映画、ドラマへの出演が途切れることなく、常に高いパフォーマンスを発揮している女優・杉咲花。最新作映画『楽園』では、吉田修一原作、瀬々敬久監督という字面通りの重厚な作品のなかで、大きな心の傷を抱える少女・湯川紡(つむぎ)を演じた。「思い出すだけで苦しくなる」という難役に挑んだ杉咲は、これまでの自身のスタイルを大きく変えるチャレンジを試みたという――。

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◇プライベートでは役を引きずらないように
 
 ドラマ『夜行観覧車』や映画『トイレのピエタ』『無限の住人』『湯を沸かすほどの熱い愛』『十二人の死にたい子どもたち』など、心に大きな枷(かせ)を抱えている女性を演じることが多かった杉咲。本作で演じた紡も、12年前に起こった少女失踪事件の被害者と事件直前まで一緒にいたにも関わらず、救うことができなかったことが大きな心に傷になってしまっているという設定だ。

 以前から、役に対してしっかり準備期間を設け、徹底的に向き合う姿勢を取ってきた杉咲だけに、内容的に重い作品の撮影期間中は「オンとオフの切り替えがなかなかうまくできない」と話していたことがあった。そんな向き合い方にも「役を引きずってしまい、苦しいことが多いのですが、それがあるからこそ役に近づける」とポジティブに考えていた。
  
 しかし「そのぶん、精神的な負担が大きく、これでいいのかな」という思いも心にはあったという。そこで本作では「撮影中は役に集中するけれども、現場から離れたプライベートでは役を引きずらないようにしよう」とスタンスを変えた。撮影がないときは、ロケ地である長野県から東京に戻り、友人と遊ぶなどして、オンとオフをしっかり切り分けた。

◇分からなくてもいい

 さらにもう一つ、この現場を経験したことで大きく変わったことがあった。それが「分からなくてもいい」という考え方。これまで、自らが演じる役は「しっかりと自分で理解しなければいけない」という思いが強かったという。しかし本作で演じた紡という役は「台本を読んで理解しているつもりで現場に行くのに、いざ演じようとすると、頭の中が真っ白になってしまう」というほど杉咲を混乱させた。「悔しさや悲しみ、怒りがこみあげてくるのですが、それを超えて無になってしまう感じ。どうせ分からないなら、そのまま現場に行ってみようと思いました。そうしたら、思いもよらぬ感情が沸いてきました」。
 
 理解しても分からない感情に対して杉咲は「分からなくてもいい」と開き直った。すると現場に行くことが楽になった。ただ、正解は分からなかった。そこで撮影が終わったあとの打ち上げで、瀬々監督に「私の芝居はどうでしたか?」と聞いたという杉咲。すると瀬々監督は「どうだったかとかではなく、もう撮ってしまったものはしょうがない」と言い放ったという。その言葉にすごく落ち込んだという杉咲だったが、よく考えると「確かに考えてもしょうがないな」とさらに開き直れた。

◇ラジオは“個”の杉咲花としての楽しみ

 オンとオフの切り替え、「分からなくてもいい」という考え…これまで自身にかけ続けてきたプレッシャーから開放するというスタンスをとった杉咲。こうした方向性の同一線上に位置するのが、ラジオのDJの仕事なのかもしれない。自身がパーソナリティーを務める『杉咲花Flower TOKYO』(TOKYO FM/毎週日曜8時)を始めて、この10月で1年になる。「ずっと自分がやりたいと思っていたことだからかもしれませんが、とにかく楽しいんです」と目を輝かせる。続けて「スタッフさんたちも優しいですし、ラジオのブースに入ると、本当にハッピーな気持ちになります。女優の仕事も楽しいのですが、ラジオは個の杉咲花として楽しめています」。
 
 本作で、アプローチ方法を変えたことによって生まれた良い意味での余裕は、杉咲の表現を、さらなるステージに上げるかもしれない。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 映画『楽園』は10月18日全国公開。

杉咲花  クランクイン!