることはなくなり、保育園にも楽しそうに通っているという。

「最近リョウが『保育園楽しかった』と報告してくれるようになったんです。『X』にいたときはそんなこと一度もありませんでした。今の保育園からは泥状便をするといった報告は一度も受けていません。泥状便も、ストレスだったんでしょうね」(同前)

 保育の質は心身ともに子供の成育に大きな影響を及ぼす。しかし、通っている保育施設で虐待が起きていたと知っても、すぐに転園できない現実もある。

転園したくてもできない時は、居宅訪問型保育の利用も

 2019年4月1日現在で、全国の待機児童数は1万6772人。保育施設の増加や定員の拡大で、待機児童は減少傾向にあるが、いわゆる“保活激戦区”に住んでいたり、夜間勤務をしていて一般的な保育施設に預けられない場合は途端に転園のハードルが上がる。虐待保育施設であっても「他に選択肢がない」という保護者もいるだろう。前出の猪熊氏が語る。

「『自分が働かなければ子供を食べさせていけない』という状況の保護者は多いです。虐待の事実を知っても、そこを選んだ自分の責任と思いたくないし、『きっと先生も大変なんだろう』と変に自分を納得させてしまう人さえいます。でも、なにかあってからでは遅いのです。『おかしいな』と感じたらすぐに行動するべきです。

 もし転園したいけどできないと途方に暮れてしまったら、とにかく住んでいる市区町村に連絡してみてください。今は自治体の保育の担当部署に『コンシェルジュ』的な相談を受ける人を置いていることが多いです。子どもの園の状況や自分の希望を詳しく説明してみてください。普通の認可保育所だけでなく、居宅訪問型保育を行う会社が認可されていえば利用できるかもしれません」

 居宅訪問型保育は2015年4月から始まった、市区町村による新たな認可保育制度のひとつだ。利用できるのは原則0歳〜2歳児までで、自宅に保育士が派遣される。

「一般的なベビーシッターと違うのは、市区町村が認可して実施していることです。利用料も認可保育園と同じ料金設定のところがほとんどで、認可保育園と同じ時間の保育を自宅で受けることができます。

 原則1日8時間まで、時間は夕方6時頃までの利用のところが多いのですが、制度が作られた当初は夜間の利用も考えられていたので、延長ができるかどうかなども確認してみましょう。

 ただ、利用するには待機児童であることや、障害や疾病などで集団保育が著しく難しい、ひとり親家庭であるなど、条件がある場合が多いです。しかし今回の『X』のように、行っていた保育所が閉鎖してしまった場合にも待機児童として利用することは可能でしょう」(同前)

子供を守るための武器がない状態

 夜間保育が必要な場合には、このほかに短期の宿泊を伴う預かりができる「ショートステイ」制度、平日の夜間に預かる「トワイライトステイ」制度がある自治体もある。

「例えば『X』のある足立区では、ショートステイでは施設に預ける施設型と、養育協力者の自宅に宿泊する在宅型の2種類を、子供の一時預かり制度として設けています。市区町村の担当課に連絡し空き状況を確認したうえで申請すれば、一時的ではありますが子供を預けることができます。トワイライトステイでは平日の夜9時半までの預かりをお願いすることができます」(同前)

 一方で猪熊氏は「緊急時に“使える”選択肢が少なすぎる」とも主張する。

「保育施設で虐待が発覚するなど、早急に他の預け先を確保しなければならなくなった場合に利用できる公的な制度はあまり知られていません。そもそも“使える”制度が少ない。居宅訪問型保育は利用条件が厳しいですし、ショートステイトワイライトステイも利用したいときに空きがあるかどうかは運次第といえます。

 日本では児童福祉法で市区町村子どもの保育の実施責任がありますが、一般的な昼間の時間帯以外には公的な保育が少なく、親が公的なサービスにたどり着くにはハードルが高すぎます」

保活シーズン真っ盛りの今こそ見極めるべき

 また、今年10月から始まった幼児教育・保育の無償化について猪熊氏は「保育の質の低下を招きかねない」と語る。

 「幼保無償化は、子育て世帯への経済的支援や少子化対策として、消費税アップ分を財源に内閣府が推し進める取り組みです。幼稚園、保育所、認定こども園などに通う3歳から5歳のすべての子供たちの保育料が無償化されます。認可に入れなかった場合は、認可外保育施設でも同じく無償化の対象となります。非課税世帯では0〜2歳も対象となります。

 一見、素晴らしい政策に見えますが、『X』のように劣悪な環境の施設も無償化の対象となる危険性があります。認可外が無償化の対象となるためには、本来は国が定める指導監督基準を満たす必要がありますが、今回、この制度の導入に際して、基準を満たしていない施設にも5年の猶予期間が与えられたためです。認可外施設は届け出さえすれば運営でき、書類が整っていれば無償化の対象になります。無償化に対する監査は行われませんから、仮に『X』のような不適切保育が行われていても“国のお墨付き”がもらえてしまうことになります。加えて、国の肝煎りの政策と言っても過言ではないので行政も積極的に無償化認定の施設を増やそうとすることが予測されます。

  2020年の春に向けて今まさに保活シーズン真っ盛りです。追い詰められて『入れればどこでもいい』と思いがちですが、大切なわが子を預ける保育施設が、危険ではないかどうか、親は自分の目でしっかり見極めなければなりません」

 猪熊氏いわく、「X」のような悪質な保育を行う施設は氷山の一角に過ぎないという。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル

「X」の入口に貼り出された「閉園のお知らせ」。「この度は大変ご迷惑おかけして申し訳ありません。」という一言が添えられていた ©文藝春秋