この2カ月以上、韓国社会を揺るがせ、混乱と分裂を招いた張本人である曺国(チョ・グク)氏が14日、ついに法相を辞任した。曺氏は、前日の13日には日曜日にもかかわらず、検察改革に向けた与党と政府、大統領府との合同会議に出席し、翌14日午前、記者会見を開いて検察改革案を発表した。だが、そのわずか3時間後、電撃的に辞任を発表したのだ。

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大統領府は曺国氏自身の決断と強調

 曺氏は午後1時半ごろ、『エンバーゴ(報道猶予):2019.10.14.(月)14:00から報道』という前提をつけて、メディア各社に自分の辞任を明らかにする文書を配布した。『検察改革のための役割はここまでです』というタイトルの文書には、「長官としてわずか数日を働くとも、検察改革に向けて私の役目は最後まで果たしてから辞めたいという覚悟で毎日を耐えてきた」「もう私の役割はここまでだと思う。一人の市民に帰りたい」という、曺氏の心境が込められていた。

 韓国メディアによると、曺氏が辞任の意思を最終的に固めて大統領府に伝えたのは、13日の合同会議の直後だという。

 大統領府の関係者はあくまでも「曺国法相が自ら辞任を決定した」と強調した。しかし、韓国メディアでは曺氏の辞任をめぐって、大統領府と与党による圧迫があったのではという推論も浮上している。朝鮮日報系列のケーブル放送局のTV朝鮮は、13日の合同会議直後に「行くべき道はまだまだ長い」「今回こそは最後までたどり着いてやる」「最後まで責任を取る」と語った曺氏が、14日に配布した辞任表明文では「ここまでが私が役目だ」という態度に変わったことを指摘し、14日に大統領や与党関係者から辞任を催促されたという推測ができる、と解説した。

 東亜日報系列のケーブル放送局のチャンネルAは、曺氏が辞任文を慌てて作成したため、「法務部」が「法部務」になっているなど、スペルが間違っていたと指摘した。

 ところで、大統領府が「自発的」な辞任であることを強調する背景には、来年の4月の総選挙を控え、大統領と与党の支持率下落が止まらないことに対する危機感があるとみて間違いないだろう。

危険水域に迫る支持率

 文大統領の支持率は、曺国法相の任命後から下落し続け、大統領選挙の際の得票率(41.1%)を下回る寸前だった。なかには支持率はすでに30%台へ落ち込んだという衝撃的な世論調査もあった。中央日報が9月23~24日に実施した世論調査では、文大統領の支持率は37.9%だった。政府寄りの明日新聞(ネイル新聞)の世論調査でも支持率は32.4%まで暴落していた。この2つの世論調査は、なぜか世論調査を依頼したメディアが結果を報道せず、選挙管理委員会のホームページにだけ掲載し、朝鮮日報をはじめとする保守紙から論議を提起されるなど、韓国メディアを騒がせていた。

 文大統領の支持率が他の世論調査機関よりも高めに出る傾向があるリアルメーターでさえ、10月第2週目の文大統領の支持率は41.4%へ下がっていた。電話ARS方式(プッシュ回線を通じ音声ガイドによって行う投票方式)の調査で回答率がわずか5%前後のリアルメーター調査は、その低い回答率と調査方式によってしばしば公正性問題が指摘されているが、その調査でさえ「史上最安値」を記録してしまったのだ。

 さらに、10月第2週目リアルメーターによる支持政党の調査では、与党の共に民主党(35.3%)と第1野党の自由韓国党(34.4)の支持率が、「誤差の範囲内」とも言えるレベルで拮抗している点も与党には衝撃的だった。これまで共に民主党の支持率がいくら下がっても、自由韓国党の支持率はまったく上がらず、浮動層だけが増える現象が続いてきた。それゆえ、共に民主党としては支持率下落をあまり気にしてこなかった。

 しかし、曺国問題が長期化するにつれ、浮動層が曺氏をかばい続ける共に民主党に愛想をつかし、「曺国退陣」を叫ぶ自由韓国党に流れる現象が顕著になっていた。

 韓国では、来年4月に総選挙を控えている。なのに、文大統領も与党・共に民主党も支持率の下落に歯止めがかからない。この状況が大統領府と与党の危機感を刺激しないわけがない。そこで、曺氏の「自発的」な電撃辞任をもって事態の反転を図ろうとしたのだろう。

「曺国辞任」では何も解決されない

 だが、曺国氏が辞任したからといって、何か問題が解決されるわけがない。

 なにより、検察の捜査が続く限り、曺国氏をめぐる疑惑は引き続きマスコミが追いかけることになるし、これは文政権支持率に継続的な「下げ圧力」の要因として影響を及ぼすことになるだろう。それに検察の捜査は、もはや曺国氏の家族を越え、大統領府民情首席室を狙っている。

 結局、曺国氏の法相辞任は文在寅ムン・ジェイン大統領のレームダックを招くことになるだろう。というのも、今や野党は文大統領の責任を問うとして、追及の矛先を曺国氏から文大統領へと変え、「国民に謝罪せよ」と総攻撃に乗り出している。曺氏の辞任直後、自由韓国党の黄教安(ファン・ギョアン)代表は声明文を発表し、「次は文大統領の番だ。国民の傷と憤り、国家的混乱を招いた人事惨事、司法破壊、憲政蹂躙について、大統領が国民の前で痛烈に謝罪しなければならない」と述べた。正しい未来党も文大統領による国民への謝罪と、大統領府秘書陣の解任を要求している。

 曺国問題で怒りのろうそくを手にした大学生らも同様だ。曺氏辞任後、これまで大学生の集会を推進してきたソウル大学集会推進委員会は声明文を発表し、「私たちは聞き続けてきました。“これが正義なのか、返答せよ、文在寅!”と。 誰も答えてくれなかったこの質問に、返事してくれる時まで私たちは聞き続けます。曺国辞退は、この質問の答えではないということは、あまりにも明らかです」と、闘争を続ける考えを明らかにした。

 要するに、「反曺国」の声を上げていた韓国の保守層は、いまや「反文在寅戦線」として結集されつつある。朴槿恵パク・クネ)前大統領の弾劾以降、求心点を失って彷徨していた保守性向の韓国人たちが曺国問題を機に、「反文在寅」の旗印の下で再び団結しはじめているのだ。これに浮動層までが加勢している。今のところ、「曺国辞任」が、文政権や与党の支持率下落に歯止めをかけるようにはまるで見えないのだ。

 経済危機、外交危機などでただでさえ国民の支持を失いつつある文在寅政権だが、曺国氏の法相「強行」任命とその辞任をきっかけに、絶体絶命の危機に直面した。自らの判断が招いた非常事態を、文大統領はどのような思いで眺めているのだろうか。

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10月14日、法相辞任の表明直前、果川市の政府庁舎で検察改革案を発表する曺国氏(写真:YONHAP NEWS/アフロ)