『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリストモーリー・ロバートソンが、禁欲主義がファシズムへとつながるロジックについて分析する。

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アメリカで今、"オナ禁"が真剣に問題視されています。自慰行為を控え、禁欲的な生活を送れば心身のコンディションが良くなる――そんなオナ禁の効果をうたう真偽不明の体験談やネタ記事アメリカにも日本にも昔からあり、検索すれば山ほど出てきます。

しかし、アメリカでは昨今、"オナ禁ムーブメント"が徐々に妙な方向に転がりつつある。先日、英大手一般紙『ガーディアン』も、この問題を大まじめに取り上げて記事化したほどです。

そもそも、「オナニーが体に悪い」というような話は18世紀からキリスト教社会に存在していました。

スイスの医師サミュエル・オーギュスト・ティソ(1728~97年)は著書『オナニスム』でオナニー有害論を唱え、アメリカの医学博士ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ(1852~1943年)も徹底した禁欲主義を推奨し、「性衝動を抑えるため」に弟のウィルとともにコーンフレークの発明に着手しました(その後、兄弟は対立し、ウィルが独立してケロッグ社を設立)。

ただ、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て禁欲運動は徐々に縮小し、20世紀後半に向け、今度は多様性の拡大と軌を一にして性は解放されていきます。その反動として生まれたのが"反PMO"という過激なカウンター的禁欲主義です(PMOは「ポルノ」「マスターベーション」「オーガズム」の頭文字)。

そして迎えたインターネットの時代。2003年、自慰行為を1週間控えると男性ホルモンテストステロン)が45.7%増加したという中国の研究者の発表が米ネット掲示板Redditレディット)』で話題になると、オナ禁がまずは"ネタ"として広がり、2011年にはアレクサンダー・ローデスなる人物が「NoFap(ノー・ファップ=オナ禁)」という組織を立ち上げます。

以来、ネット上ではミソジニー(女性蔑視)的に反PMO、NoFapを訴える男性が増加傾向にありましたが、それでも「非モテ男のねたみ、自虐」の域は出ていませんでした。

ところが最近、この反PMO、NoFapムーブメントが徐々に白人至上主義や反ユダヤ主義の波にのみ込まれている。なぜ、オナ禁と白人至上主義や反ユダヤがつながるのか不思議に思う人がほとんどでしょうが、彼らのロジックはこうです。

〈(オレたち)白人にポルノを与え、マスターベーションさせて無駄な射精を増やし、その分、有色人種の男が白人の女を抱く。そして"混血"の子が生まれて、"純血"はどんどん数が少なくなっていく。

これは白人の種を絶やすスロージェノサイド(緩やかな虐殺)で、ポルノサイトを運営しているユダヤ人が金儲けをしながら裏で糸を引いているのだ〉

このロジックは、ポルノの部分を「移民」などに置き換えれば、アメリカで近年広がっているAltRight(オルトライト)などの極右勢力の主張と重なる部分があります。

そして不幸なことに、陰謀論に免疫がまったくない一部のローティーンは、性や自慰行為に対する無垢(むく)な罪悪感とも相まって、そんな話に飛びついてしまう。

最初は「ポルノ漬けからどう解放されたか」「オナ禁でどれだけ生活が前向きになったか」といったたわいもない記事を読んでいたはずが、気づけばそこに貼られた極右団体のサイトリンクに飛んで"オルグ"されている。オナ禁からファシズムへ――これは思いのほか深刻な話かもしれません。

モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日ニュースロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

「最近、この反PMO、NoFapムーブメントが徐々に白人至上主義や反ユダヤ主義の波にのみ込まれている」と指摘するモーリー氏