(花園 祐:中国在住ジャーナリスト)

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 中国において「早い、安い、うまい」の三拍子が揃う料理と言えば、牛丼ではなく中国西部地方の甘粛省蘭州市発祥の「蘭州ラーメン」においてほかないでしょう。食べ物の地域差が激しい中国にあって、火鍋とともに全国で食べられる数少ない料理の1つです。近年は日本国内でも提供店が増えているようです。

 今回、筆者は蘭州ラーメンの本場の味を確かめるべく、甘粛省蘭州市に赴きました。本場の蘭州ラーメンはどんな味なのか。複数軒回ってみたレポートをお届けします。

蘭州ラーメンとは?

 まず、蘭州ラーメンとは何かを簡単に紹介しましょう。

 蘭州ラーメンとは前述の通り、中国の甘粛省蘭州市を発祥とする中国の代表的ラーメンの1つです。スープは牛骨ダシに香辛料を加えるなどして作られ、日本のラーメンと比べるとさっぱりとした薄味となっています。トッピングには、豚肉のチャーシューを使う日本とは違い、スライスされた牛肉の切り身が加えられます。

 豚肉を用いないことから、蘭州ラーメンは蘭州市周辺に多く存在する、イスラム教を信仰する回族系住民を中心に普及しました。そして、回族系住民がほかの中国各地にも店を構え提供し始めたことから、現在では台湾発祥の「紅焼牛肉麺」と並び、中国で最もスタンダードなラーメンの1つに数えられています。

おいしくて安価、庶民の味として定着

 蘭州ラーメンはどうして中国全土に広まったのでしょうか。

 理由としては、クセの少ない味もさることながら、安価な「庶民の味」として定着したことが大きいでしょう。

 蘭州ラーメンは10年くらい前であれば、それこそ1杯当たり5元(約75円)もあれば食べることができました。麺の量も日本のラーメンと比べるとかなり多く、とにかくお腹をふくらませるのには打ってつけの料理でした。筆者もお金のなかった頃は、主食のようにほぼ毎日食べていました。

 ただ上記の値段はもはや過去の話です。現在、上海市内の店だと10元(約150円)を下回ることはまずなく、安くても15元(約225円)、店によっては20元(約300円)以上したりします。それでも他の料理に比べればコスパは抜群にいいほうですが。

コンビニよりも多い店舗数

 今回、本場の味を確かめるべく、友人とともに甘粛省蘭州市へ行ってきました。

 空港からタクシーで市内中心部まで向かったところ、まず目につくのは、そこらかしこに軒を連ねる蘭州ラーメン店の多さでした(現地ではよく「牛肉麵」とだけ表記されます)。

 蘭州市内はまだコンビニ店舗が少ないということもありますが、店舗数は確実にコンビニよりも蘭州ラーメン店の方が多いようです。集中するエリアでは、数メートルごとに蘭州ラーメン店が立ち並んでおり、どのお店に入れば良いのか逡巡するほどの多さでした。

 どの店がいいのか現地の人に聞いてみようと、タクシー運転手にお店選びのポイントを聞いてみました。すると「地元の人にはみんなそれぞれお気に入りの店があって、そこに通っている」という、あまり役に立たないアドバイスが返ってきました。

 そこでひとまず、激戦地とされる繁華街周辺エリアへ向かってみました。

清潔な厨房に目を奪われる

 早速、目に入った蘭州ラーメン店に入ると、料金は地方ゆえか上海の店舗よりも格段に安く、ラーメン1杯が8元(約120円)でした。7元(約105円)の牛肉トッピング追加と合わせて15元を支払い、受取のため厨房前のカウンターへ並びます。

 まず目を奪われたのが、その清潔さです。中国の飲食店の多くは厨房が決して清潔ではなく、日本と比べるとあまり厨房の中を見せようとはしません。しかし蘭州市で訪れた店は、どこも厨房がかなり清潔に保たれており、客に調理風景を見せるような設計がなされていました。

 このような設計がなされる背景としては、やはり、麺職人の製麺過程を見せるという目的があると考えられます。注文を受け取ると、厨房の麺職人が小麦粉を練り固め、練った小麦粉を両手を大きく広げながら引き伸ばしては折りたたむという作業を繰り返します。そして、塊だった小麦粉は次第に細い麺状へと形を変えていきます。蘭州ラーメン店ではこのように各店舗で小麦粉から麺を作るのが一般的です。

 なお豆知識ですが、漢字の「拉麺(ラーメン)」に使われる「拉」という字は中国語で「引く、引き伸ばす」という意味です。

無言でラー油をドバッ

 引き伸ばされた麺は茹でられた後、湯切りをしてから丼に放り込まれ、その上にスープ、薬味、具材が入れられます。

 上海の店舗ではそのまま客へ出されるのですが、蘭州の店舗では、その上に無言で真っ赤なラー油がドバっと入れられます。蘭州の店舗ではラー油を入れて完成、というのがデフォルトになっています(他の都市では客がセルフでラー油を注ぎ足します)。

 事前に伝えておけば、ラー油量を調節したり、入れなくしてもらえるようですが、今回は本場の味を確かめることが目的なので、ドバっとラー油が入れられた蘭州ラーメンを食べることにしました。

麺の質で大きく味が変わる!

 こうして出された蘭州ラーメンが下の写真です。

 一口食べてみたところ、まず感じたのは見た目ほどには辛くはないという点です。ラー油が入れられてスープが真っ赤な色をしていますが、放り込まれたラー油は辛さよりも香ばしさが際立っており、スープが比較的薄味なだけに、いいアクセントとなっていました。

 一方、スープ自体の味は、上海市内で食べるものとそれほど大きな違いは感じませんでした。強いて言えば上海で食べるものよりさっぱりしており、飲み終わったあとの後味が優れています。

 一方、麺の質は上海で食べるものと大きく違っていました。麺の細さが均一でムラがなく、スープがよく染み込んでいて食べごたえがあるのです。麺の違いだけでこれほどまで味が変わるものかと、友人とともに驚くほどでした。

 このほかトッピングの牛肉も、やはり産地付近という素材の良さからか、味、噛みごたえともに良く、ラーメンのスープにも合っており、非常においしく感じられました。

店舗数拡大への課題は麺職人の確保

 即席麺大手の日清食品が2019年4月に「カップヌードル 蘭州牛肉麺 」を発売するなど、日本でも蘭州ラーメンは知名度を高めつつあります。それに伴い、東京都内でも蘭州ラーメンを取り扱う店舗が増えていると聞きます。

 ただしメディアの報道によると、店舗数拡大の最大のボトルネックはやはり麺職人だそうです。

 今回、本場の蘭州ラーメンを食べてみて、麺の質がいかに蘭州ラーメンの質を大きく左右するかを痛感しました。それだけに麺職人の不足は、たしかに日本国内での広がりを阻害する大きな要因となりうるでしょう。

 現代の中国では、独自進化を遂げた日本のラーメンが新たなラーメンの形態として普及しています。一方、中国のラーメンも、担々麺をはじめ日本で数多く食べられています。そのなかで蘭州ラーメンはまだまだ開拓途上にあります。蘭州ラーメンが今後日本でも普及するのか、その行く末に注目したいと思います。

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蘭州市内のラーメン店風景