「何してるの!」「早くしなさい!」「早く早く」「遅い!」「急げ!」「もっと急がなきゃダメ」「なにノロノロしてるの!」「どんどんやらなきゃダメでしょ」――。

 毎日、こうした不愉快な言葉を子どもに投げつけていませんか。多い人は1日に100回くらい言っているかもしれません。特に朝の忙しい時間帯に、このように子どもをせかす不愉快な言葉が増えてしまう親が多いようです。ただ、こうした言葉は効果がないどころか、逆効果になってしまうことが多いのです。

自己肯定感の欠如や愛情不足

 日頃から、子どもに不愉快な言葉を投げ掛けてばかりいると、次のような弊害が出る可能性があります。

【不愉快な言葉による7つの弊害】

(1)否定的に叱られ続けることで自己肯定感が持てなくなり、「自分はダメな子だ」と思い込むようになる。

(2)「こんなダメな自分はもう親に大切にされていないかも」と疑うようになり、親に対する愛情不足を感じるようになる。

(3)叱られたストレスから、友達とけんかしたり、弟、妹、クラスの弱い子をいじめたりするようになる。

(4)叱られたストレスを引きずると、授業に集中できなくなり学力が下がる。

(5)親の口癖が子どもにも伝染して、人を責め立てる子になる。

(6)丁寧にやると時間がかかるので、物事を雑に済ませるようになる。

(7)叱られるのを避けるために、うそをついてごまかすようになる。

 まずは、こうした弊害があることに気付いてほしいと思います。そして、もっと気持ちのよい言葉、愉快な言葉を使うようにしましょう。例えば、朝の時間帯であれば、次のような言葉です。

【朝の時間帯に効果的な言葉】

(1)「さあ、急ごう」と明るい雰囲気で促す。

(2)「昨日描いた絵、上手だったね。さあ、今日も頑張ろう」など、何か一つ褒めてから促すと、子どもも気持ちよく受け入れてくれる。

(3)「2倍速だよ」「早送り、スイッチオン」など、子どもが面白がる言葉を使う。

(4)「ママと競争しよう。用意ドン」など、子どもの競争好きを刺激してゲーム感覚で取り組めるようにする。

(5)「あと5分で出るよ」「7時3分に出よう」など、具体的な数字で促す。

(6)「長い針がここに来たら家を出るよ」と、アナログ時計で時間を見える化する。

(7)「何分でできるかな? 新記録を目指そう。用意ドン」と言ってストップウオッチを押す。

(8)「7分でできるかな? 用意ドン」と言って、タイマーを押す。

(9)「砂時計と競争だ」と言って、砂時計を逆さにする。

(10)「学校に早く着けば友達と遊べるよ」「5分早く出れば○○快速に乗れるよ」「10分早く出れば、○○公園でブランコに乗ってから駅に行けるよ」「7時10分に出れば、○○君と同じバスに乗れるよ」など、ニンジンで釣る。

宿題をやる気にさせるには?

 帰宅してからも、宿題や勉強になかなか取り掛からない子もいます。そうしたとき、次のような不愉快な言葉を投げつけていませんか。

「また宿題やってないでしょ。どんどんやらなきゃダメ」「なんで、早く宿題やらないの!」「グズグズしてないで、さっさとやりなさい」「いつまで遊んでるの? 宿題やらなきゃ夕飯あげないよ」

 これだと、やはり冒頭で挙げたように、子どもが劣等感にさいなまれる、人を責め立てるようになるなどの弊害が出てしまいます。そうならないためには、次のような言葉が効果的です。

【宿題に取り掛からない子に効果的な言葉】

(1)「遊んでもいいけど、宿題の準備だけはしておこう」と言って、宿題のプリント、漢字ドリル、書き取り帳などを出しておく。やるべき量の見通しがつくので、心理的な負担感が軽減される。これを取りあえず「準備方式」という。

(2)「1問だけやってから遊ぼう」「書き取り、1字だけ書いたら遊ぼう」「プリントに名前だけでも書いてから遊ぼう」など、遊ぶ前や休憩する前にほんの少しだけ手をつけさせておく。すると、見通しがつくので、本格的に取り掛かるときの心理的な負担感はかなり軽減される。これを取りあえず「一問方式」という。

(3)やるべき時間になってもやらないときは、「夕飯前に半分の半分だけやってみよう」「ちょっとだけやっておこう」などの言葉で促すと、取り掛かりのハードルが下がる。

(4)「手伝ってあげるからやってみよう」「ママと一緒にやろう」「ヒントをあげるからやってみよう」「答えを教えてあげるからやってみよう」など、“一緒にやる”ことを前面に出すと負担感が軽減される。

(5)子どもが「疲れた。宿題やりたくない」と愚痴をこぼしたら、「やらなきゃダメ」と門前払いするのではなく、「疲れちゃうよね。宿題って大変だよね」と共感してあげることが大事。そして、少し時間を置いてから、「そうは言っても…一問だけやってみようか」などハードルを下げて促す。すると、大変さを分かってくれた人が言っているので、子どもは受け入れやすくなる。

 5つほど紹介しましたが、大事なのは取り掛かりのハードルを下げてあげることです。取り掛かってしまえば子どものエンジンがかかるので、とにかく取り掛かりのハードルを下げる工夫をしましょう。

 大事なことをもう一度話します。不愉快な言葉で子ども叱り続けていると、いろいろな弊害が出てきます。「不愉快な言葉はもう使わない」と決意してください。そして、不愉快な言葉が出そうになったら、不愉快にならない言葉、愉快な言葉、気持ちのいい言葉に自己翻訳してから言うようにしましょう。心掛けていればだんだんできるようになります。

 この自己翻訳力が身につくと、親子関係のみならず、全ての人間関係がうまく回り始めます。さあ、今から実行しましょう。

教育評論家 親野智可等

子どもに掛けるべき言葉とは?